2022年1月号 No.200
特集「技術開発を通じた脱炭素社会への貢献」
地球温暖化抑制に向けた脱炭素社会への取り組みは、世界的に大きな流れとなっている。国内においても、一昨年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」に基づく「グリーン成長戦略」にて、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどに総力を挙げて取り組む方針が打ち出され、脱炭素イノベーションを日本の産業界の競争力強化につなげるねらいで、「グリーンイノベーション基金」も創設された。 とりわけ大きな期待がかけられている洋上風力発電は、官民協議会の「洋上風力産業ビジョン」にて2040年までに30~45GWとの意欲的な目標が示されている。一方、再生可能エネルギー資源の偏在の問題や、洋上風力発電においては台風等過酷な気象条件への対応などの課題がある。
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脱炭素社会の実現に向け、欧米先進諸国や日本では化石燃料を中心としたエネルギー構成から太陽光発電などの再生可能エネルギーを主力とした構成に組み換えが行われようとしている。しかし再生可能エネルギーは天候の影響で出力が変動するため安定した電力を供給することが難しいという課題がある。この課題解決の一つとして、再生可能エネルギーの出力変動を平準化するために需要家側に中小規模太陽光発電装置や蓄電池などの分散型電源を導入する取り組みが進められている。将来再生可能エネルギーが大量導入されていく中で、エリア内に分散配置された電源を統合し、安定的にかつ効率よく運用するエネルギー管理システムが重要な役割を担うことになる。本稿では、分散配置された電源を有機的に結び付け統合的に制御する自律分散+階層型の次世代エネルギー管理システムについて論じる。まず、分散電源を統合管理することの技術的な課題について述べ、次にその解決に向けた先行技術動向を整理する。最後に当社エネルギー管理システム「s EMSA-μGrid」について、その特徴と適用領域について説明する。
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再生可能エネルギーである太陽光発電の普及や電力の自由化などを背景に、種々の社会問題を解決するため、エネルギーの地産地消や蓄電池、EVによる蓄電などについて、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメントの実現に注目が集まっている。㈱日新システムズ(以下、NSS)は、IoT技術を通じてエネルギー分野における課題を解決するため、主に一般需要家向けのビジネス展開に必要となるゲートウェイ装置および、クラウドシステムによるソフトウェアやサービスを提供している。 本稿では、沖縄県宮古島市における「島嶼型スマートコミュニティ実証事業」にて構築したエリアアグリゲーションシステム(以降SPSS-Hと記載)の技術内容について紹介する。
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高分子材料に電圧を印加した時に流れる微小電流は材料内で起こっている物理現象を反映しており、材料の誘電・絶縁現象を理解する上で非常に重要である。その解析手法として、我々は電流積分電荷法(Q(t) 法)を用い、電流を積分して電荷量として計測する手法を検討している。ここでは、矩形波電圧印加直後の瞬時充電電荷量(Q(0))と時間tm 後の電荷量(Q(tm))の比である電荷量比(Rc = Q(tm)/Q(0))を新たなパラメータとして導入し、交流および直流ケーブル用の架橋ポリエチレン(AC-XLPE およびDC-XLPE)を試料とし、数十時間の課電を行ってその空間電荷および伝導挙動について解析を行った結果を紹介する。
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温室効果ガスの削減が世界的に急務となり、洋上風力発電の導入が進んでいる。発電した電力を送電する海底ケーブルに関し、近年、風車の出力増加に伴う高電圧化(66kV級)や大容量化と、製造性、コスト、施工性を改善するために遮水層を省略するケーブル構造(非遮水海底ケーブル)が期待されている。遮水層の省略は、水トリーと呼ばれる絶縁体の劣化による事故リスクを高めるため、当社は耐水トリー性の絶縁体の検討を進め、2018年に制定された遮水層の省略可否を判定する規格(CIGRE TB722)を満たすことを確認できた。また、長期運用や将来の更なる風車の出力増加を見据え、66kV級を超える高電圧下でも使用できる高い耐水トリー性を有する絶縁体の検討にも取り組んでおり、今後の洋上風力発電の導入促進に貢献できるものと考える。
