2023年7月号 No.203
近年増加を続ける下りアクセスネットワークトラフィックの65~70%を映像配信トラフィックが占めている。放送サービスのチャンネルあたりの最大所要帯域は、映像の高画質化と映像圧縮技術の高度化が標準化とセットで進んだ結果、20年間あたり、圧縮前が約40倍、圧縮後が国内RF放送において約5倍、IPTVにおいては約20倍のペースで増加してきた。一方、今後の市場の成長は、8K化に加え、360° 3D映像やAI、デジタルツイン技術と組み合わせたXR(クロスリアリティ)映像サービスが牽引することが期待されている。この機に、映像通信技術の動向と当社の取り組みを振り返ると共に、クラウドコンピューティングと家庭や職場を結ぶ全光および無線ネットワークに求められる各種Key Indexの内、特に、没入感ある双方向性の3D, XR映像配信サービスの実現に欠かせないMotion-to-Photon遅延と呼ばれる性能に着目し、他の要件への影響について考察する。
2.5 MB
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情報通信システムは、私たちの社会を支える重要なインフラである。特に電波を用いた無線通信技術は、直近の30年あまりで著しい進歩を遂げ、地上通信では高速データ通信や低遅延を実現する第五世代(5G)サービスが2020年より開始された。一方で、その通信ネットワークは、海洋、宇宙にまで広がり始めている。当社は、この通信インフラを支える伝送デバイス(光通信向けデバイス、無線通信向けデバイス)の開発・製品化を通じて、社会に貢献してきた。無線通信基地局向けキーデバイスであるGaN HEMTは、当社が世界で初めて量産・製品化に成功し、現在では世界トップシェアカンパニーとしての地位を確立した。本論文では、GaNに代表される化合物半導体デバイスとその応用の黎明期から現在のGaN HEMT増幅器、そして将来技術として不連続な性能向上を目指した新規の結晶成長技術やデバイス技術について論述する。
3.5 MB
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気候変動は世界的な社会課題であり、その対策としてCO2排出量削減が求められている。主な排出源の1つである自動車交通のCO2排出量を削減するためには車両自体の排出量削減の取り組みと共に、交差点の交通信号制御の改良による渋滞削減等、車両が無駄なエネルギーを消費せずに走行できる環境を整備する取り組みも重要である。CO2排出量削減対策として交通信号制御の改良を推進していくためには、その効果の定量的な検証が必要であるが、交差点を通過する車両のCO2排出量の定量化については広く認められた手法は存在しない。そこで、交通信号制御の改良の効果検証に広く利用されることを目指し、交通信号で制御された交差点を通過する車両のCO2排出量を車種等を考慮して算出するモデルを作成した。
0.8 MB
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交通の安全と効率向上のため、世界各国で歩行者検知センサの需要が高まっている。交差点において歩行者検知センサで十分な検知精度を得るためには、適切な設置先を確保することが課題となる。しかしながら、センサを設置するために新しいポールを設置するには大きなコストを必要とするため「既存のポールを活用できること」が、歩行者検知センサを世界に広めるために重要となる。一方で、遠方と近傍の歩行者検知を両立させることは、センサの視野角が不足するために難しく、多くのセンサはその直下の歩行者を検知できないために設置場所が制限される。この課題への対策のため、筆者らは僅かなコストアップで広いアンテナ視野角を持つレーダセンサを開発し、設置場所の自由度を向上した。本稿では、開発した新しい技術と、それを用いて広い検知エリアを実現した検知結果を紹介する。
3.2 MB
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情報通信量が増大の一途を辿る中、データセンタでは、多チャネル化により通信量の急増に対応してきた。一方、現状のシステムでは、1チャネルにつき1つの半導体レーザを使用するため、消費電力の増大や、部品点数の増加による高コスト化が問題となっている。高光出力の単体レーザ素子から多チャネルに光を分岐する構成が提案されており、その要求を満たす高出力かつ単一モードの通信用レーザが求められている。しかし、既存の通信用レーザで、単一モードかつ高出力を得ることは、原理的な限界を迎えつつある。我々は、単一モードと高出力動作を両立する次世代の半導体レーザとして、1.3 µm帯のInP系フォトニック結晶レーザを検討している。ドライエッチングと再成長技術を用いて作製したInP材料系PCSELにおいて、室温連続駆動において200 mWを超える単一モード発振を実証した。さらに、短パルス駆動においては、4.6 Wの高出力を達成し、通信だけでなくセンシング用途にも応用可能である結果を見出した。
2.5 MB
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当社はフッ素樹脂ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の延伸加工による多孔質化技術を世界に先駆けて開発し、2000年代初頭には、中空糸膜状の水処理膜モジュールを上市し、PTFEの耐薬品性、高強度を強みに国内外の様々な地域で、上下水処理用途や産業排水処理用途に納入してきた。一方で、近年増加している海水淡水化やかん水中のレアアース回収といった塩成分の分離ニーズの増加に対して、PTFEの有する疎水性を活かし、かつ海水中の塩成分や水資源中のレアアースといった溶質を分離できる膜蒸留法に着目し、膜蒸留法に必要である耐水圧と気体透過性を両立したPTFE中空糸膜を開発したので報告する。
