街を変え、生活を変えた交通管制システム ~ITSの進化が都市交通問題を解決する~
プロジェクト終了がスタートライン グローバル化を加速させる
2017年春、100ヵ所の交差点すべてに真新しい信号機が建った。並行して、管制センターと信号機をつなぐ光ケーブルネットワーク構築が進められた。年が明けた2018 年、前出の下村の異動に伴い赴任したのが、グローバル業務グループの服部光伸である。管制センターと信号機は物理的につながっているものの、その通信品質は不安定なままだった。安定的な接続を実現すること。それが服部のミッションだった。
「つながるべきところがつながらない。その原因を解明して改善していく、その繰り返しでした。ただそれを私がやってしまっては、ローカルスタッフは技術を吸収できません。ドキュメントをつくり一緒に現場に行って確認し、粘り強く指導していきました。また、プノンペン都が進める都市美化計画に基づく光ケーブル切断など、不測の事態もありましたが、とにかく安定的につながることを目指して、プノンペンの街を走り回りました。この国の人のためにいいものを作りたい、その想いが仕事を支えていたと思います」(服部)
こうして、多くのスタッフの奮闘努力の末、2018年12月、交通管制システムはプノンペン都に引き渡された。しかし、堀江も服部もプロジェクト終了の感慨はない。服部も「これでスタートラインに立った」と感じたという。
「交通管制センターが稼働し、一つの完成をみましたが、交通状況は生き物です。交通状況の変化に応じて今後もシステムの変更、改善、高度化が必要になります。これを機に新たなビジネスを生み出していきたいです。このプロジェクトを“昔話”にはしたくないのです。ITS のグローバル化を加速させていくことで、新たなビジネスを創造していくことが私のミッションと自覚しています」(前出・堀江)
渋滞緩和の実現と 交通ルールの浸透
新興国の都市交通問題解決へ
交通管制システムの導入は、現在プノンペンの交通環境に着実な変化をもたらしている。それはプノンペン都公共工事・運輸局長サム・ピセット氏の言葉からも伺われる。
「導入以前に比べて、交通渋滞は大きく緩和されています。加えて重要なことが、システム導入によって交通ルールを順守するなど市民の意識に変化が見えることです。住友電工グループには、高い品質の機器や工事の提供だけでなく、諸問題にも迅速に対応していただきました。技術、サービスにおける“日本品質”のすばらしさを実感しています。今後も、信号制御をはじめとした交通インフラ整備に協力していただきたいと思っています」(ピセット氏)
今後、住友電工グループのITS 事業はグローバル化をさらに加速させる考えだ。見据えるのはITSに留まらない、自動車の進化と連動する展開だ。
「信号制御は都市交通において必須のものであり、新興国を中心に確実にニーズはあります。一方で、自動車自体に電動化やコネクテッド化など、大きな変革の波がやってきています。これら変化とITSの親和性(センサー制御等)に新たなビジネスチャンスもあります。住友電工グループは自動車のハーネスなど基幹部品を世界に供給しており、グループ全体で、新たな交通インフラ創出をグローバルに展開していきたいと考えています」(前出・鷲見)
プノンペンで展開した住友電工グループの交通管制システム導入プロジェクトは、都市交通問題の解決によって経済活性化や生活の質の向上にダイレクトに直結する取り組みだった。参加したメンバーには、事業を通じて社会に貢献する確かな手応えがあった。今回の取り組みを試金石として、新興国の都市交通問題解決に向けた、ITS事業の新たな進化が始まろうとしている。