メタルと光の二刀流の強みで、高速情報ケーブル開発を加速
CGを使用しての設計風景(住友電工電子ワイヤー)
Intel社と日本の開発の橋渡し役
2011年、住友電工電子ワイヤーの社内で「Thunderbolt™プロジェクト」が立ち上がった。このプロジェクトに参加したメンバーの一人が、高橋亨である。
「Thunderbolt™を生み出すにあたって、最適なケーブルの長さや径の仕様、伝送ロスの抑制、ケーブルとコネクタの接続における微細技術等々、その規格をIntel社と一緒に作っていきました。Intel社と国内との橋渡し役としてサンプルを作り評価を行うなど、Thunderbolt™を世の中に送り出す最前線にいた実感があります」(高橋)
高橋はその後、Thunderbolt™3ケーブルの量産立ち上げのため、中国・深圳の工場を経て、現在、次世代の規格であるThunderbolt™5の開発チームを率いている。そのチームの一員である朱雲飛は、2018年からThunderbolt™4の開発に参加した。
「Thunderbolt™4ケーブルには、USB4に準拠しつつ40Gbps帯域の超高速が求められました。超高速ケーブルは、多様な複合線で成り立っており、複合線には細いケーブルを採用する必要があります。私が取り組んだのは、ケーブル内の構造を最適な形状に変えること。それによって高速伝送を実現しました」(朱)
Thunderbolt™5に関しては、高橋らのチームがリードしていくことが期待されている。
高周波帯域に対応する伝送路の開発
住友電工電子ワイヤーと連携・協働してThunderbolt™ケーブルの開発に取り組んできたのが、住友電工・光通信研究所だ。その役割を井上武は、次のように指摘する。
「Thunderbolt™ケーブルは、従来とは異なり、回路設計とソフトウエア開発を両立させることが求められています。データをやりとりするためにどのような手順(プロトコル)が適切なのか。初めて取り扱う製品ですから、Thunderbolt™だけではなく、民生通信規格の歴史を理解することから始めました」(井上)
鈴木昌輝も、開発に参加した当初は手探りの状態だったと言う。
「新規規格品となるThunderbolt™に向けては、未確定な仕様情報が飛び交う環境の中でいかに技術的な理解を深め開発を進めるか試行錯誤する、暗黙知がない状態でのスタートでした。その中で基板設計や伝送特性の確認などゼロからデータを収集し検証を進めていきました」(鈴木)
住友電工グループのメタルケーブルは電力、通信の分野で世界のインフラを、光ケーブルは多彩な製品でクラウド社会を支えている。長い開発の歴史に培われたメタルと光の技術力と知見を一体として提供することで、Intel社のニーズに応えていった。中でも新しいバージョンへの対応が、井上らの重要なミッションの一つだった。
「Thunderbolt™4からThunderbolt™5へのバージョンアップでは、通信速度が倍になります。今後も高速化の流れは変わりません。広帯域に応える信号の伝送路を開発すること。今まで使っていた同軸ケーブルの構造を見直し、常に新しい方式を開発・模索し続けなくてはなりません」(井上)
高速通信は、すなわち周波数帯域が高くなることで、伝送ロスの増大を意味する。そのロスを極小化する伝送路が常に求められている。
「Thunderbolt™接続にはコネクタがあり、基板があり、ケーブルが必要不可欠です。伝送速度の高速化に伴い技術開発を進めていく、終わりなき戦いと感じています」(鈴木)