住友電工のFPCを世界に供給せよ~最大の生産規模を有するベトナムの未来戦略~
国内外、3拠点の生産体制
FPC製造の海外展開は早かった。1988年、営業拠点として設立したシンガポールで生産を開始。FPCの需要拡大に伴い、1994年、中国で委託加工生産開始(松崗電子線製造廠へ製造委託)、1996年にはフィリピンに FPCの製造会社FSCT(First Sumiden Circuits,Inc.)を設立した。2010年には中国・深圳にSEPG(Sumitomo Electric InterconnectProducts(Shenzhen)Ltd.)を設立し、従来の松崗電子線製造廠への製造委託より切り替えて生産を開始。さらに2012年にはベトナム・ハノイにSEEV(SEI ELECTRONICCOMPONENTS (VIETNAM), LTD.) を設立。現在、住友電工グループのFPC製造は、滋賀県・甲賀市の住友電工プリントサーキット(株)をマザー工場と位置付け、フィリピン(FSCT)、ベトナム・ハノイ(SEEV)の3拠点で展開されている(SEPG は 2021年4月に生産終結)。
国内と海外の製造拠点では、その役割に大きな違いがある。国内の住友電工プリントサーキット(株)は、ファインピッチなどの新製品を担当すると同時に、住友電工グループ各セクションと連携・協働する研究開発拠点でもある。一方で海外は、人手を要する加工や実装などの工程を担う量産拠点という位置付けだ。FSCTは、従来のFPC製造に加え、近年は日本で生産されて送り出されたファインピッチ製品(カメラ用アクチュエーターコイル)の最終加工を担っている。では、FPCの最大製造拠点であるベトナムはどのような状況にあるのだろうか。
スマートフォン搭載のFPC生産拠点
ベトナムの首都ハノイ――ハノイ空港からおよそ20kmのところにある、9割以上が日系企業で占められた「タンロン工業団地」の一角にSEEVはある。2012年、住友グループの別会社からFPC事業を譲渡される形で事業を本格的に開始した。現在は敷地面積約12万㎡にF1~F5の5つの工場を有し、約6,800人の従業員が働く、FPC製造の最大拠点である。ここで生産されているのが、今や世界の多くのユーザーに支持されているスマートフォンのカメラとディスプレイに採用されているFPCだ。副社長としてSEEV発足時からガバナンスや工場運営に関わり、現在、住友電工(上海)電子線製品有限公司総経理を務める大原公彦は生産の特徴を次のように指摘する。
「特徴的なのは、顧客であるスマートフォンメーカーの意向・考えが、生産体制に少なくないインパクトを与えることです。その一つの例が、2015年~2016年にかけて、上工程から下工程・部品実装まで一貫生産体制を構築する大規模投資を行ったことです。顧客にとっては品質確保のための要請であり、それによって確実にトレーサビリティを把握したい意向がありました。1機種で多くの台数が作られるスマートフォンに搭載されるだけに、その品質に対する顧客の目は極めてシビアなのです。よって品質確保とその向上は、常に追求すべき終わりのないテーマです。品質こそが力であり、我々の生命線なのです」(大原)
そしてその最前線を担っているのが、製造部門を統括するゼネラルマネージャーである、ファ・ノック・ヒエップだ。FPC製造に携わって20年近くのキャリアを持つ技術者。そのミッションは、安全第一を大前提に、モノづくりにおいて常に追求される「品質確保」「納期厳守」「コストダウン」の実現である。
「品質を確保する上で最も重要なのは、従業員それぞれが、製造現場で決められたルールを守ることです。その徹底を図るためには、単にルール厳守を求めるだけでなく、何のためのルールかを理解してもらうことが必要。そのための教育・OJTに力を注いでいます。もう一つ大切なことは品質確保にせよ、納期厳守やコストダウンにせよ、従業員それぞれが目標を持ち、その達成のために一丸となる環境を醸成すること。達成感をモチベーションにつなげていくことが重要だと考えています」(ヒエップ)
いかにプレゼンスを発揮していくか
現在、SEEVの生産は順調に推移しているが、課題も少なくない。一つは、爆発的に伸長したスマートフォン市場の成熟により、今後、売上の大きな伸びは期待できないことだ。さらにスマートフォンは、バージョンアップに伴う設計や品質企画の変更、設備増強など、顧客の意向に最大限に応えつつ高い品質を確保していく必要がある。2018年に着任したSEEVの社長・南部克己は、今後のSEEVの展望として“強い工場”への進化が求められると言う。
「モノを作り込む力を磨いて、より強い工場にしていく必要があります。そのためには、住友電工の経営基盤の指標でもある「SEQCDD(安全、環境、品質、価格、納期、開発)」を的確に、地道にマネジメントしていくことが求められています。その際に、重要なのは人材。教育・訓練の実施や、従業員のモチベーション向上など、高いレベルで人材育成に取り組んでいきたい。また、繁閑差の従業員増減への対応のため、工場の一部自動化への検討も進めています。今後大きな伸びは期待できないものの、スマートフォン自体は確実に進化していくことが予想されます。次世代スマートフォンに対応する独自技術を発揮することで、顧客の信頼に応え、着実な収益確保を図っていきたいと考えています」(南部)
FPC業界そのものが踊り場に来ているという指摘は少なくない。これまで、スマートフォン需要の追い風とニーズに応える技術力で大量生産体制を構築したSEEVが、今後、最大の生産拠点としてどのような特徴を打ち出し、いかに進化していくのか。正念場の時を迎えている。