2025年1月号 No.206
特集「産業素材部門における研究開発の方向性」
産業素材部門は、当社5セグメントの中でも唯一市場別でなく、素材という当社側の製品分類によって纏められた部門であり、従い、各事業分野における顧客や市場、アプリケーション、それに向けた研究開発の方向性には統一性が見出しづらい。一方で、産業素材各部門それぞれで、素材、材質に特徴を持たせ、それを当社の優位性として他社との差別化を図ろうとする点や、その開発に後述する計算科学、機械学習等を用い、科学的かつ効率的な研究開発アプローチには共通性も見ることができる。今回、産業素材特集発刊にあたり、素材にフォーカスを当てた各事業での開発の歴史と今後の方向性を簡単にご紹介する。
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切削加工では加工中の刃先を直接見ることができないため、加工条件の最適化には熟練作業者の勘や経験に頼ることが多かった。近年、工作機械に内蔵された各種センサから総合的に切削力などの加工状態を監視する技術が実用化されている。しかし、切削点から測定点が遠く、その感度や精度は十分ではない。そこで、当社では切削点に最も近いインサートやドリル、エンドミルを保持するホルダにひずみセンサを組み込みデータを無線で機外に転送することで、加工中の切削力が測定できるセンサ搭載切削工具、センシングツールSumi Forceを開発した。Sumi Forceは工作機械に簡単に取り付けられるため、顧客実機、実製造ラインでも切削力の測定が可能である。本稿では、Sumi Forceを活用して、顧客の加工を最適化するソリューションサービスと、切削力の変化から工具摩耗や工具の欠損などの異常を検知する技術の開発について報告する。
3.8 MB
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切削工具に対するニーズは年々変化しており、電動化が進む自動車産業ではアルミ合金製部品をより高能率で加工するため工具の軽量化が求められている。航空機産業では、エンジンの騒音低減や燃費向上のため、切削熱の発生が著しい難削材であるニッケル基合金やチタン合金の使用量が増えており、刃先をより効果的に冷却可能な内部給油式工具が求められている。当社ではこれら市場ニーズの変化に対応するため、Additive Manufacturing(AM)を活用した革新的な工具の開発を進めている。今回、AMによる複雑な内部構造の形成を活用し、肉抜きで軽量化しつつ刃先剛性を維持したアルミ加工用カッタ、および、内部流路の最適化で刃先全体を均一に冷却可能な難削材用カッタを実現した。
6.9 MB
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近年、自動車産業をはじめ各産業分野でGX(グリーントランスフォーメーション)の実現に向けた取り組みが進んでおり、切削加工工程でもCO2排出量の削減が要求されている。CO2排出量削減には工作機械の消費電力量低減が効果的であるため、工作機械の稼働時間を低減できる高能率加工に特化した工具への需要が高まっている。この要望に応えるため、当社ではアルミ加工用の「マルチドリルMDA型」、および鋼・鋳鉄加工用の「マルチドリルMDH型」を開発した。「マルチドリルMDA型」は高い加工精度を維持しながらアルミの高能率加工を可能とし、「マルチドリルMDH型」は鋼・鋳鉄加工時の負荷および消費電力を低減しつつ高能率加工を実現する。これらの工具により穴あけ加工での省電力化に貢献する。
9.5 MB
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自動車部品などで用いられる鋼の切削加工においては、環境負荷の低減や資源の効率的な活用を目的とした様々な取り組みが進められている。当社は連続加工から断続加工まで幅広い加工環境での安定加工を実現する工具として2016年に新CVDコーティング技術「Absotech」を適用した鋼旋削材種AC8000Pシリーズを発売し、順次製品ラインアップを拡大している。近年の鋼旋削加工では特に加工時間の短縮や切削液を使用しないドライ加工への要望が以前にも増して高まっている。当社はこれらのニーズに応えるべく、高能率加工やドライ加工で特に優れた性能を発揮する新材種「AC8115P」を開発した。これらの加工おいては工具刃先が高温になるため、工具の摩耗進展や塑性変形の抑制が課題となる。「AC8115P」は耐摩耗性と耐塑性変形性を大幅に向上させた材種で鋼旋削加工において加工コストおよび環境負荷の低減に貢献する。
8.2 MB
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チタン合金は軽量かつ高強度であり、耐食性にも優れることから、航空機産業で多用されているほか、生体親和性も高いことから、医療産業向けの用途も拡大している。近年、これらの産業は伸長が著しく、それに伴いチタン合金を加工する工具の需要は今後大幅に増加すると見られている。一方、チタン合金は工具との化学反応による凝着や、熱伝導率の低さによる加工時の摩耗で、工具の寿命が著しく低下する問題がある。そこで当社ではこのようなチタン合金の旋削加工において、安定長寿命を実現する新しい工具材種「AC9115T」および「AC9125T」を開発した。これらの新材種はチタン合金の旋削加工において当社従来材種と比較して2倍以上の長寿命を実現し、加工コストを大幅に低減させることが可能となった。
8.7 MB
