地中送電線を活用した遠隔監視システムで、マンホール内の保守点検の負担を軽減

後藤 哲生

既設電力ケーブルを伝送路とした地中線設備の保守監視システム

電力プロジェクト事業部
主席 後藤 哲生

地下に埋設された送電線の保守点検は、技術を持つ専門の作業員がマンホールの中に入って行っています。近年、地中送電網が広がる一方で、設備の老朽化や将来的な人員不足などの問題が顕在化しており、最新のデジタル技術を用いた遠隔監視システムの実現が強く求められてきました。しかし、センサなどの監視機器を地下に設置しても、通信環境が整わずセンサ情報の伝送ができないという課題がありました。

そこで、我々は地中送電線そのものを通信に活用できることに着目し、保守に必要な情報をマンホール内から伝送する遠隔監視システムを東京電力パワーグリッド株式会社様と共同開発しました。

点検の負担が大きい地中送電方式

土地の確保や景観の問題から鉄塔を新たに建てることが難しい地域では、電力ケーブルを地下に埋設する地中送電方式が採用されています。そのため、ケーブルや付帯設備の点検保守は、保守員が定期的にマンホール内に入って行っています。しかし、老朽化した送電路の増加や技術者の人手不足に加え、交通量の少ない夜間を縫っての作業は効率が悪く、また管内に雨水やガスが溜まっている危険性があるなど、マンホール内の保守点検は多くの課題を抱えていました。このような点検の負担を軽減するため、マンホール内を遠隔で監視するシステムの構築が検討されてきましたが、センサなどの監視機器を設置しても、得られた情報を安定して伝送する通信手段がありませんでした。というのは、無線通信の電波はマンホールの金蓋で遮られてしまいますし、新たに光ファイバなどの通信線を敷設することは物理的にも費用的にも現実的ではありませんでした。

高圧電力ケーブルの活用でデータ通信と電源確保の両方が可能に

そこで検討したのが、電力ケーブルそのものを通信に利用するPLC(Power Line Communication)技術です。この技術を既設の送電ケーブルに適用することができれば、新たな通信ケーブルを布設する必要がなくなります。しかし、PLCは通常600V程度の低圧電力ケーブルに対して使われる技術であり、我々の扱う500kVもの高圧地中送電線への適用は前例がありませんでした。我々は、PLCの伝送媒体として、高圧ケーブルの特性向上と安全性のために設けられた金属遮蔽層(図1)に着目しました。さまざまな課題を乗り越え、まずは社内で遮蔽層を使ったPLC伝送の模擬実験を行い、性能面に問題がないことを検証しました。その後、東京電力パワーグリッド株式会社様の実設備でその実用性と信頼性を裏付ける結果が得られたときは大きな達成感を得ました。

さらに、金属遮蔽層はケーブルの端末部とマンホール内の中間接続部で接地線が引き出されているため、CT(Current Transformer)と呼ばれる装置を使った誘導結合により非接触で情報を送ることができるという大きな利点もありました。また、センサやカメラなどの監視装置の電源も、別のCTを使った電磁誘導で電力ケーブルから取り出すことができました。


高圧ケーブルの構造

図1 高圧ケーブルの構造

マンホールの中に高度なセンサーネットワークシステムを構築

こうした電子機器を組み込んだ監視装置がマンホール内で水没して装置内部に水が入らないように、光ケーブル接続で水深10mに耐えた実績のある筐体を改良し、低コストで防水性を確保することにも成功しました。ケーブルの温度や状態、水位変化を検出するセンサやリアルタイムで監視できるカメラをマンホール内に設置し、地中送電線の状態を監視するために必要な情報を収集して伝送する高度なセンサーネットワークシステムが完成しました。収集したデジタル情報は、地上の端末部までPLC伝送され、携帯電話のLTE回線でクラウドサーバーに送られ、蓄積されます。クラウドサーバーでデータの解析を行い、安全かつ効率的な地中送電線の保守管理に役立てることができるのです(図2)。この監視システムでは、ケーブルの劣化具合に合わせた保守ができるため、不要なメンテナンスコストを抑えることができます。また、常時監視によって故障や不具合の兆候を早期に検出できるようになるため、事故の未然防止につながります。


地中送電線遠隔監視システム
図2 地中送電線遠隔監視システム 

より高度、より効率的な遠隔監視を目指して

現在、PLCを用いたこの監視装置が2箇所の実線路で稼働しています。今回の研究開発で通信手段を確保することはできましたが、設備の詳細な劣化診断や送電線路のさらなる有効活用を進めるためにはデータの取得とアプリケーションの開発がますます重要になります。当社では、新たな測定機器やAIによるデータ解析の導入など、より高度で、より効率的な遠隔管理システムの実現に向けてすでにお客様と共同で実路線への適用を想定した実証を進めています。今後も、電力の安定供給のために、送電線の保守、運用の課題に技術力で応えていきたいと思います。

  ​後藤 哲生

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