加工中の製品を動画のように連続測定、その場で解析

徳田さん

放射光を用いた金属材料熱処理過程のその場解析

解析技術研究センター 
徳田 一弥

銅線やアルミ線などに代表される金属製品は、製造時の加工や熱処理によって強度の特性を制御します。この太さの銅線であれば、何℃で何分間の熱処理を行えば、必要な強度が得られるか――金属製品の特性を引き出すためのベストな条件を見つけ出すために、これまではサンプルをいくつも用意し、異なる温度で熱処理した後、電子顕微鏡やX線回析装置など、実験室の装置で必要な値を測定していました。

「その場測定」は、製品を熱処理しながら測定を行う手法で、放射光と呼ばれる極めて強力なX線を用いて製造工程にある製品を数秒おきに連続して測定することができます。従来の測定が加工後の静止画だとすると、その場測定では加工中の製品の様子を原子レベルで動画のように見ることができるようになりました。

抜本的なブレイクスルーで時間もコストも飛躍的に削減

これまでも放射光を用いたその場測定は行われてきましたが、測定施設の順番待ちが長く、実施事例は限られていました。兵庫県にはSPring-8という世界最大級の放射光施設がありますが、このような大型の共用施設を使用するには、数か月にわたって順番を待たなくてはなりません。その課題を乗り越えるために、当社は、2016年11月、九州シンクロトロン光センターに当社専用の実験設備であるビームラインを設置し、いつでもその場測定ができる環境を整えました。

  ビームライン


一方で、解析に要する時間も課題の一つでした。測定結果が静止画から動画になったということは、得られるデータが従来の1000倍ほどに増えたということです。施設を備えてすぐに測定ができる環境を手に入れても、データの解析が追いつかないのでは意味がありません。そのため、測定と並行してデータを自動解析するプログラムを開発しました。こうして、以前は数週間かかっていたデータ処理をわずか5分程度で完了できるようになりました。こうした取り組みによって、製造条件の最適化だけではなく材料の開発や原理の解明においても、時間とコストを飛躍的に削減することができるようになりました。

社内外の期待にゾクゾクしています

自社専用のビームラインの立ち上げは、投資額も社内外の注目度も高く、市販の分析装置の導入とは比較にならないほどスケールの大きな仕事でした。SPring-8と比較するとその直径は1/20程度ではありますが、その場測定を含むさまざまな実験を行うことができます。住友電工ビームラインでは、長い波長をカバーする軟X線と、短い波長をカバーする硬X線の2本のビームラインが並走しており、ほぼすべての元素の状態を分析することが可能です。 施設の立ち上げに成功し、幅広い実験が高精度に行えるようになった今、当社製品に磨きをかけるためにこの施設をどれだけ役立てることができるか、この大きな課題に引き続き取り組んでいきたいと思っています。

  徳田さん  

関連リンク

・[プレスリリース] 2016/12/15 当社グループ専用の放射光ビームラインが稼働開始

・[プロジェクト id] モノづくりを支える叡智~本質を追求し、解明する解析技術の世界~

・[受賞] 第15回Spring-8産業利用報告会最優秀発表賞「『レドックスフロー』型電池電解液の金属イオン状態解析」

・[受賞] 第18回ひょうごSPring-8賞「高機能フッ素樹脂コーティングの普及に寄与した原子レベル界面解析技術の開発」(解析技術研究センター 久保優吾)

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