海を渡った高機能PC鋼材、実現した長大海上橋〜ベトナム・ラックフェン橋〜
写真提供:三井住友建設(株)
ベトナム経済を支える海上橋梁 高い防食性と工期短縮の要求
ベトナムは新興経済アジア諸国の中でも、毎年高いGDP成長率を示し続けている国の一つだ。近年、首都ハノイ市北部に多くの外国企業が進出しており、その経済発展を受けて、日本のJICA(独立行政法人 国際協力機構)資金で着手されたのが、ハイフォン市ラックフェン地区国際大水深港の建設であり、そのアクセス道路の一部として建設された「ラックフェン橋」だ。現地建設会社と共に施工を担当した三井住友建設(株)西村一博氏に話を聞いた。
「ラックフェン橋は橋梁区間5.4kmを超える、ベトナムで最長の海上橋梁です。海上であることから、PC鋼材には高い防食性能が求められました。そのニーズに応えたのが、住友電工の防食PC鋼材です。二重被覆による耐食性と堅牢性を持ち、作業現場でのグラウト(セメントミルクや樹脂などの防錆材料)注入作業やPE管接続が不要となるため、工期短縮や省力化にも大きく寄与しました」
だが、実際の現場への輸送、そして導入までには大きな課題があった。
現地でのケーブル加工という難問
地道かつ粘り強い取り組みが実を結ぶ
国内では通常、鋼材メーカーが工場で所定の長さに切断し、複数のPC鋼材を一本に束ねたケーブル加工を行った状態で納入する。しかし、その方法でべトナムに輸送することは、コスト面で著しく効率が悪い。検討を重ねた結果、切断前の製品を現地に納入し、現地での切断・加工を行う方法が採用された。ベトナムに出向き、現地指導にあたったのが住友電工の草野初司である。
「課題は、加工から桁内挿入までPE被覆されたエポキシ樹脂被覆PC鋼材の表面を決して傷つけないということでした。現地での加工は、木製ドラムに巻きつけられた1本のケーブルから60m単位で切断し19本に束ねるという作業。しかしベトナムの作業者はPE被覆された防食PC鋼材を予め束ねて挿入した経験がありません。コンクリートや鉄筋の角などで損傷させないよう、細心の注意が必要であることを理解・納得してもらい、粘り強く指導。さらに、60mの長さを確保する設備や加工に必要な器具開発など、様々な工夫を重ねたことで、現地でのケーブル加工・挿入が実現しました」
こうした人の手による地道な取り組みが、ベトナム経済の新たな動脈の誕生を支えたのだ。
PC技術の未来展望 日本発の高機能PC鋼材を世界へ
PC技術が採用されているのは橋梁ばかりではない。大規模LNGタンクや上下水処理タンク、線路のコンクリート枕木、グラウンドアンカーなどにも適用されてきた。また柱のない広大な空間を実現できることから、体育館やホールなどの建築物のほか、最近では、風力発電のシャフトにも採用されている。
住友電工のPC事業を統括する山田眞人は語る。
「過去に蓄積された社会インフラを、最新の技術を用いてより健全な状態で長寿命化を図ること、それが我々の社会的使命です。そのためにも、PC鋼材の高機能化・高付加価値化を進め、周辺技術をパッケージにしてトータルにソリューションを提供すると共にさらなる用途開発を進めていきたいです」
同時に視野に入れているのが海外展開である。
「先進国ではインフラの老朽化が進み、新興国では旺盛な開発ニーズが高まっています。このため、現在、米国3ヶ所とインドネシアに製造拠点を有するなど、グローバル展開を推進しています。高機能PC鋼材がインフラの長寿命化に資することを訴求する一方、世界に先んじて住友電工の技術開発力が生み出した高強度・高耐食性PC鋼材や光ファイバセンシングなどを、国際的スタンダードとする標準化戦略も推進していく考えです」
日本発のPC鋼材を世界へ。その取り組みが世界のインフラ整備への貢献、ひいては世界の人々の豊かな生活の実現に寄与することを、住友電工は確信している。