12 November 2024
高精細DisplayPort信号を世界最速の0.07ミリ秒で Ethernet信号に変換するLLMC技術を開発 ~離れた場所でもリアリティや臨場感あふれる映像空間を実現~
住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、社長:井上 治、以下「当社」)は、大容量のXR(クロスリアリティ)映像を超低遅延でネットワーク上に伝送できるLLMC(低遅延メディアコンバータ)技術を開発しました。この技術により、立体映像やVR、ARといった最先端のXRサービスが提供する臨場感や没入感を、遠隔地においても体験できるようになります。本技術に関して、IOWN Global Forumにて実証報告を行いました。
1.技術開発の背景
通信ネットワークの大容量・高速低遅延化、AIの普及やこれを支えるGPU(グラフィックス・プロセシング・ユニット)の高性能化により、遠隔地の空間同士、あるいは、現実世界と遠隔のクラウド上の仮想空間をリアルタイムで結ぶXRなどの新しい映像サービスへの期待が高まっています。
2.本技術の詳細
当社と、ATEN International Co., Ltd. (台湾)が共同開発したLLMC技術は、立体映像やVR(仮想現実)などのヘッドマウントディスプレイやXRグラスに使用されるDisplayPort*1信号を、平均0.07ミリ秒で汎用のEthernet信号へ変換してネットワークに送信し、受信側ではその逆変換を行う技術です。
この技術をOpen APN*2などの高速・低遅延ネットワークと組み合わせることで、高精細高リフレッシュレート映像信号*3をそのままリアルタイムに長距離伝送することが可能となります。同時に、3次元空間における位置情報や視線方向などのユーザー制御信号*4を逆方向に低遅延伝送することができます。
3.IOWN Global Forumのワーキンググループによる実証結果概要
当社は、ソニーグループ株式会社と共同で、本技術のユースケース検討にあたり、双方向遠隔XR映像サービスの1つであるILM(Interactive Live Music)サービス*5の原理実証試験(以下、PoC)を行いました。
本PoCシステムは、ソニーグループ株式会社の技術を導入したPoC用描画装置(Renderer Node)、本件LLMC、当社Open APN終端装置FTU9100*6、APN-TとしてInfinera社のコヒーレント光トランシーバICE-X*7ほかから構成されます。
この結果、XR映像酔いを防ぐための遅延時間 (motion-to-photon*8)の目標値10 ミリ秒を実現することに成功しました*9。また、この際のLLMCの遅延時間は送受平均で0.07ミリ秒/台でした。
これらの結果を、本年6月19日にニューヨークで開催されたIOWN Global Forumワークショップ、および10月8日に台北で開催された総会にて、ユースケースワーキンググループとして報告するとともに、当社は、本PoCシステムと市販のVRデバイスを組み合わせたデモを実施しました。
次世代サービスの実現に向け、引き続き、本技術や、PoCを通じての知見を活用した製品展開、提案を行ってまいります。
LLMC仕様
ネットワークインターフェース | 100Gbps イーサネット(100GBASE-SR4) |
映像インターフェース | DisplayPort1.4(DSC透過伝送) |
制御インターフェース | USB2.0 |
*1 DisplayPortは、標準化団体VESA(Video Electronics Standards Association)によって規格化された、デジタルディスプレイ装置のために設計されたインターフェース規格の1つです。
*2 Open APNは、さまざまな拠点間を光波長パスでダイレクトに接続することを可能としたオールフォトニックス・ネットワークで、Open APN終端装置(APN Extra-Network Gateway)、Open APNトランシーバ(APN-T)、Open APNゲートウェイ(APN-G)、Open APNインターチェンジ(APN-I)などにより構成され、IOWN Global Forumにおいて規格提案が行なわれています。
*3 高精細高リフレッシュレート映像信号:今回の共同PoCにおいては、Full HD 120fps(frames per second)、240fps、360fps、4K 120fpsについてmotion-to-photonの測定を行いました。
*4 三次元空間における位置情報と視線方向のユーザー制御信号は、一般には6DoF(Degrees of Freedom)と呼ばれています。
*5 ILM(Interactive Live Music)サービスは、IOWN Global Forumのユースケースワーキンググループによって提案されたAI統合コミュニケーションを用いた双方向没入型の次世代3D/XRサービスです。ユースケースドキュメントならびに原理実証試験の要件定義(PoC Reference)は、IOWN Global Forumの以下のURLをご参照ください。
