自動車、大変革の時代の要請に応える~サプライヤーからパートナーへの転換~
モビリティのコア事業「ワイヤーハーネス」
住友電工グループのモビリティ領域は、「ワイヤーハーネス」をコア事業としてきた。ワイヤーハーネスとは、自動車内の電力供給や信号通信に用いられる複数の電線を束ねた集合部品で、いわば人体の血管や神経に相当し、自動車の生命線と言っていい。このワイヤーハーネス事業は2000年以降、アグレッシブな展開を見せる。およそ40年にわたってワイヤーハーネスを含む自動車関連の業務に携わってきた西田光男は、CASE が世界中で推進される今、どのような姿勢で新しい時代に臨もうとしているのか。
「私たちは、ハーネス事業の行動原則として『PROFESSIONALISM』『TEAMWORK』『CHALLENGE』の3点を定めています。『PROFESSIONALISM』の『PRO』には、『Profit(利益)』『Reliability(信頼性)』『Originality(独自性)』の3つの要素があると考えています。『Profit』は、いいものが売れるのではなく、売れるものがいいものということ。『Originality』は職人であれ、ということを意味しています。中でも『Reliability』を重要と考え、その徹底を図ってきました。論語に『信なくば立たず』という言葉がありますが、事業においても同様と考えます。ステークホルダーとの信頼関係、手を抜かないモノづくり、ハーネスに代表されるダントツの技術、こうした『Reliability』を確立することに力を注いできましたが、それはCASE の時代になっても何ら変わることではありません」(西田)
「つなげる」パートナーが、「つながる」ビジネスを拡大させる
ワイヤーハーネス事業は、2000年以降、ビジョンを掲げて活動してきている。当初はグローバルシェアNo.1を目指すことであり、No.1達成後はワイヤーハーネスをコアとするメガサプライヤーを目指した。
「これまで私たちは、サプライヤーでした。自動車メーカーのTier1(一次請負)として製品を供給してきたわけです。部品メーカーとして、コストと品質と納期にこだわってモノづくりを続けてきました。しかしCASE の時代を迎えて、ドラスティックなパラダイムシフトが起きています。それは端的に言えば、自動車メーカーから私たちへの、『これからクルマがどう変わるか、部品メーカーの立場から一緒に考えてくれ』という要請です。少しでもより良いクルマ社会の未来を手繰り寄せるために、私たちサプライヤーとの連携・協業を求めています。そうした状況下で、ワイヤーハーネス事業の新たなビジョンとして、モビリティの『つなげる』パートナーとして『つながる』ビジネスの拡大を目指すことを掲げました。サプライヤーではなくパートナーになる、それが、CASE がもたらした大きな変化です」(西田)
サプライヤーからパートナーへ。そのためには、マインドを変える必要がある。さらに、クルマをトータルに俯瞰する視点や新たな知識・スキルも要請される。住友電工グループのモビリティ事業は新たな領域へと足を踏み入れる。
パートナーを目指したCAS-EV開発推進部の発足
「自動車メーカーのパートナーになるためには、技術提案力が不可欠です。まずは、これを磨き、培う場として前身のCAS-EV 開発推進室を発足させました。クルマがどう変わっていくか、どんな部品が必要になるか、徹底してメンバー間で議論することを指示しました。事業である以上、自動車メーカーに住友電工の提案を高く評価してもらうことが必要です。現在、CAS-EV開発推進部においてその成果が徐々に生まれつつありますが、さらに加速させていきたい。また、クルマに関連するセグメントは社内に多数あり、それらを融合し、自動車事業本部でイニシアティブを取ってビジネスにつなげていく考えです」(西田)
CASE 分野に注力していく一方、西田は従来製品で利益を確保していく重要性を指摘する。クルマの生命線であるワイヤーハーネスは、クルマの構造が劇的に変わらない限り、なくなることはない。
「CASE への動きが高まっていますが、2030年時点でも従来製品も引き続き高い需要を見込んでいます。具体的には、2030年のモビリティ事業の売上高のおよそ8割は従来製品、2割がCASE 関連製品と考えています。CASE 関連製品の開発を進めつつ、ワイヤーハーネスのプロ集団として、従来製品で確実に利益に結び付けていく方針です。したがって、モビリティ事業全体を考えると、ワイヤーハーネスの事業強化も大きなテーマです。近年の、新型コロナウイルス感染拡大や世界的な半導体不足、ロシアのウクライナ侵攻などにより、当グループも大きな打撃を受けました。こうしたさまざまなリスクに対応できる柔軟な考え、体力を付けていきたいと考えています」(西田)
西田のワイヤーハーネスに対する想いは強い。現在、世界約30ヵ国で生産が行われているが、全体の2%は国内8ヵ所にある工場で生産されている。自動化などの新たな技術革新も進んでいる。
「技術開発、スキル教育・指導など、ワイヤーハーネスの生産基点、マザー機能を持つのは日本です。強い現場に基づくモノづくりこそ、世界に誇る日本の文化。日本のモノづくりを残していくことも私たちの使命だと考えています」(西田)