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自動車業界の変革「CASEに向けた挑戦」~ワイヤーハーネスの信頼性評価と高速通信部品の設計~

求められたCAE技術による断線寿命予測

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解析技術研究センター 大阪研究部長 島田 茂樹

 100年に一度の変革期を迎えているといわれる自動車業界。その動向を示すキーワードとされているのが「CASE」、Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)だ。住友電工グループは、総合的な自動車部品サプライヤーとして「CASE」に対しても様々な取り組みを進めているが、ここでは主力製品であるワイヤーハーネスとそれを接続するコネクタのCAE解析の取り組みを取り上げたい。

 ワイヤーハーネスは、自動車の車内配線に多く用いられており、エネルギーと情報の伝達を行う、いわば人体の神経や血管に相当する役割を担う伝送システムである。その信頼性評価は大きな課題の一つになっていた。信頼性の一つに断線までの寿命がある。特に、頻繁に開閉するドアの可動部のワイヤーハーネスの信頼性評価は大きなテーマだった。住友電工グループは1990年代に屈曲(断線)寿命予測のシミュレーションに着手。当時から、CAE解析に関わってきたのが、大阪研究部・部長の島田茂樹だ。

 「自動車メーカーから、信頼性要求が高まってきたのは2000年頃でした。同時にワイヤーハーネスメーカー間のCAE技術開発競争が激しくなり、屈曲(断線)寿命予測技術で他社に逆転される状況となったのです。顧客からは10年遅れていると厳しい指摘を受けたものです。そうした中、分析とCAE部隊が一体化した解析研が発足し、実験・検証を担当する住友電装(株)と共同で、より高精度なCAE開発に着手。節目となったのは、X線CTを活用してケーブル内の素線の形状を可視化し、ケーブル内のダメージの入る箇所や、屈曲寿命を支配する因子を明らかにするなど、新たなCAE手法を確立したことでした」(島田)

 現在では、顧客であるカーメーカーより、業界トップクラスのCAE技術という高い評価を獲得している。

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ケーブルのX線CTとCAE解析結果 応力(ストレス)を示しており、赤い箇所に強い応力が掛かっている

電気自動車という大きな潮流がワイヤーハーネスを変える

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住友電装(株) 技術統轄部 開発実験部 W/H信頼性グループ長 田中 有紀

 ワイヤーハーネスの信頼性評価が重視されるのは、それがクルマの安心・安全に直結するからだ。言い換えれば、「断線せずに、クルマがそのライフを終えることができる」信頼性が求められている。そう語るのは、住友電装(株)の開発実験部・W/H信頼性グループ長の田中有紀だ。

 「近年、新車開発は、より短期間化しつつあります。その中でワイヤーハーネスに対する屈曲耐久性の要求も高くなっています。私たちワイヤーハーネスメーカーは手戻りの時間を取れなくなっています。そのため設計段階でのCAE活用は不可欠であり、シミュレーションによって早期に問題点を潰していくことが、重要な役割の一つになっています。また、受注コンペでもシミュレーション技術を活用した信頼性確認が要件化されています。今後、シミュレーション技術をさらに進化させると同時に、その技術を活用できる人材育成を進めることで強いCAEチームを作っていきたいと考えています」(田中)

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解析技術研究センター 大阪研究部 CAE2グループ 主査 奥村 宗一郎

 大阪研究部でCAE解析を担っている奥村宗一郎は、島田とともにCAEによるワイヤーハーネスの断線寿命予測技術に取り組んできたが、CASEの動向はワイヤーハーネスのCAEにも新たな局面をもたらしていると言う。
 「CASEの一つに挙げられるElectric(電気自動車)には、大電流が必要とされます。そのため必然的にケーブルは太径にならざるを得ません。従来、車内に張り巡らされたエネルギー伝達のためのケーブルは、数十本の素線で構成されていましたが、電気自動車で採用されるケーブルは、多いものでは数千本の素線で複雑な構造をしています。どこにダメージが入り断線の可能性があるかシミュレーションによって見極めていくわけですが、それは同時に長寿命化のケーブルを実現するノウハウ確立のためともいえます。素線の撚り方、曲げ方は多様であり、それらが性能や製造工程の効率性にも関わってきます。実物の実験ではできない世界で、CAEを駆使し、電気自動車に求められる信頼性の高いケーブルを実現したいと考えています」(奥村)

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ケーブル外観とX線CT3D画像。CAE解析に必要な知見を提供

CAE解析を駆使した高速通信コネクタの開発

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自動車事業本部 CAS-EV開発推進部 コネクティッド開発推進部 山下 真直

 「CASE」で示されたConnected=コネクティッドとは、車両の状態や周囲の道路状況など様々なデータをセンサーによって取得し、多彩な価値を生み出す「つながるクルマ」を指す。つながるための情報の伝送を車内で担うのがワイヤーハーネスだ。重要なポイントは、通信の高速化・大容量化に伴い流通する信号が高周波化することである。その信号のスムーズな伝送は、「コネクティッド」実現のために不可欠とされている。これを実現するのが、自動車事業本部でコネクティッド開発推進部に所属する山下真直の取り組みである。

 「車内に張り巡らされたワイヤーハーネスを接続する部品にコネクタがあります。高周波では非常に短い時間で極めて波長の短い電気信号で通信しますが、信号はコネクタに少なからずストレスを感じてしまい、反射などにより信号が弱まり、通信の不整合が生じてしまう可能性があります。そこで、信号がコネクタをスムーズに通過する形状設計が求められています。その際に活用するのがCAE。CADで形状を設計し、コンピュータ上の解析ソフトに取り込んで通信条件を設定した後、CAEの手法の一つである、解析対象物を単純な要素に細分割したメッシュの計算で、コネクタの最適な形状を導き出す。それが、コネクティッド実現手段の一つとなります」(山下)

 山下が取り組む「計算」は課題の一つだ。CAEでは、波長の短い高周波を表現するためにメッシュサイズは細かくする必要があり、解析で行う計算、データ量は年々大規模化しつつある。計算技術開発に注力するとともに、設備増強など、次代のCAE解析を見据えた体制構築が進められている。

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高周波CAE解析による電磁ノイズの放射図 コネクタ部における電磁放射時の波の強度を示しており(赤:強い)、強弱しながら伝搬

 ここまで紹介した住友電工グループの解析技術の取り組みは、一つの事例に過ぎない。解析研が対象とするのは、全事業分野の全製品だ。優れた解析技術は、競争優位性の確保につながる。そして、解析技術の進化を促しているのは、製品の高い信頼性を担保し、より良いモノづくりに貢献するという研究者一人ひとりの使命感だ。それを遂行するための挑戦に終わりはない——

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高周波CAE解析を支える大規模計算サーバー(伊丹製作所)