「圧粉磁心」の新たな世界を拓く~「アキシャルギャップモータ」用の「圧粉磁心」の開発~

「圧粉磁心」の新たな世界を拓く~「アキシャルギャップモータ」用の「圧粉磁心」の開発~

アキシャルギャップモータと圧粉磁心(手前)

基本構造を円盤状に高い性能と軽薄化を実現

住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室長上野 友之
住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室長 上野 友之

住友電工グループは、2005年頃から「アキシャルギャップモータ」向けの「圧粉磁心」の研究開発を行ってきた。その時期から現在まで研究開発に取り組んできたのが、上野友之だ。アドバンストマテリアル研究所在籍時から「圧粉磁心」に携わってきた。そして、2023年、住友電工焼結合金(株)に新たに「圧粉磁心」の「アキシャルギャップモータ」用途の拡大を目指して発足した、電動モジュール開発室長として着任する。

「2005年当時、ハイブリッド車にモータが搭載されたことを機に、『アキシャルギャップモータ』の可能性について検討を始めました。しかし、当時の『圧粉磁心』は絶縁性能、耐熱性や強度も低く、求められる性能は満たせませんでした。そして2014年頃、燃費向上をはじめとした環境配慮、地球温暖化などを背景に、モータの小型・軽量化が市場から再び要請されたのです。小型・軽量であれば『圧粉磁心』が電磁鋼板よりも優位性があると考え、研究開発を再始動させました。試作を重ねその知見を蓄積。モータ市場は巨大なので大きなビジネスチャンスがあり、高効率・省エネに有効性がある『圧粉磁心』を搭載した『アキシャルギャップモータ』の普及拡大は、サステナブルな社会に貢献するとも考え、研究開発を加速させてきました」(上野)

上野らの取り組みで推進された「圧粉磁心」は、モータの基本構造を円筒状から円盤状へ変更して軽薄化を実現した。従来のラジアルギャップモータと比較して、トルクや最高効率などの性能は同等で軽薄化を達成している。

CO₂排出量を大幅に低減、かつリサイクルが可能

住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室 主席齋藤 達哉
住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室 主席 齋藤 達哉

「圧粉磁心」が、初めて「アキシャルギャップモータ」に採用されたのは2020年、産業機械向けだった。上野と同じ電動モジュール開発室に在籍する齋藤達哉は、入社以来「圧粉磁心」に関わり「アキシャルギャップモータ」向けの「圧粉磁心」の採用に向けて顧客に積極的にアプローチした。

「営業担当に同行しお客さまへ『圧粉磁心』の優位性を訴求しました。モータの性能を決定付けるのが磁心です。コンパクトでありつつ、磁束密度が高いため高トルクが実現できること、エネルギー損失が少ないこと、3次元形状が可能なことなど、電磁鋼板にはない特性を訴求。さらにお客さまのニーズに応じて試作、設計変更を重ねました。また、『圧粉磁心』はサステナブルな観点からも優位性があります。原料が粉末のため粉砕してリサイクルをすることが可能です。また、CO2排出量は圧粉磁心の新粉で電磁鋼板比で約70%低減、リサイクルした圧粉磁心では約90%以上低減できます。こうした多彩な特性を理解・納得いただき採用が決定。確かな一歩を踏み出した実感がありました」(齋藤)

住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室 兼 伊丹製造部 開発グループ 主席 栄田 壮亮
住友電工焼結合金(株) 電動モジュール開発室 兼 伊丹製造部 開発グループ 主席 栄田 壮亮

顧客向けに「圧粉磁心」の製造・量産を検討したのが、栄田壮亮である。栄田は最初の立ち上げから「圧粉磁心」に携わってきた。

「量産開始までの時間がタイトであったため、研究部門との緊密な連携は不可欠でした。研究部門が先行して進める形状提案を受けて、量産に耐えうるコスト、品質を検討し、金型を設計して試作。そのサイクルを短期間で回していきました。特に注力したのは造形面の精度向上です。金型プレスによる成形加工において、均一に磁性粉末を充填することが高い精度につながることをメンバーと検討を重ねて実現しました。お客さまの要望に応えるだけでなく、先行して進めた独自の技術を提案して量産化に至った製品であり、喜びもひとしおでした」(栄田)

圧粉磁心のリサイクル性
圧粉磁心のリサイクル性
圧粉磁心のリサイクル性

求められるモータの高効率化、省エネ化

モータは古くから、そのエネルギー消費量が課題とされ、世界電力消費量の半分近くを占めるといわれている。モータの高効率化、省エネ化によって、電力消費を減らすことはCO2排出量の低減に繋がり、地球温暖化の進行を抑制する効果をもたらす。

「より高効率なモータを生み出す上において、小型・軽量化、高出力を実現する『圧粉磁心』に大きなアドバンテージがあると考えています。さらに、今後私たちはプラスαの付加価値を提供していく必要がある。リサイクル技術の確立もその一つです。また、磁心を提供するだけでなく、モータそのものを深く知ることで、お客さまよりも先に課題を見出し、『アキシャルギャップモータ』への提案レベルを上げていきたい。当社が常に先行し続け、世の中に新たな価値を提供していきたいと考えています」(上野)

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