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近年、再生エネルギーの導入拡大に伴い、直流送電線の建設や計画が増加している。直流ケーブルには、MI ケーブルやOF ケーブルといった油浸紙絶縁ケーブルが用いられてきたが、交流ケーブルと同様に環境面への配慮から、XLPEケーブルの採用が拡大している。当社は長年に亘って直流XLPE ケーブルの研究開発を行い、優れた特性の直流XLPE を実用化、電源開発㈱に納入した直流250kV XLPEケーブルが2012年に運転を開始した。これは直流XLPEケーブル線路としては世界最高電圧(当時)であり、かつ極性反転を行う線路への納入は世界初であった。その後、NEMO Link Limited社の直流400kV連系線(直流XLPEケーブルの世界最高電圧を更新)や北海道電力㈱の直流250kV連系線等を完工、現在も新たなプロジェクトに取り組んでいる。当社の直流XLPEケーブルは、常時導体許容温度が交流用と同じ90℃で、かつ極性反転が可能といった特長を有しており、今後の再生エネルギーの普及に伴い、ますます増えていくであろう直流送電線のさまざまなニーズに応えることができるものと考える。
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現代社会において電力の安定供給の重要性は益々高まっているが、落雷等による送電線事故は皆無という状況に至っておらず、万一、送電線事故が発生した場合、迅速かつ効率的に事故発生箇所を特定して復旧対応を行う必要がある。特に、架空線と地中線が混在する送電線路においては、事故復旧の対応方法がそれぞれ異なることから、事故発生箇所が架空線か地中線かを判定することは、早期復旧する上で重要とされている。架空地線及び地中線に電流センサを設置して、その電流情報から架空線と地中線の事故を判定する「架空線/地中線事故判別システム」を開発し、電力会社に本格的に導入されたことから、その概要について報告する。
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地中送電線路の点検保守は、従来人手によって定期的に巡視等を行うTBMから、IoTやAIを活用したデジタルトランスフォーメーションを促進し、必要な時に効率的に保守を行う、より高度なCBM への転換を図るといったスマート保安の推進が要望されている。IoTを実現する課題として、地中送電設備の多くを占める管路布設ケーブル設備の保守情報を取得するための安価で安全かつ信頼性の高い通信方式の確保が困難であったことが挙げられる。本論文では、マンホール内から66kV の既設の電力ケーブル(XLPE)の金属遮蔽層を伝送路として利用して、保守に使用するセンサ情報やカメラ画像を収集する保守監視システムを東京電力パワーグリッド㈱と共同で開発を行ったので紹介する。
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本稿では、従来の200μm光ファイバを用いた間欠12心光ファイバテープ心線(以下、200μm間欠12心テープ心線)を実装したデータセンター向6912心ケーブルを細径・軽量化した細径高密度6912心光ファイバケーブル(以下、細径6912心ケーブル)の構造、特性および施工性について報告する。使用した200μm間欠12心テープ心線は、長手方向に間欠的にスリットが入った構造による柔軟性を持ち、さらに従来の250μm テープ心線や200μm 間欠テープ心線同士の一括融着接続性も持ち合わせている。今回はさらなる細径高密度化を実現するため、光ファイバの耐側圧性(以下、マイクロベンド耐性)向上およびスロット構造最適化、高強度シース材の適用等を行い、従来比約34%のケーブル断面積低減を実現した。本構造は細径化を実現しつつ、従来のスロット型の特長である曲げ方向性がなく、布設作業性に優れる構造とした。布設作業性に関して、従来の2インチダクトよりも細い1.5インチダクトに牽引しても通線の問題がなく、さらに押し込み、圧送工法も対応可能であることを確認した。本ケーブルを用いることで管路内での光ファイバ心線密度の向上と施工性の両立、さらには細径化、長尺化による材料使用量減による耐環境性の向上も見込まれる。
