光ファイバが橋梁の健全性を見守る〜復興支援道路・月舘高架橋〜
写真提供:鹿島建設(株)
東日本大震災からの復興 進む交通インフラ整備
2011年3月に発生した東日本大震災は、甚大な被害を及ぼした。被害は多方面に及んだが、中でも、鉄道、道路などの交通ネットワークが寸断されたことは、地域社会に大きなインパクトをもたらした。しかし、道路は人的支援や物資の緊急輸送路として不可欠であり、被災地と内陸部を結ぶ重要性が再認識されたのである。今回、住友電工は、震災からの早期復興を図るリーディングプロジェクトとして位置付けられている東北中央自動車道 相馬福島道路の「月舘高架橋」にPC鋼材を供給した。
塩害・凍害という課題 長寿命化の実現に向けて
月舘高架橋は橋長462m、相馬福島道路において最大規模のPC橋梁である。この施工管理を担ったのが鹿島建設(株)盛田行彦氏だ。
「求められた要素の一つが長寿命化。地域的に塩害、凍害のリスクが高く、将来的なライフサイクルコストを低減するための高耐久性が要請されたのです。コンクリートそのものの品質に加え、高耐久のPC鋼材は必須でした」
こうしたニーズに応えて住友電工は、通常の防食PC鋼材に加えて、PEで被覆した二重防食PC鋼材を供給。定着システムもエポキシ粉体塗装などの塩害対策仕様の製品を供給した。
PC鋼材の張力をモニタリングする
今回の施工において、住友電工は画期的な技術も導入している。それが光ファイバセンサーを組み込んだPC鋼材「光ファイバ組込み式ストランド」だ。光ファイバに生じるひずみを計測することで、従来技術では難しかったPC鋼材にかかる張力の全長にわたる分布の把握が可能となった。エポキシ樹脂被覆内に組み込まれているため、施工時に光ファイバが損傷するリスクもなく、長期間の計測を可能としている。本製品は、鹿島建設(株)とヒエン電工(株)および住友電工の3社共同開発によって生み出されたものだ。鹿島建設(株)曽我部直樹氏は開発を牽引したメンバーの一人である。
「月舘高架橋などのPC橋梁の施工・維持管理におけるニーズの一つに、PC鋼材の張力管理がありました。そのために、鹿島建設(株)が以前から持っていた、光ファイバで張力を測定する構想を具現化しようと考えたのです。光ファイバとPC鋼材を一体化させるという課題を解決するには、PC鋼材のプロである住友電工の技術力が不可欠だったのです」
PC鋼材と光ファイバの一体化 施工現場で直面した問題
住友電工側で開発を担ったのが及川雅司だ。
「エポキシ樹脂の中に光ファイバを組み込み、完全に一体化させる生産技術を開発したことで、PC鋼材の高耐久性を維持した上で長寿命のセンサー機能を付与することを可能としました。しかし、被覆が強固であるため、計測器と接続する光ファイバをPC鋼材から取り出す作業は困難を極めました。当初は人手で削りだすなど、工事の進捗に影響する程の作業時間がかかっていました」
及川らは、今までの技術開発で積み重ねてきた知見を結集。PC鋼材の被覆をはがして光ファイバを取り出す工具や方法を何度も検討し、ついに実用に耐えうる大幅な作業時間短縮を実現した。
「光ファイバセンサーによる張力管理は、極めて画期的なものです。今後は、モニタリングデータをどのように活用していくかが問われます。住友電工のスタッフと共に、トータルな視点で、維持管理技術の高度化に取り組んでいきたいですね」(前出・曽我部氏)
また、住友電工が開発した張力をピンポイントで測定する磁気張力センサー「SmART Cell®」も月舘高架橋に適用されている。PC鋼材や定着システムの開発・供給に留まらない周辺システム製品群の充実が、PC技術の信頼性向上をもたらしている。