理想とする未来へとつなぐ、進化するモノづくり〜e-STEALTH W/H®製造にみる「自動化×地産地消」戦略~
労働集約型からの脱却と「適材適所の拠点戦略」への転換
住友電工グループの自動車事業の中核を担う製品がワイヤーハーネスだ。この製造を一手に引き受け世界中にグローバルサプライチェーン網を持つのが住友電装だ。住友電装は、自動車の「血管・神経」とも言われるワイヤーハーネス製造で、世界トップクラスのシェアを誇る。世界32の国と地域に105の拠点を持ち、約25万人の従業員を擁する。かつてのワイヤーハーネス製造は、膨大な手作業を必要とする労働集約型産業であり、安価な労働力を求めて拠点を移す最適地生産が展開された。しかし、パンデミックによるロックダウンや物流コストの急騰は、遠隔地からの供給モデルの脆弱性を浮き彫りにした。供給責任を果たすため、拠点のあり方を抜本的に見直す時期にきていると住友電装 社長の漆畑憲一は語る。
「我々の使命は、高品質な製品を競争力のある価格で提供し続けることですが、この5年で経営環境は激変しました。もはや安価な労働力だけを追い求めて世界を渡り歩く時代ではありません。市場のすぐそばで作り、届ける。この『地産地消』への転換こそが、BCP(事業継続計画)の強化と環境負荷低減を両立させる方法なのです」(漆畑)
新製品「e-STEALTH W/H®」が変える車の構造
先進国での生産を実現するには、人件費の壁を突破する自動化が絶対条件となる。しかし、従来の「電線の束」という構造は自動化が極めて困難であった。そこで開発されたのが、フラットな構造を持つ次世代ハーネス「e-STEALTH W/HⓇ(イー・ステルス・ワイヤーハーネス)」である。e-STEALTH W/HⓇは、車両全体に張り巡らされた複雑な配線を「幹線」と「枝線」に分けてユニット化する「エリアハーネス」構造の「幹線」を対象に採用されている。アルミ導体を採用することで軽量化、電線を融着技術でフラットに配し省スペース化、そして製造工程の自動化に貢献した。実際の採用例では、フラット化と車両内周辺部品と整合することで、インパネ(インストルメントパネル)の高さを約40mm下げることが可能となった。
さらに、CASEの進展において深刻な課題となる電磁ノイズに対しても、e-STEALTH W/HⓇは画期的なソリューションを提供することになった。
「オーネット研とも連携して進めてきたe-STEALTH W/HⓇ開発は、電線をフラットに並行させる独自の構造自体が、電磁ノイズの影響を抑制し、安定した通信品質を担保することにつながりました。コネクティッドカーやEVにおいて、この「健やかに」電流を流すインフラ技術は、我々の大きな強みとなります」(漆畑)
「国内回帰」と再び「世界の量産マザー工場」へ
e-STEALTH W/HⓇは、経営の観点でも大きな成果を上げている。
「かさばる完成品ではなく、フラットに梱包した状態で幹線を運び、消費地近くで組み立てることで、輸送費と在庫スペースを大幅に削減し、収益性を改善します。これは住友電装が単に部品を供給する役割から、物流まで含めたシステムサプライヤーへとリデザインしていることを意味しています」(漆畑)
それでは、e-STEALTH W/HⓇを中核に据えた住友電装の今後のビジョンはどのようなものか。
「課題はコスト面です。単体パーツとしての価格比較に陥らず、車両の構造設計段階からe-STEALTH W/HⓇの採用を前提としてお客様と深く連携しなければなりません。今後は、床下や天井、バッテリー周りへと適用範囲を広げるだけでなく、空飛ぶクルマやロボット分野への応用など、市場の需要変動に柔軟に対応できる体制を構築し、お客様に安心と感動を提供していきます」(漆畑)
さらに、漆畑が描く未来図は「国内回帰」だ。自動化率を極限まで高めることで製造コストの平準化をもたらし、海外に依存せず人件費の高い国内でも量産体制を可能にする。コスト競争力を持てれば、サプライチェーンの強靭化のみならず、再び日本を「世界の量産マザー工場」として再起動させ、国力の回復に寄与することができる。
「理想は、オーダーが入ると同時にロボットが最適なモジュールを組み上げるスマートファクトリーの実現、地産地消の究極形です。これは日本のモノづくりの矜持を取り戻す挑戦でもあるのです」(漆畑)
住友電工グループの誇り高き現場力は、今、デジタルの力を得て、かつてない強靭なインフラへと進化を遂げようとしている。