人の知見とAIをつなぎ、製造現場で信頼される「AI検査員」をつくる

松本 悠希 

人の知見を反映した外観検査AI
DX技術研究所 
主席 松本 悠希

私が目指しているのは、「人が納得して使えるAI」の開発です。工場での製品検査は、これまで多くを人の目に頼ってきました。AIで自動化できれば効率化が期待できますが、たとえAIが高い精度で検査できたとしても、「なぜそう判断したのか」を説明できなければ、現場で安心して使うことはできません。また、優れた検査AIを育てるには、その教師データとして膨大な画像に注釈を付ける必要があり、その作業も現場にとって大きな負担となります。そこで私は、人が大量のデータを用意しなくても、AIが自ら効率よく学習できる仕組みの開発に取り組んでいます。同時に、現場で培われた経験や知見をAIに反映し、人と同じ視点で判断できるAIを目指しています。単なる効率化ではなく、人の洞察や直感をどのように取り込むかを重視することで、誰もが納得して使えるAIに近づけると考えています。現場が無理なく使える形に落とし込むことを最優先に、日々研究開発を進めています。

製造現場のAI導入に立ちはだかる二つの壁

製品検査をAIで自動化するには、二つの課題がありました。
一つは、AIに学習させるためには膨大な画像と注釈データが必要となり、多くの人手がかかることです。そしてもう一つは、AIが「なぜその判断をしたのか」がブラックボックスになっていて、現場の納得や信頼を得にくいことです。
前者は、教師データを極力必要としない学習方法として近年注目されている「自己教師あり学習」という技術を応用することで解決を図りました。これは、人が一つひとつ正解を教えなくても、AIが大量のデータから自らパターンや法則を学ぶ手法です。一方、後者の課題を解決するには、新たな仕組みを開発する必要がありました。それが、信頼される検査AIを目指した「シグモイドアテンション」という仕組みです。

松本 悠希

AIの判断を「知見」で最適化する「シグモイドアテンション」

今回、私たちが開発したのは、AIが検査対象のどこを見て判断したのかを分かりやすく示す仕組みです。中でも注目すべき点は、人が経験や直感、洞察を通じて蓄積した「知見」を、AIに直接教えられるようにしたことです。AIは通常、与えられたデータから学習しますが、その結果、人が重視するポイントとは違う基準で判断してしまうことがあります。例えば、本来はオオカミそのものに注目してほしいところを、背景の雪に注目して判定してしまうケースです(図1)。これは、オオカミと雪山が一緒に写った画像を教師データとして使うことが多く、AIが「雪」をオオカミの特徴として誤って学習するためです。こうした問題に対応するため、私たちは、注釈付きの教師データを必要とせずに、AI自身がデータから教師信号を生成する「自己教師あり学習」を採用しました。さらに、製造現場の知見をAIに直接反映させられるよう、自己教師あり学習モデルが持つ「アテンション」という機能を応用し、画像のどの部分を重視すべきかを学習させました(図2)。しかし、従来のアテンション機能だけでは、注目すべき部分を十分に強調できません。そこで、「シグモイド関数」を取り入れた「シグモイドアテンション」を新たに開発しました。これにより、AIがどこを注視しているかを可視化し、「ここを重視すべき」という現場の知見をAIに教えられるようになりました(図3)。その結果、AIが人と同じ根拠で判断できるようになり、検査精度と説明性がともに向上しました。単なる技術改良ではなく、「人とAIが協力して検査する」という新たな方向性を切り開いたことが、今回の研究の最大の成果です。

狼の例
図1 AIの判断根拠を可視化(右の赤い部分) 出典:Ribeiro et al., "Why Should I Trust You?"(2016)
アテンションによるAI学習
図2  人の知見をアテンション機能によりAIが学習
シグモイドアテンション
図3 シグモイドアテンションにより、注視すべき部分をAIに教示

研究開発を支える人と環境の魅力

今後は、「シグモイドアテンション」を学術的に高く評価される技術へ育てていきたいと考えています。また、実用面でも、人の知見をより効率よく反映できる仕組みに磨き上げ、さらに幅広い製造工程へ展開することが目標です。
私の所属するDX技術研究所のAIデータ分析技術グループには、画像処理、機械学習、統計解析など、さまざまな専門性を持つメンバーが集まっています。AIの研究は、多様な技術が交差する分野であるため、それぞれが専門知識を持ち寄ることで一人では解決できない課題にも取り組めることが大きな強みです。
また、住友電工が多くの工場を持ち、素材から部品、完成品まで幅広い製造現場から多様なデータが集まります。AIの先端技術を、実際の製造現場から得られるリアルなデータと結び付けられる環境は、研究者にとって非常に大きな魅力です。こうした人材と環境の力を生かし、学術と実用の両面で成果を生み出すことが私の次のテーマです。

松本 悠希
齋藤 達哉

齋藤 達哉

確かな価値を生み出すハードウェアで、持続可能な社会を切り開く

馬場将人

馬場 将人

「CO₂を素材に変える」夢を現実に、カーボンリサイクルに挑む

重松 昌行

重松 昌行

光ファイバ通信の技術革新で社会に貢献  「IEEEフェロー」の称号を拝受

『住友電工テクニカル
レビュー』の歩み

創刊200号を迎えて社長メッセージ、『住友電工テクニカルレビュー』の歴史についてご紹介します。

詳細はこちら

技術論文集『住友電工テクニカルレビュー』

『住友電工テクニカルレビュー』は、住友電工グループの技術内容を解説した技術論文誌です。論文の内容をPDF 形式のファイルにより、掲載しております。

詳細はこちら