確かな価値を生み出すハードウェアで、持続可能な社会を切り開く

齋藤 達哉

アキシャルギャップモータと圧粉磁心によるサステナビリティ社会への貢献
住友電工焼結合金株式会社
主席 齋藤 達哉

「使用済みモータをもう一度原料として生かす」——そんな思いから、私たちは圧粉磁心とアキシャルギャップモータの研究に取り組んできました。圧粉磁心とは、鉄粉を押し固めてつくる鉄心で、製造時のCO₂排出量は、現在一般的に使われている「電磁鋼板」と呼ばれる鉄心のわずか4分の1。さらに、使用後は粉砕して材質別に選別することで、その粉末を再び原料として利用することができ、モータのリサイクル性を飛躍的に向上させます。この圧粉磁心を薄型で高効率なアキシャルモータに適用することで、調達リスクの高い部材に頼らずとも、従来のモータと同等の性能を実証しました。また、その製造過程におけるCO₂排出量は従来のモータに比べて低く、半減できる可能性が見えています。まだ普及途上の今だからこそ、材料ラインナップやエントリーモデルの拡充などによって採用障壁を下げ、持続可能なモータ技術の社会実装を加速させたいと考えています。

「数字で見せる」ことで伝わる価値

圧粉磁心がリサイクルに適し、CO₂排出量も少ないことは、5年以上前からデータや経験によって認識していました。しかし、それらは定性的な説明にとどまり、採用を検討するお客さまに十分な説得力を与えられていませんでした。その後、電磁鋼板や磁石の入手が難しくなったことをきっかけに、調達性に優れた部材への関心が高まりました。そこで私たちは、モータ全体のCO₂排出量やリサイクル性を定量的に可視化し、さらに経済的にリサイクル可能な方法を実証しました。例えば、圧粉磁心とフェライト磁石を組み合わせたアキシャルモータでは、調達リスクの高いNd焼結磁石や平角線を用いたモータと同等の出力と効率を維持しつつ、製造時のCO₂排出量を約半減できることを示しました。こうした定量的な裏付けにより、圧粉磁心やアキシャルモータの採用意義をより明確にし、お客さまに「選ぶべき理由」を確信を持ってお伝えできるようになりました。


齋藤 達哉
 

モータ全体を見据えた課題解決

開発初期は、圧粉磁心そのものの性能改良によってあらゆる課題を克服しようと考えていました。しかし、必ずしも材料性能の改善が唯一の解ではなく、圧粉磁心の形状や周辺技術も含めた設計の見直しによって課題が解消できる場合もあります。私はモータ設計の専門家ではないため、当初はそこまで視野を広げた提案にいたりませんでしたが、共同研究や学会参加、お客さまとの対話を重ねる中で、部材単位ではなくシステム全体での改善策を考えられるようになっていきました。薄膜で絶縁塗装した圧粉磁心を量産採用していただいた事例では、単に圧粉磁心を提供するだけではなく、モータの電磁気設計や圧粉磁心の固定方法も含めたご提案も評価していただき、量産採用に繋がりました。素材からモータ設計までを一体で考える姿勢こそが、課題解決の幅を広げ、スピードを上げる鍵だと実感しています。


齋藤 達哉
 

ハードの力で未来を切り拓く

モータに使える部材の選択肢が限られていたこれまでは、部材調達リスクが常に付きまとっていました。圧粉磁心を用いれば、こうしたリスクを軽減でき、さらに使用後のモータから材料を回収して効率的にリサイクルすることもできます。モータ分野の多様な課題に対し、圧粉磁心やアキシャルモータが有効な解決策となる場面は数多くあると考えています。お客さまと課題を共有し、解決策を共に見出しながら、まずは必要とされる現場での採用を広げると同時に、アキシャル構造の特性を活かした新しい製品設計にも挑戦していきたいと考えています。例えば、ポンプやアクチュエータとモータを一体化することで、製品全体の設計自由度や効率を大きく向上させられます。ソフトウェアによる付加価値創出が注目される中でも、確かな価値を持つハードウェア技術を提供し続けたい。そのためには、自分たちの考えが凝り固まっていないかを常に自問し、自社の技術と市場の動向を客観的に見極める姿勢を持ち続けることが不可欠です。お客さまはもちろん、関わるすべての人にとって価値のある、持続可能な技術を提供し続けることこそが私の目標です。


齋藤 達哉
 

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