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コア間結合の強さが異なる3種のコア励起マルチコア・エルビウム添加光ファイバ増幅器を試作し、結合4コア光ファイバ増幅器で電力効率が24%と、コア励起方式が電力効率において優れていることを確認した。クロストークは非結合マルチコア光ファイバ伝送において重要なパラメータであり、非結合4コア光ファイバ増幅器において-43 dBと最高水準の結果を得た。結合マルチコア光ファイバ伝送において重要なパラメータであるモード依存損失は、非結合マルチコア光ファイバ増幅器や弱結合マルチコア光ファイバ増幅器のコア依存利得に対応し、弱結合7コア光ファイバ増幅器で0.52 dBと最高水準の結果を得た。
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近年、航空機、石油ガス、医療、自動車産業等において、その機器や部品に耐熱性や耐食性に優れるNi(ニッケル)基、Co(コバルト)基、Ti(チタン)合金等の材料が多く使用され、その使用量が今後大幅に増加することが見込まれている。当社は、これら難削材の連続加工から断続加工まで幅広い加工領域で安定長寿命を実現する工具材種として、新PVD コーティングを適用したAC5015S/AC5025S を発売している。一方、難削材の切削加工においてはさらなる加工能率の向上が求められており、当社ではAC5000S シリーズに新たに高能率加工用材種「AC5005S」を追加した。AC5005S は難削材旋削加工において、高い耐摩耗性・耐塑性変形性と耐欠損性を両立させた材種であり、AC5015S/AC5025Sと併せて幅広い難削材加工における加工コストの低減を実現する。
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製品の開発や品質向上には構成する材料の構造、組成等の分析が不可欠である。中でも、例えば半導体基板、めっき、樹脂の表面処理など、製品表面の状態、具体的には表面近傍の化学種の深さ分布(プロファイル)が製品特性に影響するものが多く存在する。未知試料の表面近傍における化学種ごとの深さプロファイルを非破壊で評価したいという、従来の分析手法では実現困難であったニーズに応えるため、X 線光電子分光(XPS)分析データに対する新たなデータ解析技術「MSM」を新たに開発した。当社は情報深さの異なる3種類のXPS装置を利用することができ、それぞれMSM解析と組み合わせることで、深さレンジの異なるプロファイル評価が可能である。本論文では実際に3種類のXPS装置による分析データに対してMSM解析を適用することで、多様な製品に対して非破壊での化学種深さプロファイル評価が可能であることを示す。
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近年、脱炭素社会の実現に向け電気自動車へのシフトを目的として各自動車部品の電動化が進んでいる。しかし、電動化は制御対象を電気信号で制御するバイワイヤ制御の採用が拡大するが、バイワイヤ制御は鉛バッテリなどの車両電源が異常となった場合に、制御ができなくなる課題がある。住友電工グループの住友電装㈱、㈱オートネットワーク技術研究所は、車両電源異常時にも複数のバイワイヤ制御を継続するための統合バックアップ電源を開発した。
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近年、高性能PC、自動運転システムの普及、またスマートフォンなどによる高画質動画データの通信など、データの処理能力向上が進んでいる。そのため、これらに用いられるプリント回路基板(PCB)には、これまで以上に高い耐熱性、耐久性が求められている。耐熱性、耐久性の向上にあたり、耐熱・放熱フィラーの改良・含有率の増大、基板の超多層化、基板の板厚増大が進んでいるが、これらは基板の穴開け加工にとっては難削化の方向となる。具体的にはドリル摩耗量の増大、それに伴う穴位置精度の劣化を引き起こし、加工穴精度、加工穴内壁品位悪化による基板信頼性の低下に繋がる。そのため、難削化するプリント回路基板の穴開け加工に対して、高精度・高品位を達成する新しいドリル材質の開発が望まれてきた。この度、市場の要望に対して新材質AF905を開発し、発売を開始した。
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