データセンタの課題を解決する光接続技術
「次世代データセンタスイッチ向け90度曲げ2次元光ファイバアレイ」
光通信研究所
主査 熊谷 傳
近年、ビックデータやIoTなどの普及により、データセンタでは膨大な量のデータが高速でやりとりされています。そのような中、増え続けるデータ通信を支える機器の収容スペースが不足し、今大きな課題となっています。
こうした課題を解決するカギを握るのが光接続製品です。私たちが開発した90度曲げ2次元光ファイバアレイ(2D-FBGE)では、72本もの光ファイバをコンパクトにまとめ、小径で90度に曲げることに成功しました。これにより、接続に要するスペースを大幅に削減し、機器の小型化とネットワークの高密度化に貢献します。
データセンタの要、CPOスイッチに光ファイバの高密度接続を実現
データセンタ内の限られたスペースに大量の機器を効率よく収納するためには、機器の小型化が求められます。これを解決する技術として注目されているのが、電気と光に関する機能を一つの基板上に集積するCPO(Co-Packaged Optics)スイッチです。CPOスイッチは、ネットワークの電力分配や電力消費量の最適化における重要な役割を担いますが、その実現にはシリコンフォトニクス(SiPh)チップと72本のシングルモード光ファイバをわずかなスペースで効率的に接続しなければなりません。
当社は、SiPhチップ接続用の90度曲げ光ファイバアレイ(FlexBeamGuidE:FBGE)をすでに開発していましたが、これは8本の光ファイバを1列に並べただけの1次元光ファイバアレイでした。そこからさらに研究を重ね、6本×12配列の2次元構造を持つ光ファイバアレイへと展開させたのがこの2D-FBGEです。72本の光ファイバを0.25×0.30mm間隔で配列し、小径で90度に曲げることに成功、高さを抑えながら高密度な光接続を実現することができました。
最大の難関は偏波保持光ファイバの90度曲げ
1次元光ファイバアレイのFBGEに対して、2次元光ファイバアレイ2D-FBGEの90度曲げは難易度の高い挑戦でした。難航したのが偏波保持光ファイバ(PMF)を小径に曲げることです。CPOスイッチには、外部機器からSiPhチップに光を効率よく伝播するための偏波保持光ファイバ(PMF)が必要です。一般的なシングルモード光ファイバ(SMF)とは異なり、PMFは光の振動の状態を保持して信号を伝えるための特殊な構造を持っているため、曲げることによって光の偏波状態が変化し、信号の品質を劣化させる恐れがありました。
この課題の克服には、共著者である北尾さんの緻密な実験とデータ解析が大きく貢献しました。研究熱心で協力的なチームメンバーに恵まれ、数々の難しい課題を乗り越えて、2D-FBGEは完成しました。結果として、私たちは光ファイバの性能と品質を損なうことなく、目標の6mmを下回る5.5mmの高さで小径曲げを可能にする手法を確立しました。
2D-FBGEの技術を世界に
2D-FBGEは、省スペース化という課題を克服するために開発しましたが、今後は通信速度や信頼性の向上といった機能面での貢献も求められると考えています。業界や市場のニーズに応えるためにも、通信分野の専門家たちが集う国際会議や展示会に参加し、情報交換やネットワークづくりを積極的に進めたいと考えています。また、2D-FBGEの技術を世界に知ってもらえるように、海外市場の開拓やビジネスパートナーとの技術提携の機会も模索していきたいと思っています。
共著者の北尾陽輝さんと
関連情報
[論文] Tsutaru Kumagai, Haruki Kitao, and Tetsuya Nakanishi, “2-dimensional Low-profile Fiber Coupler for Co-packaged Optics,” European Conference on Optical Communication (ECOC) 2022, Tu5.1
[論文] シリコンフォトニクスチップ接続用 90度曲げ光ファイバアレイ
[技術・製品情報] Fiber Optic Interconnect