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スミボロンCBN工具は、ダイヤモンドに次ぐ硬度と熱伝導率に加え、鉄系金属との反応性が低いcBN粒子を金属やセラミックの結合材で結合させた焼結体を用いた工具であり、高硬度で削りにくい焼入鋼加工や高精度加工が求められる鋳鉄・焼結合金加工の加工能率向上やコスト低減に貢献してきた。近年、自動車や建設機械等の重要な構成部品である鋳鉄・焼結合金部品の加工では部品の高精度化に伴う高い寸法精度と表面性状に加え、製造ラインの省人化に伴う安定長寿命と高能率化の需要が高まっている。今回これらの要求に応えるため、「BN7115」と「BN7125」を開発した。「BN7115」は耐チッピング性を改善した仕上げ加工用新材種であり、高い加工面品位が求められる場合においても安定加工を実現する。「BN7125」は耐欠損性を改善した汎用加工用新材種であり、工具負荷が大きい環境下でも安定長寿命を実現する。本稿ではBN7115とBN7125の特長と性能について述べる。
3.1 MB
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スミボロンCBN工具は、cBN粒子にセラミックス若しくは金属結合材を混合して焼き固めたCBN焼結体を用いた切削工具である。中でもコーテッドスミボロンは 、自動車部品などの素材である焼入鋼を加工する工具材料として適用範囲を拡大してきた。近年の製造現場では、部品加工の多様化に伴う変種変量生産体制や環境対応の重要性から設備の消費電力低減によるCO2排出量削減、価格競争に対応するために生産ラインの省人化を構築する傾向にあり、切削工具には高能率化と長寿命化の強い要求がある。様々な部品形状におけるこれらの要求に応えるため、当社はBNC2100シリーズと題した「BNC2105」「BNC2115」「BNC2125」「BNC2135」の4材種を新たに製品化した。
4.3 MB
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PC鋼材の緊張作業は、コンクリート構造物へ適切なプレストレス力を導入する作業であり、構造物の耐久性に影響を及ぼす重要な工程である。この緊張作業において、従来はPC鋼材の緊張機器を手動で操作し、アナログ式測定器を目視で読み取って記録するという作業が行われていた。そのため、作業に人手を要する、測定値において人の読み取り誤差が生じる、動作中の緊張機器に人が近づく必要があるといった課題があった。自動緊張管理システムは制御装置やデジタル式測定器を用いてこれらの作業を自動化する緊張機器であり、緊張作業の省人化、測定精度の向上、安全性の向上に寄与する。本稿では無線通信を採用することで通信ケーブルの配線を不要とした無線式自動緊張管理システムの概要ならびにその適用例と適用効果について報告する。
7.7 MB
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ゴム製品の補強材として用いられるスチールコードは、燃費、耐久性、操縦安定性、騒音対策等を高い水準で要求される自動車用タイヤにとって重要な部材である。従来の開発では、要求性能から適切なスチールコードを実証的に検討し、多くの評価を実施、必要に応じ修正するプロセスを繰り返していた。しかし、この手法では試作評価に膨大な手間、時間等のコストを要し、開発期間が長期化すること、廃却屑の発生等によりサステナブル社会の実現に向けた対応が困難であること、また、タイヤ性能はタイヤ設計因子の影響も受けることが課題となっていた。当社はスチールコード特性も反映できる性能予測技術を開発することで、これらの課題に対処した。結果、スチールコードを含むタイヤ設計における仕様検討、絞込み及び評価の技術的解釈を高い精度で効率よく実施可能となった。タイヤ性能向上、SDGsへの貢献を達成することにもつながり、顧客からも高く評価されている。
2.6 MB
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高強度鋼線(ばね用鋼線)を用いた、高い刈取能力を有し、安全な草刈り機用刈刃への適用検討を行った。当社製異形線を用いて刈刃を製作し、(国研)農研機構の圃場にて刈払機およびリモコン草刈り機による実証試験を行った。鋼線の断面形状を、単純な平角線から、鋭角な頂部を有する5角形断面とすることで、従来のチップソーに匹敵する刈取り性能が得られた。リモコン草刈り機では、ナイロンコードでは不可能な、直径10mmを超える灌木や、木化した植物を刈取ることができた。また、刈刃の取付け部を回転可能なフリー刃構造とすることで、鋼線刃の疲労破壊を抑制するとともに、キックバック(危険な反動現象)を起こさない刈刃が得られた。一方で、石跳ね試験では却って石の飛散が大きく、硬質物との衝撃試験では取付け部強度に課題が見られたので、対処方法を提案した。
9.8 MB
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カーボンニュートラルの実現にはCO2排出量の削減と同時にCO2吸収量を増大させることが必要となる。CO2吸収量を増大させる方法には、CO2を原料とするものづくりであるカーボンリサイクルがある。ここでは当社製造現場と親和性のある鉄とCO2から機能性素材である炭酸鉄(商標名:metacol)を生産する方法について報告する。炭酸鉄を自社製品に活用し、排出されたCO2を材料循環に取り入れて大気から隔離し続けることを目指す。原理検証、機能性評価、装置設計、工場実証、知財保護を経て、今後は顧客価値を検証する。CO2収支マイナスの達成と採算性を確認し、カーボンリサイクルを通じたカーボンニュートラルへの貢献を目標とする。
