2024年7月号 No.205
長期間の使用が前提である光ファイバにおいて、ガラスファイバを保護する被覆層の長期信頼性は非常に重要である。この長期信頼性には内層被覆であるプライマリ層の硬化物性が密接に関係しており、製造条件を最適化するには任意の被覆硬化条件で硬化物性を予測することが望ましい。被覆には紫外線照射で硬化する紫外線硬化型樹脂が使用されている。その硬化反応は、多成分ゆえの機構の複雑さから物性予測が困難であった。今回、我々は光重合開始剤の反応のみに着目し、化学反応速度論に基づく光重合開始剤濃度の解析式を新たに導出した。更に、硬化後の光重合開始剤消費率に対する検量線を得ることにより、プライマリ層の被覆物性を予測することをも可能とした。
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光通信トラフィックの急速な増加に対応するべく、光デバイスを高密度に集積して大容量化させる一方で、光デバイスの発熱による特性の劣化が問題となっており、高温環境下でも特性が劣化しにくい温度特性に優れた半導体レーザが求められている。我々は、量産性の高い有機金属気相成長法による独自の低温成長技術を展開し、光通信に適した1.3 µm帯GaAs基板上GaInAs/GaAsSb/GaInAsタイプⅡ活性層レーザを作製した。しきい値電流密度の特性温度は25℃~100℃において152 Kと、従来のInP基板上InGaAsP系レーザの60 Kを大きく上回る値が得られた。タイプⅡ活性層を用いることで高温環境下でも特性が劣化しにくい1.3 µm帯半導体レーザを実現可能であることを示した。
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生成AIやHPCの需要増加に伴ってデータセンタ内通信の高速化及び省電力化の重要性が高まり、Co-Packaged Optics(CPO)へ注目が集まっている。CPOの構成部品であるExternal Laser Sources(ELSs)には数百mWの高光出力と電力変換効率20%以上の低消費電力性が求められており、本稿ではCPO向けのELSsである1.3 µm帯高出力半導体レーザにワイドストライプ導波路の半導体光増幅器(SOA)を集積し、またそれぞれ素子を電気的に分離した素子構造を用いることで電力分配の最適化を可能とし素子温度45℃にて400 mWを超える光出力と25%の電力変換効率を実現したことを報告する。
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5G無線アクセスネットワークにおけるモバイルフロントホールでは、通信トラフィックの増加に対応するため25Gbit/sの伝送速度が広く採用され、波長分割多重方式を駆使した光ファイバ利用効率の向上が期待されている。特に近年、アンテナ装置と中央拠点に集約された無線制御装置を繋ぐモジュール間で波長可変光トランシーバの需要が高まっている。今回我々は、モバイル・アクセス市場向けに低消費電力動作が可能な8波長可変電界吸収型変調器集積レーザを開発し、その諸特性を小型送信機ならびに25Gbit/s DWDMトランシーバ(SFP28)に搭載して評価したので、ここに報告する。
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HVDC技術と高分子絶縁技術が進歩するに従い、絶縁体中の電気伝導および空間電荷挙動の正確な評価の需要が増している。通常、これらの計測は、試料中の弱い電流を計る微小電流計測や、空間電荷挙動を計るパルス静電応力(PEA)法など、測定対象に応じて適切な手法が選択される。しかしながら、それは、これらの手法が特定の物理現象に特化しており、計測にしばしば特別な処理が必要であることの裏返しでもある。日本では、最近、電流が関わる現象を相補的かつ俯瞰的に理解しようと、「電流積分法」(Q-t法)の利用が増えている。Q-t法は、積分コンデンサを試料と直列に接続し、試料内を流れる弱い電流を積分して電荷量として計測する方法である。積分により得られる利点を誘電計測に活用するため、材料の選別・評価の他、絶縁体の状態診断、使用限界条件の把握など広い応用範囲を考えることができる。ここでは、Q-t法の特長とその応用例をいくつか紹介する。