2.3 MB
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近年、世界各国で温室効果ガスの削減に対する取り組みが行われており、洋上風力発電に注目が集まっている。発電した電力を送電する海底ケーブルは、風車の大型化と出力増加の影響による高電圧化、大容量化に伴い大型化が進んでおり、製造性、コスト、施工性等が課題となっている。当社はこれらの課題を解決するため、遮水構造の無い海底ケーブルの開発を進めてきた。海底ケーブルの運転寿命は未解明な点が多く、特に浸水状態ではケーブル絶縁体中で水トリーと呼ばれる劣化が進行するため、ケーブル寿命を推定することは難しい。当社は非遮水構造のケーブル寿命を評価するため、ケーブル絶縁体中の過飽和水分量の継時変化を解析することで、現実的な試験期間で実線路30年の長期運用を模擬可能な長期水トリー試験法を検討した。今後、検討した試験法を用いて実線路での長期運用や更なる高圧化に対応可能な耐水トリー性を有するケーブルの開発を進める。
1.8 MB
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化合物半導体は高機能デバイス実現に有用な材料的特長を有している。デバイス性能への影響が大きい半導体表面あるいは界面の状態を高精度で分析するため、本研究では放射光分析の一種であるX線光電子分光法(XPS)を活用した。まず無線通信用のGaN系高電子移動度トランジスタでは、O2アッシャ処理の影響について調べた。この目的のためXPS励起エネルギーを600 eVまで下げ、分析深さを約2 nmに限定。フォトルミネセンス分析も併用し、不適切な処理条件では表面からのN抜けと酸化物の増加、及び、GaN結晶中の欠陥残留をもたらすことを見出した。また、光通信の受光素子に用いられるInP系フォトダイオードでは、絶縁膜に被覆されたInPの表面電位シフトを7940 eV励起の硬X線光電子分光で評価し、受光感度劣化をもたらす界面リーク電流を低減できる製膜条件の探索に成功した。放射光分析のタイムリーな活用は、製品開発期間の短縮に非常に有効と言える。
1.7 MB
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近年、脱炭素社会の実現に向け電動車両へのシフト、並びに自動車機器の電動化が進んでいる。機器の電動化は制御対象を電気信号で制御するバイワイヤ制御の採用が拡大している。しかし、バイワイヤ制御は鉛バッテリなどの車両電源が異常となった場合に、制御ができなくなる課題がある。住友電工グループの住友電装㈱、㈱オートネットワーク技術研究所は、車両電源異常時にも複数のバイワイヤ制御を継続するための統合バックアップ電源を開発した。本製品は、2023年に発売されたトヨタ自動車㈱のプリウスに採用頂いた。
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近年クラウドコンピューティングや動画配信、5G 対応等の進展により、通信トラフィックは急増し、大規模データセンタ(以下、DC)の建設が進んでいる。DC 間を結ぶ光ファイバケーブルは主に屋外ダクト内に配線されるため、限られたダクトスペースに光ファイバを高密度に詰め込む技術が重要となる。当社は2017年に当時、世界最高心数である6912心光ファイバケーブルを開発、商用化し、さらに配線ソリューションも開発することで、DC 全体での配線高密度化および施工性向上に貢献してきた。本稿では国内向けダクトサイズに適合した超多心高密度光ファイバケーブルとして、200μm 心線適用の3168心型、250μm 心線適用の2016心型を開発し、販売を開始した。
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近年船舶・気象用増幅器としてマグネトロンに代わり半導体デバイスが高出力化したことで固体化が進んでいる。固体化のメリットとして長寿命が挙げられ、定期的に交換が必要であったマグネトロンに対し、半導体は交換不要であり維持費削減が可能となる。またマグネトロンレーダは周波数変動が大きく小さな物標を観測することが困難であったが、固体化レーダはその周波数安定性からこれまで観測が困難であった物標も観測できるようになり探知性能が向上するメリットが挙げられる。しかしながら固体化レーダがマグネトロンレーダと同等の探知距離を実現するには半導体デバイスを複数並べる必要があり、合成数を減らすにはさらなる高出力化が求められている。今回我々は業界最高出力であるS 帯(3GHz)800W GaN HEMTを開発したので報告する。
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カーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーやEV の急速な普及に伴い、次世代パワー半導体の需要が拡大している。特にSiCはSiに比べて高耐圧、省電力化を実現する新素材として一部で使用され始めているが、広く普及するには製造コスト面で課題がある。SiC ウェハ及びデバイスの製造工程では高能率にウェハ厚みを加工できる研削加工が用いられているが、硬脆材料であるSiCの加工において①工具の消費量が高い②加工抵抗が高いことが課題として挙げられており、耐摩耗性を有し低抵抗で加工できる工具の開発が望まれている。そこで㈱アライドマテリアルでは独自に開発した超微細組織の高精度分散制御技術を用いることで、工具寿命と加工抵抗を両立したビトリファイドボンドホイールを開発し、2022年度からナノメイト マスパワーの商品名で発売を開始した。
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