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サステナビリティ社会の実現に向け、圧粉磁心とそれを採用したアキシャルギャップモータ(AGM)を開発した。圧粉磁心の製造過程におけるCO2排出量は電磁鋼板に対し約1/4と試算され、更に、モータステータを粉砕して得られた粉末を圧粉磁心の原料として再利用する水平リサイクル技術を開発、リサイクル前後での磁気特性変化がほとんどないことを実証した。また、駆動モータを想定した75kW級では出力密度12.6 kW/kgのAGMを設計し、圧粉磁心とAGMが高出力密度化による部材使用量削減に有効であることを示すとともに、20kW級では製造時のCO2排出量が低いフェライト磁石を採用したAGMにて、Nd焼結磁石を採用したラジアルギャップモータと同体格・同出力・高効率を実証した。
4.5 MB
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粉末冶金法は粉末を金型で圧縮して成形体を作製し、焼結することで高強度化させる製法である。成形型構造の工夫によって完成品に近いニアネットシェイプでの成形が可能となる。サポートパーキング部品は、ガソリン車だけでなく、ハイブリッド車や電気自動車など多くの車種に搭載されており、駐車時に車輪の回転を止めるパーキングロックシステムに使用され、その形状は多種多様である。今回、粉末冶金法の形状自由度を活かしてサポートパーキング部品の開発に成功し、焼結市場拡大に貢献できた。具体的な開発事例である、粉末除去による密度バランス調整、異形2個押し成形、横溝(アンダーカット)2個押し成形、複数部品一体化を紹介する。さらに、部分的にレーザー焼入れを適用することで精度を確保しながら環境に配慮した開発も実現できた。
2.4 MB
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脱炭素を実現する有力候補の一つであるフュージョンエネルギーの研究活動が盛んになっている。核融合炉の構成機器のうち、2000℃を超える超高温に晒されるダイバータにはタングステンが使用されている。発電実証に向けた原型炉では長時間の運転が想定され、核融合炉に用いるタングステン(W)材料にはより高い機械的健全性が求められる。㈱アライドマテリアルでは大学などとの共同研究を通して種々の材料を試作評価し、カリウム(K)ドープWの有効性を見出してきた。これを実際にプラズマ対向機器に適用してくことを目標にプラズマ対向機器に適用可能な規模を有するKドープW厚板を開発した。本稿ではそれら材料の主な特性の評価結果について報告する。
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近年、米国では歩行者の死亡事故が急増しているため、交通事故防止を目的とするシステムに使用する横断者検知センサの需要が高まっている。しかし、既存センサの多くは垂直方向の検知範囲角度が十分ではない。実際の交差点では、センサは高所に設置されるため、センサ直下付近が死角となる。そのため、設置地点と横断歩道が隣接する場合、横断歩道の一部や横断歩道の流入口に存在する歩行者を検知できない。この課題への対策のため、筆者らはレーダにカメラを組み合わせたフュージョンセンサを試作した。このフュージョンセンサは、カメラがセンサ直下の横断者を検知することでセンサ直下の死角を解消する。また、カメラ画像に対して物体認識AIを用いることで、レーダ単体では困難であった検知対象の種別の識別も可能となる。本稿では、試作したフュージョンセンサ構成の紹介と性能検証実験の結果を報告する。
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電線ケーブル製品はその実使用環境を想定し、曲げをはじめとした様々な外力印加時の振る舞いを評価することが重要である。我々は、最新のX線CT装置を用いた外力を印加しながら観察を行う技術、および画像解析を始めとしたデータ解析技術、を活用し、ケーブル製品の外力に対する動的振る舞いの評価を推進している。本稿では前半で、最新のX線CT観察事例(曲げた状態での観察および、従来困難であった1メートル級の大きな試料の観察)を紹介し、後半では曲げ変形を受けたケーブル製品のX線CTデータに対する画像解析技術を紹介する。これらには当社独自の技術が詰まっており、ハード面・ソフト面の両方の技術に基づき、各種製品の外力下での動的振る舞いを明らかにすることで、よりよい設計や品質課題の解決に活かしている。
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地域新電力会社向けとして初めてのレドックスフロー電池設備を柏崎あい・あーるエナジー㈱(新潟県柏崎市)に納入した。再生可能エネルギーの導入拡大が進む中、今後導入が加速するとされている6時間以上の長時間容量蓄電池を直接電力系統に接続した蓄電所の導入事例である。
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磁石、セラミックスなどの焼成工程ではモリブデンの板・棒材により製造した焼成用敷板、高温炉のヒーター、リフレクタが数多く利用されている。焼成物の品質向上のために、焼成時のガス抜き性、敷板と焼成物の固着抑制などの観点からモリブデン製のメッシュ(網材)の需要が高まっている。このメッシュ材は直径0.5mm以下の線材により製作される。本報では、モリブデンメッシュとともに、実使用時に確認された“ほつれ”や“高温使用による破損”という問題に対し、改良を施した「折り返し付メッシュ」や「耐折損性向上メッシュ」を紹介する。
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