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近年、地球環境への負荷低減、資源の効率的な活用を目的とした様々な取組みがなされており、自動車等に用いられる鋳鉄部品加工の分野でも、軽量化が急速に進んでいる。軽量化に伴い、各構成部品はより薄肉、複雑形状化し、薄肉化した場合にも十分な強度を確保する必要性から、使用される被削材はより高強度・難削化し、工具寿命の低下が課題となる。また、加工現場では、コスト削減要求の高まりや、工作機械の性能向上を背景に、高速・高能率加工への要求が以前にも増して高まっている。そのような鋳鉄加工市場での課題を解決するため、鋳鉄旋削加工用CVDコーテッド新材種「AC4125K」を開発した。「AC4125K」は鋳鉄の鋳肌・断続加工における圧倒的な安定・長寿命化を実現する。さらに使用済みコーナーの視認性に優れるため、工具の誤使用や誤廃棄の防止を可能とする。これにより鋳鉄の幅広い加工において、加工コストの低減を可能とした。
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高い空間分解能を有する走査型透過電子顕微鏡(STEM)は、結晶材料の原子レベルの構造解析に不可欠のツールである。金属やセラミックスなど多結晶材料の場合、結晶粒子の界面が材料特性を左右することが多いが、粒子同士はランダムな方位で接合しており、STEMで解析可能な方位で接合している粒子ペアを効率よく抽出することは困難であった。この問題に対し、本研究では電子後方散乱回折法(EBSD)を活用した新しい結晶方位解析技術の開発に取り組んだ。超硬合金の一種である炭化タングステン(WC)とコバルト(Co)の焼結体試料を反射と透過の2種類のEBSD法で観察し、特に透過EBSDにより実用的なスループットでSTEM分析可能な粒子界面の抽出が可能であることを確認した。更にSTEM分析も実施し、WC粒子界面のステップ構造や析出するCo分布の偏りを捉えることに成功した。今回開発したSTEMとEBSD法を組み合わせた分析は、多結晶材料の特性改善を図るための界面構造解析に極めて有効な手法と言える。
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近年、技術の発展に伴って、高性能なレーダの需要が高まっている。これまで、電子管や低出力・低周波の半導体素子を用いられていたものが、レーダの探知距離の拡大化や高精度化のため、高出力・高周波数に最適なGaN HEMTが採用されている。高出力を考慮されたレーダとしてアクティブ・平面フェーズドアレイがあり、個々の素子アンテナを格子状に配列し、電磁波として放射される電力は空間合成され、さらに励振位相を変化させてビーム走査を行う。そのため素子アンテナに内蔵されるGaN HEMTは配列される間隔を搬送周波数の1/2~2/3にする必要があり、X帯であれば、最大でも19mm間隔で配置される。つまり、パッケージ幅をより小さくする必要がある。
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モバイル通信市場では、4Gから5Gへと高速、大容量、低遅延、多数端末接続など、様々なコンテンツサービスの創出につながるモバイル通信サービスの導入が進んでいる。このサービスを様々な場所で使えるよう、高層ビルや屋内施設、地下街などの携帯電話がつながりにくい場所では、通信キャリアのネットワークと接続した基地局を設置し、その基地局から屋内無線装置に信号を送る屋内基地局設備を導入し、サービスの展開を図っている。この屋内基地局設備の無線装置への配線では、給電線と光コードを一体化した光複合給電ケーブルが使用されている。今回給電部と光部をケーブル状態で分離可能なセパレート構造の平形光複合給電ケーブルを開発し、販売を開始した。
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タングステンカーバイド粉を主原料とする超硬合金は高硬度で摩耗に強く、切削工具として用いた場合に加工コストや時間を削減できることから、自動車や航空機、電子機器などの幅広い分野で活用されている。より小さい部品に多機能、高機能が求められる昨今、高精度な工具が必要であり、シャープな形状を実現できる微粒WC粉を原料とした超硬合金の需要が高まっている。
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