国家支援プロジェクト実現への道程 ~新興国の都市交通問題を解決せよ。ITSの新たな挑戦~
JICA の交通問題解決支援最優先プロジェクト、ITSの導入
カンボジア・プノンペン都が抱える都市交通問題の解決に向けた動きは、2001年に遡る。JICAは開発調査「プノンペン市都市計画調査」(2010年より市から都に転換)を実施し、2015年を目標年次とした都市交通マスタープラン(2001M/P)の策定を支援。その後、車両数の増加や拡大した都市圏からの交通流入等により、渋滞や事故数が深刻化している事態を受け、プノンペン都からJICAにアクションプランの策定支援が要請された。JICAは2012年から、新たに開発調査型技術協力「プノンペン都総合交通計画プロジェクト」を実施し、プノンペン都と共に交通マスタープラン(2014M/P)を策定した。JICAの現地での担当である岩瀬英明氏に話を聞いた。
「2014M/Pでは2035年を目標年次とする長期計画と、都市道路網の拡張整備、公共交通導入、信号機・交通管制システム等のITS(Intelligent Transport Systems =高度道路交通システム)導入を含む短中期計画が示されました。その中で最優先プロジェクトの一つに位置付けられたのが、信号機・交通管制システム等のITS導入でした。当時、プノンペンには信号機が整備された交差点が69ヵ所ありましたが、その多くが交差点ごとに独立して稼働しているものであり、都市全体に点在する信号機と連携された制御システムとなっていないため、交通混雑に対応できない状況だったのです。このような状況を踏まえ、カンボジア政府がわが国に交差点信号機と交通管制システム導入に関する無償資金協力を要請、資金供出が決定したことでプロジェクトが始動しました」(岩瀬氏)
国内市場で培ってきた技術で
新興国・都市交通問題解決に向けて
2015年3月、無償資金協力に関する交換公文の署名が行われた。三菱商事からコンソーシアム結成の打診を受けて住友電工グループは検討を開始。その後3 年半に及ぶ交差点信号機と交通管制システム導入の取り組みが進められることになるが、そもそも交通管制システムとは何なのか、明確にしておきたい。交通管制システムは、日本国内においては、各都道府県にあまねく導入されているシステムであり、交差点に設置された車両感知器や監視カメラによって交通状況を把握、それら交通情報を一元管理して信号機を適切に制御することで、道路交通の安全と円滑化を実現するものだ(現在は、さらに情報提供などの高度化が進展している)。住友電工グループは1960年代後半にITS分野に参入、以来実績を積み上げ、現在国内トップグループの一角に位置している。たとえば、国内で最大規模の交通量を有するエリアの一つである「東京」の交通管制は、住友電工グループが担っている。ただ近年、大きな課題が顕在化していた。
「ITSは各都道府県の警察部門が発注者ですが、市場が限られており、シェアアップには限界が見えていました。従来、ドメステックな事業であったITSでしたが、今後は海外市場への展開が不可欠と考えたのです。そこで、JICAの調査における社会実験などを通してタイ、ミャンマーで信号制御の取り組みに着手しましたが、これらは信号機を導入するもので、管制システムを導入するものではありませんでした。今回のプノンペンのプロジェクトは管制システムの導入であり、それらを日本の技術で構築することで、ITSのグローバル展開に弾みがつくと考えました。必ず自分たちの手でプノンペンにITSを導入し、交通渋滞問題を解決する、その意志と覚悟でプロジェクトに臨みました」(システム事業部長 鷲見公一)