再生可能エネルギーを加速させる 直流XLPEケーブル ~受け継がれた開発者のDNA~

再生可能エネルギーを加速させる 直流XLPEケーブル~受け継がれた開発者のDNA~

待ち望まれた、直流XLPEケーブル

XLPEケーブル
XLPEケーブル

国と国、あるいは地域と地域との間で電気をやりとりする送電設備を「連系線」という。脱炭素社会に向かって走り出した世界は、連系線が網の目のように張り巡らされた国際送電網や地域間送電網を使い、広域で電気を融通し合う未来を目指している。エネルギー市場のこうした動向を背景に、住友電工では近年、「直流XLPEケーブル」を製造・敷設する連系線プロジェクトの受注が相次いでいる。

直流送電ケーブルは、「長距離」「大容量」送電という利点を持つ。さらに油浸絶縁に比べて環境負荷が少ないのが、架橋ポリエチレンを絶縁材料とする直流XLPE ケーブルだ。そのフロントランナーである住友電工は、従来より20℃高い導体温度90℃での通常運転と送電電圧の極性反転を世界で初めて可能にした。つまり、これにより大容量の送電が可能となり、直流連系線の運用状況に応じて、電圧の向きを変える(プラスとマイナスの極性を反転させ電力を送る方向を変える)ことができる革新的な高電圧直流(HVDC)ケーブルが誕生したのだ。

世界中の電力事業者がこの送電ケーブルの誕生を待ち望んでいた。しかし、交流では1960年代に実用化されて広く普及したXLPEケーブルが直流で実現できたという報告は21世紀を迎えても聞かれなかった。このような中、住友電工が2012年に敷設した北海道本州間連系設備(以下、北本連系線)の海底ケーブルが世界初のXLPE ケーブルによる高電圧直流送電の事例となった。

住友電工はどのようにしてこの開発を成し遂げたのか。長年の夢を叶えたその開発の軌跡をたどってみよう。

■ ケーブルの種類

絶縁の種類 油浸絶縁固体絶縁 固体絶縁
OF ケーブル MI ケーブル XLPE ケーブル
構造 絶縁紙に低粘度油を加圧して封入 絶縁紙に高粘度油を含浸して封入

架橋ポリエチレンに電荷蓄積防止用添加剤を配合

OF ケーブル

MI ケーブル

XLPE ケーブル

長距離

大容量

挑戦者スピリットの系譜

住友電工は、1897年、別子産銅を原料として銅の板棒線類を製造販売するための住友伸銅場を起源とする。1905年、瀬戸内海に浮かぶ無人島の四阪島に精錬所が移転。安定的な電力供給のために、1922年、新居浜-四阪島間21km に世界最長の海底ケーブルを完成させる。どれほど時間がかかっても、粘り強く、自前でやり抜くものづくりは、四阪島から受け継ぐ挑戦者スピリットに裏打ちされた住友電工のアイデンティティともいえる。以来、住友電工はさまざまな送電ケーブルの開発をリードしてきた。

世界で初めて直流送電の商用運転が開始されたのは、スウェーデン本土とゴトランド島間に敷設されたもので、1954年のことである。以来、長年直流送電ケーブルの絶縁体には絶縁油を用いるOFケーブル(Oil-Filledcable)やMIケーブル(Mass Impregnatedcable)といった油浸絶縁ケーブルが使われていた。しかし、世界的に環境問題への意識が高まる中、環境保護の観点から漏油の恐れがない絶縁ケーブルが求められていた。

そこで、1970年代後半に国内での直流XLPEケーブルの研究が始まった。当初はすでに実用化していた交流用XLPEケーブルをそのまま直流用として適用すべく、長期課通電試験が実施されたが、絶縁体中に蓄積する空間電荷(後述)などの影響により、交流用そのままでは直流用として使えないことが明らかになった。この結果を受け、1984年に電源開発(株)(以下、電源開発)からの開発要請を受け、直流用XLPE絶縁材料の基礎開発を進めたのが今の住友電工である。

注)住友電工は、2001年に日立電線(株)と高圧電力線事業部門を統合し、(株)ジェイ・パワーシステムズ(以下、JPS)を設立。さらに、2014年にJPSを完全子会社化し、2022年にはJPSの電線およびケーブルの製造に係る事業を承継した。

海底ケーブル敷設風景と 当時の四阪島海底ケーブル(ケーブル断面)
海底ケーブル敷設風景と 当時の四阪島海底ケーブル(ケーブル断面)
直流・交流の基礎知識

コラム

直流・交流の基礎知識

電気の流れは直流(DC)、交流(AC)の2種類あります。例えば、乾電池のように、+極から-極に向けて一方通行で電気が流れるのが直流です。一方、交流は+と-を波のように交互に行き来して流れるものです。発電所で発電された電気はこの「交流」で家庭まで届けられるため、家庭で利用する電気は、ほとんどが交流です。

では、なぜ交流が主流なのか。この理由は1880年代後半までさかのぼり、発明家エジソンとテスラの来るべき電力システムを直流にするか交流にするかの確執に端を発します。エジソンは世界で初めて電灯用の直流送電を始めましたが、当時の技術では電圧の変換が困難だったこと、送電のために極太の銅線が必要でコストがかかることなど長距離送電に問題をかかえていました。一方、テスラは交流送電を開始。エジソンの電力システムをはるかに超える規模で、かつ電圧を変えることが容易な交流の特性を活かし、高電圧での送電、降圧して受電することで長距離送電を可能にしました。さらに直流に比べ設備コストが割安でメンテナンス負担も少なくインフラ向きだったこともあり、日本を含め世界のほとんどの送電網が交流となりました。

翻って現代。パソコンやスマートフォンのような複雑な制御が必要な精密機器は、交流を直流に変えるACアダプターにより直流で作動します。エアコン、冷蔵庫などで耳にするインバーターも交流から直流に変換する装置で、複雑な制御や省エネルギーを可能にしています。直流は充電との相性が良く、電気自動車や充電設備向き(=再生可能エネルギー向き)ともいわれています。エジソンが実現していたかもしれない時代がようやく始まろうとしていて、次世代の電力システムは直流が主役になるかもしれません。

NEXT

直流XLPEケーブル開発に懸けた想い
~特殊充填剤 開発秘話~

(3)