世界各国の英知と技術がフランスに結集~ITER計画、核融合に必要とされるもの~
真空容器の設置風景(この下部にダイバータが設置される)
©ITER Organization
原子核の融合によりわずかな燃料から莫大なエネルギーを生む
日本はITER計画に先だって、1980年代初頭に核融合の開発に着手している。1985年には核融合実験装置が稼働。同時期、開発が開始された欧州、米国と共に、世界の核融合開発を牽引してきた。平和目的のために核融合を実証するITER計画は、1985年、ジュネーブで米ソ首脳会談をきっかけに開始され、2006年パリで日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極によるITER協定が調印された。現在は、35ヵ国が協力している。2007年には南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで、大規模な施設の建設がスタート。現在、参加各極が分担する重要機器が建設サイトに到着し、50万kWの出力を実現する核融合実験炉ITERの組み立てが開始されている。
そもそも「核融合」とは何か。太陽をはじめ、宇宙で星々が輝いているのは、水素などの軽い原子核同士が衝突して、ヘリウムなどの重い原子核へ変わる核融合が連続して起きているからだ。衝突して一つになった原子はごくわずかな質量を失う代わりに、莫大なエネルギーを生み出す。これが太陽エネルギーとなって地球に降り注いでいる。この核融合を地上で実現する壮大な試みがITER計画である。
高い安全性、豊富な燃料資源、優れた環境特性、莫大なエネルギー
同じ核エネルギー利用でも、核融合は原子力発電の原理の核分裂とは全く別物だ。燃料には、海水から得ることができる水素の同位体を使用するため、永続的なエネルギーの安定供給が可能だ。またCO2を排出しない点で優れた環境特性を有する。さらに、原子力発電で用いられる核分裂が燃料1gで石油1.6t分のエネルギーを生み出すのに対して、核融合は燃料1gで石油8t分のエネルギーを生み出す。このように核融合は、人類が初めて手にする「持続可能なエネルギー」となる可能性を秘めている。
プラズマ状態の維持に、必要不可欠な「ダイバータ」
原子核同士は互いが持つ正の電荷により反発するため、音速を超える1,000km/秒以上の高速で衝突させなければ融合しない。この速度は水素の同位体である重水素と三重水素を1億℃以上に熱することで得られる。このような高温では、それぞれの原子核から正イオンと電子が離れ高速で不規則に運動しているプラズマ状態となり核融合反応が起こる。さらにそのエネルギーが他の原子核を1億℃以上に加熱し、核融合反応を連続させることが可能となる。そのためには、プラズマを高密度で長時間、一定の領域に閉じ込めておくことが必要となる。いくつか検討されている方法の中で、強力な磁場を発生させ、プラズマをドーナツ型の真空容器に閉じ込めるのがITERの「トカマク型」だ。その下部には、プラズマからの高い熱流や粒子の流れを直接受け止める機器がある。それが「ダイバータ」だ。ダイバータは発生するヘリウムや不純物を排出し、高熱負荷・粒子負荷を除去してプラズマを安定的に閉じ込めるための最重要機器の一つである。
「高熱負荷で割れない」タングステン
QSTは、ITER計画における日本の国内機関として指定を受け、日本が担う機器・装置を製作してITERサイトに納入するとともに、ITER計画に対する日本の窓口としての役割を果たしている。ダイバータに30年近く関わってきたのが、那珂研究所ITERプロジェクト部次長の鈴木哲氏だ。
「日本が調達するダイバータは外側ターゲットと呼ばれる部分で、プラズマからの熱負荷や粒子負荷などの厳しい環境で使用されます。表面は2,300℃に達するといわれており、材料には『高熱負荷で割れない』耐久性が要求されました。カーボン等も検討していましたが、2013年にITER機構がタングステンの採用を決定。QSTが熱負荷試験を行った際、国内外のメーカーが提供する材料の中で唯一割れなかったのがアライドマテリアルのタングステンでした」(鈴木氏)
ITERに採用された「割れないタングステン」はどのように生まれたのか。次章ではアライドマテリアルのタングステン開発の取り組みを見てみたい。