
形状自由で小型化、軽量化を実現する「圧粉磁心」~卓越した特性が新たな市場を生み出す~
半世紀以上の歴史と世界No.2のシェア住友電工の「焼結製品」
住友電工グループの焼結製品事業部で取り扱っている「焼結製品」とは、鉄や銅などの粉末を金型に入れて、約3~10t/㎠の圧力で押し固め、融点以下の温度(約1,100~1,300℃)で粉末同士を結合して個体にした製品だ。鍛造や鋳造などに比べ、生産性が高く、エネルギー消費量が少なく、複雑形状の成形が可能など、多くの優位性を持つ。現在は主に自動車部品に採用されており、エンジンのオイルポンプ、可変バルブ、トランスミッションなど、同事業部の焼結製品は自動車を構成するさまざまなパーツに採用されている。これら焼結製品は、1948年、住友電気工業(株)伊丹製作所で製造・販売が開始された。1972年に岡山住電精密(株)が設立され、本社・岡山工場と伊丹工場の2拠点体制を整備。その後、日系自動車メーカーの海外生産拡大に伴い、米国、メキシコ、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなどに生産拠点を設け、事業を拡充した。現在、焼結製品のシェアは国内トップ、世界でもNo.2を占めている。
一粒一粒の磁性粉末に絶縁被膜した「圧粉磁心」
今回のテーマである「圧粉磁心」は、軟磁性鉄粉を金型プレスで三次元形状に造形した部品だ。「圧粉磁心」の取り組みが始まったのは、2000年初頭。従来の焼結製品にはない特性に注目した。「圧粉磁心」は、材料である鉄粉に絶縁被膜がコーティングされた粉末を使用する。これが特性の核心部分の一つだ。従来磁心として使われてきた電磁鋼板を積層する磁心では、層間にしか絶縁できない。「圧粉磁心」では粉末の一粒一粒が絶縁被膜されているため、高い電気抵抗と高い磁力を両立できる。これにより、圧粉磁心を搭載したユニットのハイパワー化、小型化、エネルギーロスの低減が可能になる。
こうした優れた特徴を持つ「圧粉磁心」を採用した製品が、最初に市場に投入されたのは2003年。クリーンディーゼルエンジンのコモンレール式燃料噴射弁である。「圧粉磁心」は精密な制御を可能にし、省燃費化に貢献した。また、ガソリンエンジンの点火コイルでは、点火性能を向上させ燃費改善につなげた。2012年からは「リアクトル」の量産が開始され、2020年、「アキシャルギャップモータ」の採用へと展開している。
「駆動」をテーマに、新たな市場開拓を視野に

「圧粉磁心」を含む焼結製品事業の舵取りを担うのが、焼結製品事業部戦略企画部の小林英夫(当時)だ。入社以来、焼結部門の営業を担当、2023年10月から戦略企画部長に就いた。牽引する戦略企画部は、同年7月に発足した新しいセクション。背景には、自動車業界の大きな変化があると小林は指摘する。
「焼結部門の顧客の9割以上は自動車業界で、『CASE(Connected・Autonomous・Smart / Shared & Services・Electric)』という概念の登場によって100年に一度の大変革期を迎えています。今後の戦略・企画立案・実践のために当部は発足しました。焼結部門全体でいえば、生産量の約4分の3は海外生産ですから、グローバルな視点で生産補完も含めた拠点の最適化を図っていく必要があります。さらに大きなテーマとしてあるのが、近い将来の自動車需要です。EVなどの普及拡大がある一方、ガソリン車の需要の下降はさらに進むと思います。そうした中で、『圧粉磁心』も含め焼結製品を自動車以外の市場に供給していくことを考えています。『駆動』に必要な部品として、ニューモビリティ(次世代の移動手段、サービス)も含めた新たな市場にアプローチしていきます」(小林)
節目となる「アキシャルギャップモータ」への採用

自動車を構成する「動くもの」のほとんどにはモータが搭載されている。磁石を利用して電気エネルギーを動力エネルギーに変える機器だ。電流が流れると磁界が発生し、極同士が引き合い、反発して回転が生まれる。磁界は銅線をコイル状にすることで発生するが、磁心に巻くことによってさらに強くなり、効率や出力の最大化に影響する。
これまで、モータの多くはラジアルギャップという構造で、磁心材料のほとんどが電磁鋼板だった。近年、自動車や産業用ロボットなどの分野で、小型で高出力なモータとして注目が集まっているのが「アキシャルギャップモータ」である。
「当社は、燃料噴射弁、点火コイル、リアクトルで『圧粉磁心』を採用した製品を開発・供給してきましたが、材料自体が機能を持っていることが大きな特徴であり、事業の柱の一つになっています。さらに、業界に先駆けた『アキシャルギャップモータ』への採用は、『圧粉磁心』の大きな節目であり、今後はマーケティングが非常に重要になってきます。どの市場に製品を提供するか。それは新しいビジネスモデルを構築することに繋がっていきます。自動車分野はもちろん、新たな需要、用途を見出し『圧粉磁心』の優位性を訴求して売り上げに結びつけていく必要があります。これからが正念場と思っています」(小林)
