09 February 2022
UAE 向け超高圧直流海底ケーブルの発注内示を受領 ~中東地域初の大規模直流送電プロジェクトに参画~
住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、社長:井上 治、以下 当社)は、韓国・サムスン C&T より、アラブ首長国連邦(以下、UAE)・アブダビ国営石油会社(以下、ADNOC)向けに超高圧直流ケーブルの発注内示および限定的着工指示を受領しました。
これを受け、海底ケーブルおよび関連機器の設計ならびに製造準備を開始します。当案件は、中東地域で初の超高圧直流送電プロジェクト(ルート全長約 140km)であり、業界最高電圧クラスの当社製 400kV 直流 XLPE*¹ケーブルが採用されます。最終投資決定の後、2022 年度中に正式発注を受けて着工し、2025 年に完工予定です。受注金額は約 200 億円の見込みです。
本案件は、ADNOC およびアブダビ国営エネルギー会社が、九州電力送配電株式会社、株式会社キューデン・インターナショナル、韓国電力およびフランス電力と共同で特別目的会社を設立して実施するプロジェクトライトニング(Project Lightning)の一環で、韓国・サムスン C&T およびベルギー・ヤン・デ・ヌル(Jan de Nul)にケーブルおよびコンバーターの設置を発注したものです。
UAE は、2050 年に温室効果ガスゼロを国家目標(Net Zero by 2050 Strategic Initiative)に掲げています。その方針の下で取り組まれる本案件は、UAE 本土と海上のエネルギー関連施設を結ぶ海底送電網を構築し、開発が進むクリーンエネルギーを本土から送電することで、石油・ガス生産時の CO 2 排出量大幅削減をめざすもので、同国の脱炭素化に向け、多大な貢献が期待される重要な国家プロジェクトです。このたび、当社は、①世界最高レベルの技術力、②国内外で多数の超高圧直流ケーブル受注・完工実績が認められ、発注内示受領に至りました。
① 世界最高レベルの技術力
超高圧直流ケーブルは、送電ロスが少なく、洋上風力や地域間連系、離島送電といった長距離大容量送電に適しています。環境への配慮から、従来の絶縁油に代わってXLPE 絶縁が業界の主流となりつつあり、中でも当社製品は以下の技術的特長を有しています。
(1)高い許容運転温度
当社独自開発の絶縁材料は、許容運転温度が 90℃と、業界標準(70℃)よりも高く、業界標準品と同じ導体サイズで目的に応じて以下のようにケーブルを設計することが可能です。
・ 業界標準品よりも高い運転温度を活かし、導体サイズを小さくケーブルをコンパクトにしながら、同水準の送電容量を確保
・ 業界標準品と同じ運転温度としながら、急激な電力需要増に伴う運転温度上昇など、ケーブルに負荷がかかる状態にも安定的な運転を維持。
(2) 極性反転運用に対応
一般的に、極性反転(運用の状況に応じて電圧のプラスとマイナスの極性を入れ替える操作)を行う際には、絶縁性能が低下する課題がありますが、当社製品は独自の絶縁材料の開発により、性能を維持したまま極性反転が可能です。この特長により、業界標準品と異なり、複数タイプ(自励式/他励式)の交流直流変換機への接続・運転が可能となり、架空送電線との接続運転時の絶縁破壊リスクの大幅低減、システムの信頼性向上に大きく寄与します。
② 国内外で多数の超高圧直流 XLPE ケーブル受注実績
当社グループは、日本で初めて超高圧直流 XLPE ケーブルの実線路への導入に成功し、海外市場では、英国・ベルギー間に、現在運転中の線路では世界最高電圧(400kV)となる直流 XLPE ケーブルを納入・布設しました。また、ドイツでは、世界最高電圧となる 525kV のプロジェクトを受注しています。当社が手掛けた以下の超高圧直流 XLPE ケーブル導入プロジェクトでは、完工後の故障報告はなく、高い品質での導入・運用実績を誇ります。
受注年(完工年) | 電圧 | 案件 |
2009(2012) | ±250kV | 北海道・本州間電力連系設備 ※当時、直流 XLPE ケーブルでは世界最高電圧 |
2015(2019) | ±250kV | 新北海道本州間連系設備(北斗今別直流幹線) ※海峡トンネル内への超高圧ケーブル敷設工事としては世界最長 |
2015(2019) | ±400kV | イギリスーベルギー国家間連系線(NEMO プロジェクト) ※アジアのケーブルメーカー初となる欧州連系線市場への参入 ※商用運転中の直流 XLPE ケーブルでは世界最高電圧 |
2017(2021) | ±320kV | インド超高電圧直流送電ケーブルシステム(PK2000) ※インド初の超高圧直流ケーブル納入 |
2020 (予定:2029) |
±525kV | ドイツ国内 超高圧直流送電ケーブルシステム (Corridor A-Nord) ※建設中の直流 XLPE ケーブルでは世界最高電圧 |
2021 (予定:2023) |
±400kV | ドイツーデンマーク国家間連系線 (KONTEK) ※他励式(LCC)との組み合わせで直流 XLPE 絶縁ケーブルが採用されたのは世界初 |
2021 (予定:2024) |
±320kV | イギリスーアイルランド国家間連系線(グリーンリンクプロジェクト) ※再生可能エネルギーの国家間融通による負荷平準化 |
世界的な再生可能エネルギーの開発加速や国家・地域間連系線建設の活発化を受け、当社が技術・実績で業界をリードする超高圧直流 XLPE ケーブルは、中長期的に更なる需要拡大が見込まれます。日本国内においても、2050 年カーボンニュートラルの実現に向け、洋上風力などの再生可能エネルギーの大規模導入が検討される中、これらの新電源向けの送電容量を許容し、需給バランスを維持するため、超高圧直流送電を含む海底・陸上ケーブル網の整備が喫緊の課題とされています。当社は、国内外で超高圧直流ケーブルの納入実績を有する国内唯一のケーブルメーカーとして、最先端の技術と高品質・低事故率を実現するソリューションの提供し、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
*¹ XLPE(Cross Linked Polyethylene):架橋ポリエチレン絶縁
・参考資料
【技術論文誌「住友電工テクニカルレビュー」No.200(最新号:2022 年 1 月 31 日発行)】
・特集「技術開発を通じた脱炭素社会への貢献」
・再生エネルギー普及に向けた直流 XLPE ケーブルの高電圧化と適用拡大
【プレスリリース】
・2019 年 5 月 16 日:
高圧直流ケーブル事業の推進
~欧州・NEMO LINK および北海道・北斗今別直流幹線に直流 XLPE ケーブル敷設完工~
・2021 年 3 月 16 日:
インド初の直流 XLPE ケーブルによる超高圧直流送電システムの商用運転開始
~住友電工、Siemens Energy 社の共同受注プロジェクト~
【社外広報誌「id」Vol.1(2017 年 7 月発行)】
・国と国を結ぶ海底ケーブルプロジェクト