絶縁材料の開発を加速させるQ(t)法の利用と可能性

関口 洋逸

架橋ポリエチレンの空間電荷・伝導挙動のQ(t)法による理解と解析

エネルギー・電子材料研究所
主幹 関口 洋逸

電気製品や電力ケーブルには、電流を遮断するための絶縁材料が使われています。これは電気を安全に使うために欠かせない材料です。しかし、電圧を加えたときに起こる現象やその前触れとなる空間電荷(絶縁体中に分布する電荷)の現象については、まだわからないことがたくさんあります。

環境への負荷が低いことから、近年世界的に需要が高まり、当社も開発を進めている高圧直流ケーブルですが、その絶縁材料である架橋ポリエチレンには、交流ケーブルとは異なる性能と高い安全性が求められています。その開発を促進するために、私たちは電流積分電荷法(Q(t)法)と呼ばれる測定手法を用いて架橋ポリエチレンの計測を試み、種々の現象の解析を進めています。これまでの結果から、Q(t)法は、簡単な操作で様々な情報を得ることができる大変優れた手法であることがわかってきました。

微小電流から複数の材料特性を同時に測定

架橋ポリエチレンなどの高分子材料に電圧をかけたときに流れる微小電流は、材料内で起こっている分極、空間電荷挙動、電気伝導など様々な物理現象を理解するうえで重要な鍵となります。ですが、「微小」とはいえ、電流の大きさや流れる時間、挙動は大きく異なるため、これまでは現象に応じて、例えば電気伝導は微小電流計で流れる電流を直接測定するなど、個別に測定されていました。Q(t)法との違いを水の流れに例えて説明するなら、水車(水流計)を使って水流を計測するのが微小電流計による測定方法であり、流れる水が容器に溜まる量を測定するのがQ(t)法です。このような手法を数学では「積分」と呼びますが、Q(t)法ではこの積分により、従来個別に測定を行っていた異なる現象を同時に測定することが可能になりました。更に、測定準備は、テストする材料を電気の容器となる測定コンデンサにつなぐだけという簡単な操作で済みます。

簡便で幅広く応用できるQ(t)法

今回の実験では、交流ケーブル用と直流ケーブル用の架橋ポリエチレン(AC-XLPEとDC-XLPE)に対して、それぞれ8時間ずつ電圧を加えるという工程を繰り返し、その場合の微小電流の変化を調査して、物理的な現象の変化からそれぞれの特性をQ(t)法によって導き出すことを試みました。Q(t)法のメリットは、簡便な計測技術で高精度のデータが得られ、電流が関与する様々な物理現象を網羅的に、かつ俯瞰的に観察できて、理論とも整合させやすいという点に尽きます。今後更に知見を積み重ねることで、高圧直流ケーブルをはじめとする当社の各種ケーブル製品の性能を最大限に上げられるようなデータの取得と、その科学理論に基づいた説明が可能になるはずです。そして、そうすることが社会やお客さまに安心と信頼をお届けすることにつながると考えています。

Q(t)法は、絶縁材料のいろいろな特性を一度に評価できることから、材料の選定や状態変化の計測、診断の手法として幅広い展開が期待されます。また、電極の形状に依存せず、どんなものでも計測が可能なため、電力ケーブルや半導体デバイスなど多種多様な製品に適用が可能です。電流が関与する物理現象の仕組みがわかればその応用も可能になるため、製品の改良や新製品の開発に役立てることができます。Q(t)法をこうした実用レベルにまで引き上げることが私たちの使命であり、チャレンジであると考えています。


​ 誘電・絶縁材料技術
誘電・絶縁材料技術を取り巻く技術領域  

多面的に捉えることで可能性が拡がる絶縁材料の技術領域

絶縁材料といえば、これまでは電気工学的な側面から捉えることが主流でしたが、図に示すように物理・化学・工学の境界領域に位置していますので、どの側面から見るかによって捉え方が異なります。想像以上に奥行きがあり、学術的にも興味深い世界です。Q(t)法により得られるデータの解釈やQ(t)法を利用した計測にはまだまだ工夫が必要で、工夫の数だけ得られる成果もあると考えています。まだ確立された技術領域ではありませんので、若い技術者にも興味を持ってチャレンジしてもらいたい分野の一つです。


  関口 洋逸

関連リンク

[論文] 「送電ケーブル用絶縁材料の歴史と最近の動向」、電気学会基礎・材料・共通部門誌、Vol.139, No.9, pp. 400-405, 2019.

[論文] 「電流積分電荷法による絶縁材料の高圧誘電特性評価」、SEIテクニカルレビュー、第193号、pp. 58-62, 2018.

[論文] 「Q(t)法における電極電荷・蓄積電荷・漏れ電荷の区別」、電気学会基礎・材料・共通部門誌、Vol. 141, No. 4, pp. 245-251, 2021.

[執筆]   Polymer Composites for Electrical Engineering, Chapter 5 Polymer Composites for Power Cable Insulation, Wiley, 2021.

[論文]   Conduction Phenomena of AC-and DC-XLPE Analyzed by Q(t) Method, IEEJ. Trans. FM., Vol. 141, No. 10, pp. 584-589, 2021.    

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