世界的に高まるイオン注入装置への期待~SDGs時代のグローバル戦略を推進~
「半導体・オブ・ザ・イヤー」でグランプリ受賞
2019年に販売を開始した「IMPHEAT-Ⅱ」は、2021年、電子デバイス産業新聞主催の「第27回半導体・オブ・ザ・イヤー2021」の半導体製造装置部門においてグランプリを受賞した。開発の斬新性、量産体制の構築、社会に与えたインパクト(カーボンニュートラル実現への貢献等)が評価されての受賞だった。この授賞式に臨んだのが、SiCパワーデバイス用イオン注入装置開発の現場を牽引してきた、イオンビーム事業本部長の池尻忠司だ。池尻は、開発のみならず販売・営業においても中心的役割を果たしてきた。
「SiCデバイスが注目される中、時代の流れを読んで、当社は早い時期から開発に取り組み、量産体制を構築しました。当社がSiCパワーデバイス用イオン注入装置を開発・販売したインパクトは小さくなく、私が米国駐在時に大手パワーデバイスメーカーから引き合いがあり、商談が成立。当社製品が国内外から注目されるきっかけにもなりました。以来、当社は長年イオン注入装置に関わってきました。そこで培われた技術・知見は一定のアドバンテージがあると思っています」(池尻)
競合の中で差別化を図り市場を開拓する
現在SiCパワーデバイス用イオン注入装置市場で、NICは国内ではおよそ90%、海外でもおよそ40%、それぞれシェアを獲得している。しかし、競合は年々厳しくなっていることを、半導体装置事業部長の阪本崇は指摘する。
「カーボンニュートラルの実現などの社会的ニーズが高まる中、SiCパワーデバイス用イオン注入装置市場への参入も活発化しています。たとえば、半導体装置であればすべて取り扱っている巨大な米国の企業。当社とは比較にならないほどの大企業が競合相手です。国内でも追随する企業が生まれています。そこを勝ち抜くため、技術的優位性を追求しつつ、顧客要望に的確にスピーディに応えていくことやカスタマーサポート体制を充実させていくなど、競合他社との差別化を図っていきたいと考えています」(阪本)
実際の営業のフロントでSiCパワーデバイス用イオン注入装置の拡販に取り組んでいるのが、営業部の片岡良平だ。日本を含むアジアエリアを担当している。
「日本はシェア率も高く、その安定稼働に対する顧客からの評価も高いものがあります。その他アジアでも、韓国や中国の顧客との商談が多くなっています。市場拡大の可能性が高い中国は、大きなシェアを持つ現地メーカーがあり、また当社よりも先行して市場参入している日本メーカーもある。競合は年々厳しくなってきています。中小を含めると、SiCパワーデバイスメーカーは乱立している状態にありますから、成長性のある企業、成功する市場の見極めが必要と感じています。自社の優位性を訴求し、アジアの市場開拓に挑戦していきたいと考えています」(片岡)
グローバル戦略という視点に立つと、課題は欧州市場。欧州の拠点は、オーストリアにある顧客サポート協力企業1社のみだ。今後、自社拠点を設け、きめ細かなカスタマーサービス、アフターケアの実践などで、欧州でのプレゼンスを高めていく考えだ。
FPD向けと同様にシェア100%を目指す
ここまでパワーデバイス製造用のイオン注入装置を見てきたが、NICのもう一つの主力製品にFPD(フラットパネルディスプレイ)製造用のイオン注入装置がある。この分野の責任者である、取締役の小西正志は、SiCパワーデバイス用イオン注入装置をFPD向けと同様のポジションに成長させたいと言う。
「FPDを搭載した身近な製品の一つにスマートフォンがあります。FPDを製造するのにはイオン注入装置は欠かせませんが、当社の装置はシェア100%。スマートフォンの高精細ディスプレイは当社の存在なくして造れません。かつては競合他社もありましたが、次々撤退していきました。それと同じようにSiCパワーデバイス用イオン注入装置でも市場シェア100%を目指したい。その実現のためには、新しい技術、新しい市場への挑戦こそが重要だと思っています」(小西)
NICは2021年4月にスタートした日新電機グループの中長期計画「VISION2025」で、SDGsを中核に据えた成長戦略とそれを支える事業基盤強化に取り組んでいる。SiCパワーデバイス用イオン注入装置の開発・拡販はその一環であり、イオンビーム・プラズマ技術を利用したイノベイティブな装置、技術、サービスのトータルサプライヤーへの進化を目指す。
「持続可能な地球環境にプラスになるキーテクノロジーとなるのがイオン注入技術。それを世界に提供することがカーボンニュートラル実現への貢献となり、世界のあらゆる人が活躍する社会の実現に寄与することに繋がっていくと思っています。それは我々の会社の社員すべてが共有している志であり夢。ビジネスの伸長が社会貢献に繫がる、そのような取り組みをこれからも実践していきます」(前出・長井)
SiCパワーデバイス市場は、今後さらに活況を呈していくことが想定される。それが電力使用による温室効果ガス排出の大幅な低減を実現する。そのトリガーを引いたのは間違いなくNICだ。住友電工グループはNICの取り組みに見られるように、あらゆる機会をとらえて、地球環境保全に向けた活動を推進していく。