モノブロック、タングステン材の生産最適化
~世界に向けて供給体制を整備し加速させる~
他社との連携から生まれたユニット
2019年にQSTによる最初の入札で、アライドマテリアルはモノブロック1万2,000個を受注、その後、2021年には随意契約により12万個のモノブロックを受注、最終的には20万個の製造を予定している。その圧倒的なプレゼンスは、「割れないタングステン」を実現していることはいうまでもないが、モノブロックのもう一つの大切な役割に、タングステンの熱伝導率の高さを活かした除熱機能がある。ダイバータの受熱面はモノブロックとその中に通された冷却管でユニットが構成される。先に登場した鈴木哲氏は、その完成までには多くの壁があり、それを突破することで前進してきたことを指摘する。
「モノブロックは冷却管を通すために中央に穴をあけ、穴の周囲にはクッションとして機能するための純銅のレイヤーを付けるのですが、タングステンと銅では熱膨張係数が違うため、接合がうまくいきませんでした。そこで、接合技術を持つ競合メーカーとアライドマテリアルの連携・協力を働きかけ、無事最大の難関を突破しました」(鈴木氏)
鈴木氏と共にダイバータに取り組んできたのが、ITERプロジェクト部 プラズマ対向機器開発グループ リーダーの江里幸一郎氏だ。大学院時代からダイバータを研究対象としてきており、将来の核融合によるエネルギー自給の実現への想いは強い。
「核融合エネルギーを現実のものとするには、ダイバータは必要不可欠な機器です。常に高温にさらされますから冷却が極めて重要になってきます。そのため、冷却管開発も大きなテーマでした。しかし、高熱下、しかも温度が大きく上下するITERの条件下で水漏れなどを起こさない信頼性を持った銅合金を作れるメーカーがない。やがてある企業が製造技術を持っていることがわかり、冷却管は完成。壁を突破した手応えがありました」(江里氏)
こうして、アライドマテリアルをはじめ日本の企業の技術が結集し、ダイバータ用のユニットは完成した。
自動化、IoT導入による高品質の確保
前述の飯倉は、その後、富山製作所から山形の酒田製作所に異動。それまでQSTにはサンプルとしてモノブロックを供給してきたが、2019年の1万2,000個受注で、新たな量産体制を構築する必要に迫られたのだ。従来の生産体制は、端的にいえば人力・手動によるものだった。飯倉は、自動化による新たな量産ラインの構築に着手する。
「核融合炉に搭載されるタングステンモノブロックは、いうまでもなく前例がありません。目指したのは、徹底した高精度とトレーサビリティです。ものづくりには否応なくNGが発生しますが、IoTを活用し、モノブロックにQRコードを付与することで、製造履歴を明確にする生産体制を整えました」(飯倉)
しかし立ち上げ当初は、困難を極めた。歩留まりは非常に悪くNGが頻発した。自動化すれば、品質が安定するわけではない。10μmという加工精度が求められたが、熱やモノブロック同士の接触等で誤差が生じた。精度の要求は従前とは比べ物にならないほど高かった。課題を解決するため、飯倉らは加工時に使用されるすべての治具の精度を高め、新たな治具開発にも取り組んだ。これが奏功し品質は安定、生産は軌道に乗った。さらに、2021年にはQSTからの実機用モノブロックの契約を受け、2022年から新ラインが立ち上がり本格的な量産を開始した。飯倉の念頭に常にあるのは、「想定外の不具合・トラブルにいかに対応するか」だ。設備の安定稼働による高品質維持の追求に終わりはない。
欧州担当・内側ターゲットへの採用実現へ
モノブロックの材料であるタングステン板材は、富山製作所で生産されている。現在その生産技術を担っているのが、技術部次長の角倉孝典だ。角倉は入社以来20年にわたって研究開発部門に所属し、タングステンやモリブデンの開発に従事してきた。角倉がITER計画に参加したのは、2018年のことである。飯倉と共に「割れないタングステン」開発にも取り組んだ。現在の角倉のミッションの一つが、モノブロック同様、タングステン板材生産において安定的に品質を確保することだ。
「タングステン板材は、タングステン粉末をプレスし、焼結体を圧延加工する工程を踏みますが、すべてが適切に絡み合うことで『割れない』特性が生み出されます。私が取り組んだのは作業者一人ひとりの意識やモチベーションの向上です。より高い品質のため、製作所全体が一体となって取り組む体制を築きました」(角倉)
角倉にはもう一つミッションがある。現在、アライドマテリアルはダイバータの外側ターゲットにタングステンモノブロックを供給しているが、角倉のミッションは、内側ターゲットの調達を担当する欧州のメーカーに自社のタングステンモノブロックをPR、採用に繋げていくことである。
「アプローチしたのは欧州メーカー3社。その中の一社でプロトタイプ評価試験が終了し、合格基準をクリアしました。ITER計画を推進するEUの担当機関であるフュージョン・フォー・エナジーからも認定を受けています。採用プロセスが国内とは異なる部分も少なくありませんが、当社のタングステンモノブロックを評価してもらう活動を積極的に進めています。さらにITER計画とは別に、欧州の各研究機関が進める核融合炉開発において、ダイバータへの需要を把握し、ビジネスへ結び付けていきたいと考えています」(角倉)