スマートフォンに搭載されているカメラのアクチュエーターコイル

ファインピッチという超微細回路に挑む~FPCはいま新たなステージへ~

ミクロン単位の微細回路・ファインピッチ

1990年代から爆発的に普及・拡大した携帯電話は、FPCの採用に拍車をかけた。そうした中、FPCは市場から新たな要請を受けることになる。それが「ファインピッチ」だった。一言でいえば微細回路・高密度回路のことである。ファインピッチはL/S(ライン・アンド・スペース)で示されることが多いが、たとえば、1980年代当時であればL/S=100µm/100µmほどのピッチであり、これは回路幅(ライン)100µm/ 回路間隔(スペース)100µmであることを示す(100µm=0.1mm)。その後、2000年代初頭にはL/S=50µm/50µmのファイン化を実現する(50µm=0.05mm)。こうしたピッチの微細化は、エレクトロニクス機器に求められた一層の小型化、高機能化に対応するものである。より薄く、軽く、そして高機能を実現するためには、FPCのファインピッチ化は欠かせない要素だったのである。しかし、この要請に終着点はなかった。

「銅エッチング法」から「銅めっき法」へ

Sumitomo Electric USA, Inc. 野口 航 (写真は、住友電工プリントサーキット(株)技術部当時)
Sumitomo Electric USA, Inc. 野口 航 (写真は、住友電工プリントサーキット(株)技術部当時)

市場からは、さらなるファインピッチ化、すなわち超微細回路が求められていた。だが、すでに従来製法では限界が見えていた。従来FPCの製法は、感光を利用した「銅エッチング法」が採用されていた。しかしこの方法では、さらなる微細回路を構成できない。その状況に対して、開発スタッフは新たな製法を模索。その結果から生まれたのが「銅めっき法」だった。セミアディティブ法とも呼ばれているもので、電解銅めっきを使用するところに最大の特長がある。この開発に直接携わったのが、新入社員当時から、技術部でファインピッチ製品の量産化を担当し、現在 SumitomoElectric USA, Inc. に在籍する野口航だった。
「電解銅めっきによって回路パターンを成長させることがポイントになりますが、基板にめっきを均一に付着させなければ、回路パターンの成長にバラツキが生まれます。回路断面の高さは同一でなければならず、そのためにはめっきの付き具合を決定付けるイオンの供給量を的確に制御する必要がありました。試行錯誤の中で最適な条件を見出し、製法を確立していきました」(野口)

画期的転換となったアクチュエーターへの採用

First Sumiden Circuits, Inc. 上田信吾(写真は、住友電工 プリント回路事業部 技術開発部長当時)
First Sumiden Circuits, Inc. 上田信吾(写真は、住友電工 プリント回路事業部 技術開発部長当時)

現在では、国内同業他社でも採用されつつあるセミアディティブ法だが、当時は極めて画期的であり、超微細回路の道を切り拓いた製法だった。この製法によって「50µm」の壁を突破し「25~20µm」を実現。「ファインピッチの時代」が幕を開けたといっても過言ではない。当初、ハードディスク用途で開発された技術であったが、市場から大きな支持を受け、現在も量産されているのがスマートフォンに搭載されているカメラのアクチュエーターコイルである。ファインピッチの進化に伴うカメラアクチュエーターへの採用は、FPCのあり方そのものの大きな転換を意味することになった。入社以来約30年にわたり、一貫してFPCに取り組んできた技術者、上田信吾は「それは、配線材から機能部品への転換」だと指摘する。
「従来、FPCは配線材として供給してきましたが、アクチュエーターへの採用で機能部品へ進化する道が生まれました。FPCがカメラのアクチュエーターに採用されたのは、ファインピッチによって形成されたコイルが磁力を発生し、その磁力によって“手振れ防止”という機能を発揮するからにほかなりません。単なる配線材とはその目的も存在理由も大きく変わってきているのです」(上田)

ファインピッチ化には、「銅めっき法」という製造技術に加え、新たな技術が投入されている。FPC高機能化のニーズに伴い導体層は両面化しているが、そのキーとなる層間接続でも、ナノ導電ペーストを用いた画期的な技術を開発。また、電源ケーブルを接続することなく電子機器へ給電できる超小型・薄型ワイヤレス給電モジュールを生み出した。
「こうしたファインピッチが生み出す機能を有効に活用できる、新たなエレクトロニクス機器を探索・検討して用途拡大することが、現在の私のミッションです。たとえば、軽く、薄く、小さい特性を活かし、人が身に付ける各種ウェアラブル機器や医療機器での採用など、新たなニーズを自分たちで掘り起こす取り組みを進めています」(上田)

走査電子顕微鏡で見たアクチュエーターコイル
走査電子顕微鏡で見たアクチュエーターコイル
回路部の拡大写真
回路部の拡大写真

住友電工の総合力が生むFPC の進化

FPC製造拠点は、滋賀県に本社を置く住友電工プリントサーキット(株)をはじめ、国内外に3ヶ所あるが、ファインピッチ製品は国内のみの生産だ。その理由を、同社社長の立田浩は、独自性の確保にあるという。
「ファイン化の製造技術には様々な独自の技術・ノウハウが詰め込まれています。また5G対応の新たなFPCにおいても独自の材料技術が投入されています。これらをグローバルに展開すると、追随あるいは模倣する他社が出てくる可能性は否めません。当社独自の卓越した技術を確保し育成するためにも、新製品は日本のみで対応することとしています。そしてそれら技術力は、当社のみの力でなく住友電工グループの総合力が発揮されることで生まれており、それが当社FPCの強みの一つだと思っています」(立田)
次章では、グローバルに展開する海外製造拠点の現状について報告する。

住友電工プリントサーキット(株) 社長 立田 浩
住友電工プリントサーキット(株) 社長 立田 浩
住友電工プリントサーキット(株) 社長 立田 浩

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