~解析技術研究センターの使命~先進の解析技術がモノづくりを加速させる
分析技術と解析技術の融合
2022年1月に開設20周年を迎えるのが、住友電工グループの「解析技術研究センター」だ。その取り組みは、1960年代に遡る。社内に「試験課」を設置、「特性評価センター」の発足へと深化した。一方、コンピュータを駆使した解析を担う「コンピュータ室」を設置し、「CAE研究センター」へと組織の充実・拡大を遂げてきた。「特性評価センター」に至る取り組みはモノを直接見て評価する「分析」を担い、「CAE研究センター」は理論計算で予測する「解析」を担っていたと言える。CAEとはComputer Aided Engineeringの略であり、製品・材料の開発設計・製造などの段階で、その製品・材料が性能や品質に問題がないかどうか、コンピュータによるシミュレーションによって事前検討するシステムだ。力の状態や流体、熱、電磁場などの物理現象の計算が可能であり、応力、温度、電磁場のように目に見えない物体内外の現象を可視化することができる。これによって、不具合の原因解明や製品の強度・寿命の予測、さらに試作することなく多様な設計検証を可能とする。近年、CAEはモノづくりを担う多くのメーカーに採用されており、製品の信頼性を担保し、競争力を確保する重要なツールになりつつある。
「特性評価センター」と「CAE研究センター」は全社に向けて、それぞれソリューションの提供をミッションとしていたが、より深く、かつより広い各種課題の本質解明を行うために2002年統合、「解析技術研究センター(以下、略称:解析研)」が誕生した。設立の趣旨には「解析技術を変革する」とある。すなわち、単なる分析・解析に留まらず、製品の各種課題の本質を解明し解決するためのソリューションを提供し、そのための解析技術を開発、さらにそのプロセスで得られた知見の横展開による情報共有を促すことで、住友電工グループのモノづくりの基盤強化を果たすことがその使命である。
「見えないものを見えるようにする」技術
では、分析・解析とはどのような取り組みなのか。解析研のセンター長を務める木村淳は、「端的に言えば見えないものを見えるようにする作業だ」と言う。
「解析研の中で分析の位置付けは現物(モノ)を直接見ることであり、CAE解析は目に見えない現象や、起こり得る現象を理論で予測する取り組みです。たとえばめっき。一つの製品でめっきの厚さが大きくばらつく場合、分析とCAE解析が連携して不具合の原因を解明していきます。分析では、通常は見えないめっきの結晶組織、成長過程を電子顕微鏡で観察、化学分析でめっき液の組成濃度を確認し、めっき液成分の働きが設計通りかを見極めていきます。一方、CAE解析では電圧を与えたときの電界の分布、めっき液の流れなどを可視化。こうした連携によって、問題の本質を解明していきます。このように、分析もCAE解析も『見えないものを見えるようにする』ツールであり、これにより多角的な考察、アプローチが可能となり、課題解決につながる議論が誘発され、ソリューションを導き出していくわけです」(木村)
解析研が対象とする製品は、住友電工グループが扱う全製品に及ぶ。活動拠点は、大阪、伊丹、横浜の3ヶ所。それぞれ、自動車、情報通信、エレクトロニクス、環境エネルギー、産業素材の各分野・各種製品の解析を担当する。さらに、佐賀県鳥栖市にある公的研究機関、九州シンクロトロン光研究センターに専用放射光実験施設を保有。これは高強度のX線を材料に照射することで、詳細な解析を可能とするものだ(詳細・後述)。また、主に中国の生産現場における品質課題ニーズの増加を見込み、特にプリント回路事業を支援するため、2012年、中国・蘇州に中国解析センターを発足させた。
競争力を確保するために重要視される解析技術
モノづくりの世界において、解析技術が持つ意義は年々高まっている。市場優位性を確保する上で極めて重要なファクターになりつつあるのだ。
「最近は、顧客から高度な解析要求を受けるようになり、高度な解析を自社で行えることは競争力を保つために不可欠です。顧客の中には、サプライヤーの査定基準の一つに分析・解析能力を挙げているところもあります。査定結果が通達され、それが受注やシェアを決める材料の一つにもなる。たとえば自動車メーカーのコンペ。製品の信頼性試験の結果を提示しますが、最近ではCAE解析データを併せて示すことを要求されています。つまり、信頼性に問題がないというエビデンスが要請されているのです。そのため、当グループの解析技術力や解析体制を顧客へアピールすることも、極めて重要な取り組みと考えています」(木村)
そうした中、解析研の強みの一つは、住友電工グループのモノづくりにジャストフィットした分析・CAE解析のための設備、技術、人材を保有している点だ。たとえば、先に示した専用放射光実験施設は、国内民間企業で保有しているのは3社のみだ。保有する各種設備も業界トップレベル。長年にわたって蓄積された分析・解析技術は、脈々と次世代に継承され現在に至っている。では、一層の解析技術の高度化、能力向上のために何が求められているのか。
「今後強化したいことの一つは情報のHub機能の高度化です。解析で得られた知見の展開に加え、解析のナレッジデータベース化を進めたい。また、生産現場における分析装置の性能維持・作業者のスキル向上に向けた指導管理も強化していきたいと考えています。一方で、解析業務の分業、プラットフォーム化による事業活動の効率化も求められています。解析する対象も日々変化し、解析技術も進化することから、最先端の技術に関しては、外部機関とのアライアンス・コラボレーションも積極的に活用していきます。世界最高性能の放射光施設である『SPring-8』、大強度陽子加速器施設『J-PARC』をはじめ、各種研究所や大学など、人材も含めた交流を活発化していきたい。こうした取り組みを通じて、文字通り最先端の解析技術によって、住友電工グループのモノづくりを支えていく考えです」(木村)