クルマの価値向上、新たな価値創出に向けた果敢な挑戦~グループの総合力を駆使した独自のCASE対応製品~
プロジェクト単位で取り組む開発体制
CAS-EV 開発推進部(以下、CAS-EV)のCASE に対応する取り組みの基本姿勢は、「自動車事業」に「環境エネルギー事業」と「情報通信事業」を融合させ、クルマとエネルギーや通信の社会基盤をつなぐ新製品・新技術を創出することである。住友電工グループが強みとする「電動化・エネルギー領域」と「コネクティッド・情報通信領域」でビジネスを拡大していく考えだ。具体的には、コア事業であるワイヤーハーネスを土台として、「将来ワイヤーハーネス」関連製品を創出していく。その際、ポイントとなるのがプロジェクト体制を採用していることだ。CAS-EV 内には複数の部署が存在するが、部署縦割りでCASE に臨む体制ではない。まず、エリア検討をインフラ関連などの上流レイヤーから開始し、アーキテクチャ、さらに「Autonomous(自動運転)」や「Electric(電動化)」、MaaS*、「Connected」などのCASE 領域に検討課題が落とし込まれ、具体的なプロジェクトとして開発が着手されることになる。進行している主なプロジェクトに、「高速通信」「車両ストラクチャ」「電池関連」「アーキテクチャ」「インフラ」などがある。これらプロジェクトから生まれた成果、開発製品を見ていきたい。
* MaaS(マース)とは、「Mobility as a Service」の略。従来の交通手段・サービスに、自動運転やAI などのさまざまなテクノロジーを掛け合わせた、次世代の交通サービス
自動運転に不可欠な高速・大容量通信の実現
CASE における「Connected」は、車両の状態や周囲の道路状況などさまざまなデータをセンサで取得し、ネットワークを介して集積・分析することで「つながるクルマ」を目指すものだ。「Connected」の高度化が実現し安全性が確保できれば、「Autonomous」、すなわち完全自動運転が現実のものとなる。
CAS-EV が、「つながるクルマ」による自動運転実現に向けて取り組んだのが高速・大容量通信である。大電流& 高速通信コネクタ、高速通信ハーネス要件のあらゆる検証を進め、自動運転レベル3を可能とする「Connected」を実現している。レベル3 とは、一定条件下においてすべての運転操作をシステム側が行うもので、緊急時は運転者が運転操作を担う状態だ(完全自動運転がレベル5)。レベル3を実現したハーネス「高速通信ハーネス・100Mイーサネット」は、自動車メーカーに供給され実装されている。また、車の外との「つながるクルマ」の取り組みとして、茨城県日立市にて路線バスの自動運転導入に向けた実証実験に参画。車両と協調する路側センサと路車間通信制御装置を導入、特定の進路を走行する路線バスの自動運転化に向けた課題検証が進められた。今後、車両にもカメラなどの周辺検知センサが数多く搭載され、車内における通信の高速化がさらに進み、いずれは従来の電気通信から光通信・光ハーネスへの転換も必要になるだろう。高速・大容量通信の実現を通じて、車内、車外と「つながるクルマ」の実現を目指す。
インフラからバッテリー・モータまで電動化を一気通貫
CASE のテーマの一つ「Electric( 電動化)」は住友電工グループが強みとする領域であり、CAS-EVは多くの部品開発に取り組んできた。まず搭載されるバッテリーの大電流化対応である。およそ400V の高電圧をコントロールするECU(電子制御ユニット)、計測するセンサ、接続するハーネスなどとバッテリーを一つに収めることで、軽量化と耐久性、EVの安全性と経済性を実現したのが高圧バッテリーパックである。究極的には車両構造と一体化した筐体レスのバッテリーパックにすることを目指す。また、複雑化する電池パックの電気回路を接続する高圧ジャンクションボックスの開発もCAS-EVの成果である。
