水不足地域の大規模製油所排水を浄化せよ〜台湾中油、排水浄化プロジェクト〜

水不足地域の大規模製油所排水を浄化せよ〜台湾中油、排水浄化プロジェクト〜

高い性能を有する多孔質材料 水処理分野への適用に着手

ポアフロン®モジュール
ポアフロン®モジュール

住友電工グループが開発した、画期的な水処理膜モジュール。それを説明する前に水処理そのものに言及する必要がある。水処理にはいくつかの方法があるが、近年注目されているのがMBR(Membrane Bioreactor=膜分離活性汚泥法)と呼ばれる方法だ。これは下水や工場排水の浄化に有効とされる「活性汚泥法」の一つで、微生物(活性汚泥)によって排水中に含まれる有機物を分解処理された水と、同じく排水中に含まれる微粒子および、微生物自体との分離を、ろ過膜(以下、膜)を使って行う方法である。濁りとともに溶存有機物*も除去し、厳しい基準が設けられた河川などへの放流や再利用も可能となる。この「MBR」に導入される膜がポアフロン®中空糸膜だ。外径2mm程度のチューブを微細な多孔組織とし、物質分離機能を持たせたものである。ポアフロン®は、PTFE(四弗化エチレン樹脂)を100%使った住友電工独自の多孔質材料。1960年代に開発されたポアフロン®の高耐薬品性、高耐久性、高透水性、高耐熱性などの優れた特徴に着目し、水処理分野に適した中空糸膜を開発。事業化に導いたのが水処理事業開発部長の森田徹である。

従来、中空糸膜はPE(ポリエチレン)などの材料が主流でしたが、強度や耐薬品性の課題が提起されていました。それらの課題を解決するのがPTFEを使ったポアフロン®であることに着目。製品設計や製造技術を磨きコストダウンを推し進めれば十分競争力も高められると確信し水処理用ポアフロン®モジュールの製品化に着手しました」

* 溶存有機物:排水中に溶けている有機物のこと

事業が低迷を余儀なくされる中 ビッグプロジェクトが始動

住友電工 水処理事業開発部長 森田徹
住友電工 水処理事業開発部長 森田徹

こうして始まったポアフロン®モジュールの開発は、試作を重ねて2003年に成功、2004年から中国での生産が開始された。しかしそこから茨の道が始まったのである。生産が開始されたポアフロン®モジュールに対する、国内外の市場反応は厳しかった。PTFEという材料自体が極めて高価であることがネックとなっていた。撤退もささやかれる中、あるとき、森田は、韓国の産業資材を扱うエージェントと知り合い、韓国の水処理市場の情報を得た。ポアフロン®モジュールが有する高い水処理性能が活かせると注目した森田らは、積極的な営業姿勢をもつ彼らと拡販の協業を行うことで、韓国国内での営業活動を展開し、下水処理場への導入に漕ぎつけた。しかし、その後再び、市場環境の変化によって、水処理事業は低迷を余儀なくされる。その状況を打開するため、森田らは東アジア、そして日本国内における水処理ニーズを発掘し、ポアフロン®モジュールの地道な提案活動を続けた。そうした中、ある出会いからビッグプロジェクトが始動する。一般に水処理施設への膜の導入は、施設建設を請け負うエンジニアリング会社が採用の決定権を持つ。したがって、そこへのアプローチがポアフロン®モジュール拡販のカギを握ることになる。森田らは2008年、中国・広州で開催された水処理に関する展示会にポアフロン®モジュールを出品。そこで出会ったのが台湾有数のエンジニアリング会社・CTCI Corporation(以下、CTCI)だった。

エンジニアリング会社との強い信頼関係を構築

MBRに設置されたポアフロン®モジュール
MBRに設置されたポアフロン®モジュール

台湾では、電子製品工場の水処理施設を中心にポアフロン® モジュールの採用が進んでいたが、台湾の水処理市場は米国大手企業が提供する膜が席巻しており、決して順調といえる状況ではなかった。市場にインパクトをもたらし、プレゼンスを得られるプロジェクトへの参画を森田らは目指していた。一方CTCIは、台湾大手の石油精製企業である台湾中油股份有限公司(以下、CPC)のプラント建設の実績があり、当時CPCが新たに導入する水処理施設に採用する膜の検討を進めていた。また、CPC が位置する台湾南部は恒常的な水不足の状態にあり、行政も排水規制を実施、特に多量に産業排水を排出する企業に対しては再利用の義務付けを打ち出していた。そうした中、展示会でCTCIの担当者の目に留まったのがポアフロン®だった。その時点でCTCIは、他社の膜を採用する前提で設計に入っていたが、強力にアプローチしたのが、住友電工香港電子線製品有限公司・台湾支店の張三傑である。

住友電工香港電子線製品有限公司 台湾支店 張三傑
住友電工香港電子線製品有限公司 台湾支店 張三傑

「ポアフロン®の優位性を強く訴求しました。CTCI は油分含有排水処理や石化排水処理に強みを発揮する特性を高く評価。一方で担当者との信頼関係の構築に力を注ぎました。それらの取り組みでパイロット試験実施へと進んだのです」

パイロット試験がスタート 課題解決のための取り組み

2009年、パイロット試験が開始された。だが問題が発生した。中空糸膜はきめ細かなろ過を可能とする多数の細孔を有しているが、排水に含まれる油分によって目詰まりが発生したことで浄化性能が低下。パイロット試験は当初から厳しい局面に立たされた。その問題解決に向けて二つのソリューションを導入した。一つは目詰まりが発生しにくい膜の微細構造を検討すること。油分が詰まるメカニズムを検討し、孔径を最適化することで安定稼働が実現した。もう一つは、目詰まりの原因となった膜表面の付着物を取り除くために、強力な薬品で膜を洗浄すること。高耐薬品性を有するポアフロン®だからこそ使用できる高濃度の酸やアルカリによる膜洗浄を実施した。営業担当である張も、現場で膜洗浄に取り組み、自社製品の性能の高さをあらためて実感した。「やるべきことをやって結果を残す、その繰り返しがCTCIの担当者のハートに響いたのだと思います」。パイロット試験は約1年にわたって続けられ、CTCIは含油排水処理や酸やアルカリによる膜洗浄にあたって、耐久性、洗浄後の流量回復性に良好な結果が得られたことを評価、ポアフロン®モジュールの採用を決定したのである。

ポアフロン®モジュールの状況を確認する森田(右)と張(左)
ポアフロン®モジュールの状況を確認する森田(右)と張(左)

NEXT

住友電工に課せられた使命
〜ポアフロン®のプレゼンスが加速する〜

(3)