・ AI-Integrated Communicationsユースケースドキュメント
・ AI-Integrated Communications原理実証試験の要件定義(PoC Reference)
*6 Open APN終端装置FTU9100は、Open APNと既存ネットワークを繋ぐOpen APN Extra-Network Gateway機能とAPN-Tの制御機能を有する当社のイーサスイッチです。
*7 Infinera社コヒーレント光トランシーバICE-Xは、米国Infinera社が開発した光コヒーレント技術を用いて、一対多の通信を実現する光トランシーバ。コヒーレント技術の「長距離」・「高速」といった特徴を活かしつつ、複数の加入者への通信サービスを一つの光コヒーレントトランシーバで実現できることが特徴です。当社は2023年9月に、一芯双方向の光ファイバー網での家庭向け10G-EPON通信と 法人サービス向けICE-Xコヒーレント通信の重畳試験に成功しています。
(https://sumitomoelectric.com/jp/press/2023/09/prs118)
*8 視野追従映像(motion-to-photon)遅延時間とは、ユーザーが頭部や目線を移動してから、この動きがセンサで検知され、描画装置に伝送され、描画装置にて3D空間情報から2D映像が生成され、HMDやXRグラス内の映像パネルの表示に反映されるまでの総時間のことを言います。XR映像酔いを抑えるにはmotion-to-photon遅延を10ミリ秒程度以下に抑える必要があると考えられており、IOWN Global Forumでは10ミリ秒をmotion-to-photon遅延の目標規格に定めています。
*9 従来の市販の低遅延メディアコンバータ製品は、装置1台当たりの映像変換遅延時間が約1.3ミリ秒でした。加えて、標準化団体VESAによって開発された、映像データを低遅延で圧縮して伝送するDSC (Display Stream Compression) 技術により低遅延軽圧縮されたコンテンツの透過伝送が行えず、かつ、ネットワークインターフェースの速度が10 Gbpsであったため描画装置や表示装置の側で発生する遅延時間の改善に有効な(ただし、より高速な伝送を必要とする)高いリフレッシュレート(1秒当たりの描画枚数)の採用が難しいという課題がありました。このため、従来の市販製品ではmotion-to-photon遅延時間は(光ファイバーの伝送遅延の無い場合でも)20ミリ秒台に留まっていました。これに対し、本技術を用いた共同PoCでは図の測定系にて、リフレッシュレート360fpsおよび240fpsにて6.7ミリ秒、8.6ミリ秒のmotion-to-photon遅延時間が計測されました。これは、描画装置(Renderer Node)の配置されたエッジ・データセンターから視聴者間の伝送距離がそれぞれ約300 km、約100 kmの場合の光ファイバー往復遅延を考慮しても約10ミリ秒のmotion-to-photonに相当します。
ATEN International Co.
ATEN International Co. (Ltd.(TWSE:6277)は、1979年に設立されたKVMおよびAV/ IT接続ソリューションのグローバルリーダーです。台湾に本社を置き、米国、英国、中国、日本を含む複数の国に子会社を持ち、台湾、中国、カナダに研究開発センターを有しています。ATENの詳細については、http://www.aten.com/をご覧ください。
Infinera
Infineraは、通信事業者、クラウド事業者、政府機関、企業のネットワーク帯域幅の拡張、サービス革新の加速、ネットワーク運用の自動化を可能にする革新的なオープン光ネットワーキングソリューションと先進的な光半導体のグローバルサプライヤーです。Infineraのソリューションは、長距離、海底、データセンター相互接続、メトロ・トランスポートの各アプリケーションにおいて、業界をリードする経済性と性能を提供します。Infineraについては、www.infinera.com、X と LinkedIn でフォローし、最新情報を購読してください。
IOWN Global Forum
IOWN Global Forumは、IOWNテクノロジーとユースケースを開発するための民間組織として2020年に設立されました。2023年末現在、150を超える組織で構成されています。IOWN Global Forumの目的は、フォトニクスR&D、分散コンピューティング、ユースケース、ベストプラクティスなどの分野で新しいテクノロジー、フレームワーク、仕様、リファレンスデザインを開発することにより、将来のデータとコンピューティングの要件を満たす新しい通信インフラストラクチャのイノベーションと採用を加速することです。詳細については、https://iowngf.org/をご覧ください。
プレスリリース
高精細DisplayPort信号を世界最速の0.07ミリ秒で Ethernet信号に変換するLLMC技術を開発 ~離れた場所でもリアリティや臨場感あふれる映像空間を実現~
PDFダウンロード