電力はインバータにより制御されモータを駆動し、ギヤなどを介してタイヤを回転させる。この駆動系を一つにしたのが、小型軽量化とコスト面で大きなメリットを持つ「eアクスル」。モータでは駆動効率を高める平角巻線、小型化に貢献する圧粉磁心製品、配線作業を大幅に簡素化するバスリング。インバータ周りでは電流を一定に保つためのリアクトル、発生するノイズの影響を回路が受けないようにする端子台、さらにセンサ用のハーネス、端末モジュールなど、eアクスルに欠かすことのできないさまざまな部品、機器の開発を進めている。
ほかにも、充電時間を短縮する大電力充電コネクタ& インレットの開発、経済性向上や家庭や電力系統への電力供給を目的としたエネルギーマネージメント、バッテリーのリユースなど、充電、インフラ関連、EV に特化したハーネス、コネクタに注力。電動化に対応した製品の開発・拡販をアグレッシブに推進している。
バッテリーバスバーモジュール(BBM)
EVに搭載されるバッテリーはセルと呼ばれる単体の電池を積層、接続することで駆動に必要な電力を生み出す。そのセルの電極間と、電圧を検知する回路の接続に使われるのが「バスバーモジュール」であり、大電流を流すために不可欠な部品だ。バッテリーの充放電効率に影響する重要部品であり、CAS-EVは電極とバスバー間の低抵抗な接続と省スペース化に貢献している。
航続距離確保のためにバッテリーパックの大容量化、搭載セル数の増加が進んでいることから、パック内部品に対してより一層の省スペース化が求められている。その課題解決のために「FPC(フレキシブルプリント基板)」を採用。FPCは電線と比較して配線の高密度化・薄型化が可能で、バッテリーパックの厚み低減に貢献している。
高圧コネクタ
電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車の高電圧配線に適応する防水・電磁シールドに対応したコネクタで、インバータ、モータおよびバッテリー間の電気的接続に用いられる部品。
高圧ジャンクションボックス(高圧JB)
リレーやヒューズなどの回路保護装置を搭載して、電池パック内の電気回路を集中して接続する。異常を検知して電気回路を遮断する機能を有し高電圧安全を確保する重要な役割を持っている。また、回路が集中するため、発熱に対応する技術が要求される。
グループの総合力を発揮して時代を牽引する
CAS-EV開発推進部が部として正式に発足して約2年半。自分たちのこれまでの取り組みを部長の平井は次のように語る。
「我々は自動車メーカーの開発パートナーになることを目指して、ひたむきに取り組んできました。その成果を、自動車メーカーからも評価いただいています。しかし、まだまだ道半ばというのが正直な実感です。サプライヤーではなくパートナーとしての仕事のやり方、意識ヘの転換。発足当時に比べてメンバーは確実に成長していると思いますが、もっと意識・思考のレベルアップが必要です。常に忘れてはならないのが『クルマ目線』であり、『クルマの価値』を向上させる仕事という自覚です。自動車メーカーからパートナーとして高い評価をいただく努力を継続していきたいと考えています」(平井)
今後、CAS-EVの取り組みを加速させ、住友電工グループが確かなプレゼンスを発揮するためには何が必要なのだろうか。
「我々CAS-EV のメンバーが経験を積み、知識・スキルを吸収することで、他社とは異なる高いレベルのパートナーに成長することが第一義的な課題です。さらには、当グループには多彩なシーズが豊富にあり、これを最適なカタチで活用し強力なパワーにすること。CASE の取り組みは、自動車事業本部内で進められるのではなく、他事業部と連携・融合し、あるいは関係会社も巻き込んで推進することが重要だと感じています。住友電工グループの総合力を発揮すれば、CASE 時代を自動車メーカーと並走し、牽引できる存在になれると確信しています」(平井)
CASE の登場は各方面にインパクトをもたらし、自動車産業に劇的な変化を引き起こしつつある。クルマと社会が迎える新時代に向けて開始された住友電工グループの果敢な挑戦は、未来に確かな成果をもたらすに違いない――。