融着接続機、パイオニアの軌跡 ~光ネットワーク構築に要請された「接続損失」の低減~

融着接続機、パイオニアの軌跡 ~光ネットワーク構築に要請された「接続損失」の低減~

求められた通信品質の信頼性

融着接続機とは、アーク放電(気体放電の一種。電極間の気体と両電極が高温となり強い光を発し、溶接等に利用される)によって発生する約1,800℃の熱で光ファイバ端部を溶融し、左右に配置した光ファイバの端面同士を瞬時に接続する装置だ。光通信に用いられるファイバは石英ガラスから作られており、内部は中心部のコアとそれを取り巻くクラッドと呼ばれる層で覆った同心円状になっている。コアに入射した光信号はコアとクラッド間で反射を繰り返しながら伝播していく。さらに光ファイバは、光が通るコア部分が細いシングルモード・ファイバ(SMF)と、コア部分が太いマルチモード・ファイバ(MMF)の2種類に分けられる。SMFはコア径9.2μm(0.0092mm)の極細径であり、光信号の伝播を一つのモードとすることで、「減衰」を極力抑えており、長距離・高速伝送に適している。一方、MMFはコア径50μmおよび62μmが採用されており、光信号を複数のモードで伝送するため、信号の到達時間にズレが生じ電子機器などの正常な動作が損なわれる可能性がある。長距離、高速伝送には不向きで、構内用光ケーブルとして利用されるのが一般的だ。これら光ファイバにおいて常に課題としてあったのが、「減衰」である。光ファイバ内を光が伝わる際、光が光ファイバ外部へ一部散乱、あるいは光の波長の違いによってわずかに生じる伝送速度のズレで減衰が起こる(伝送損失)。住友電工グループは世界最高レベルの極低損失光ファイバを生み出しているが、「伝送損失」の低減と並んで、高速で信頼性の高い光通信網を構築するために必要とされたのが、光ファイバ同士を接続する際に発生する「接続損失」の低減だった。

第1号の融着接続機「TYPE-3」
第1号の融着接続機「TYPE-3」
第1号の融着接続機「TYPE-3」

光ファイバ端面をサブミクロンオーダーで接続

融着接続では、光の通り道であるコアの端面同士を接続する。現在、光ネットワーク通信で最もポピュラーに使用されているのが、先に述べたSMFで、そのコア径9.2μm(0.0092mm)という極細径同士の位置を一致させて接続させなければならない。光ファイバ間の光軸のズレや角度のズレ、あるいは光ファイバ端面間に隙間ができると、光ファイバと空気の屈折率の違いによる反射によって接続損失が発生する。たとえば、わずか1μm(0.001mm)の軸ズレでも0.2dBの接続損失が発生するなど、光ファイバ端面をサブミクロンオーダーの精度で接続することが要請されるのだ。接続損失の低下は大きな課題とされていた。住友電工グループは様々な技術的課題を克服して、1980年に第1号機であるMMF融着接続機(TYPE-3)を発売した。この融着接続機では光ファイバの外径位置を、顕微鏡を覗き込みながら直接観察し接続した。このため、接続損失は作業者の技術や習熟度に依存していたものの、コア径が大きいMMFで低い接続損失を得ることができた。一方、MMFに比べコア径が約5分の1となるSMFに対応するため、1982年に光ファイバの位置合わせを行う融着接続機(TYPE-11)も開発。この融着接続機では光ファイバの接続点以外の片端に光源を、もう一方に受光器を配置し、受光量が最大となるようにコア同士の位置を一致させる融着接続を行った。しかし、数百m~数km離れた位置に光源・受光器を配置する作業の煩雑さや接続時間の長さなど、まだ多くの課題があった。

「コア直視」方式の調心型融着接続機の開発

住友電工グループの開発陣が生み出した技術が、光ファイバのコア部を顕微鏡により観察し自動調心する「コア直視技術」だった。1984年に販売を開始した融着接続機(TYPE-33)において、高精度・高倍率の対物レンズを搭載した顕微鏡により、光ファイバのコア部を直視・観察して調心する技術を開発。さらにTYPE-34では撮像方式にCCDカメラを採用した。これにより光ファイバのコア部の観察とコア調心の自動化が可能となった。しかし課題はあった。当時、入社間もなくして融着接続機の開発に携わったのが、現在、光機器事業部メカトロニクス部で部長を務める本間敏彦だ。

光機器事業部 メカトロニクス部 部長 本間 敏彦
光機器事業部 メカトロニクス部 部長 本間 敏彦

「当時の融着接続機の画像処理はCCDカメラ、制御回路、モニタなどで構成されており、重量、容積共に大型化していました。光ファイバの普及が進むにつれ敷設工事も多様な環境で行われるようになり、融着接続機には小型・軽量で優れた製品が求められるようになっていったのです。当グループは、CMOSに代表される小型イメージセンサや専用LSI、積層型高密度実装基板を採用して小型、軽量化を進め、同時にAC電源から給電できない環境(マンホール内や架空など)での使用ニーズの高まりから1990年代後半にバッテリ駆動モデルを開発。2000年以降は小型、軽量、バッテリ搭載の融着接続機が主流となりました。また光ファイバの普及が世界中で加速する中、国内外の過酷な屋外工事に合わせた耐環境特性の向上(耐風、耐衝撃等)も図られるなど、今に続く融着接続機の基本性能はこの頃に生まれました。さらに、保守サービスと共に融着作業に不可欠なカッタや保護スリーブなどのアクセサリの充実も徹底しました。これらは住友電工グループの素材技術に支えられたもので、刃自動回転型の独自技術を持つカッタ、FC-8Rは世界ナンバーワンのシェアを誇ります」(本間)

こうした一連の融着接続機の開発は、1980~90年代は、通信キャリアも入って同業他社と共同開発を行うことが多かった。本格的な開発競争のフェーズに入るのは2000年に入ってからであり、そこから住友電工グループの独自の技術が融着接続機の進化を牽引していくことになる。

多心光ファイバの被覆除去で使用するジャケットリムーバ「JR-6+」
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光ファイバカッタ「FC-8R」
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