新名神プロジェクトを支えたPC鋼材技術〜武庫川橋・安威川橋・楊梅山高架橋〜
武庫川橋に要請された軽量化と高耐震性という課題
武庫川橋の特徴の一つは、主桁にバタフライウェブ構造*1とエクストラドーズド構造*2を組み合わせた点にあり、これは世界初の試みだった。設計施工を担当した三井住友建設(株)水野克彦氏は語る。
「求められたのは、徹底した軽量化と耐震性の向上でした。バタフライウェブ構造は形状から、エクストラドーズド構造は低い主塔(桁高4m)を採用することでコンクリートや鋼材の使用量を低減できます。橋桁を軽量化することで耐震性が高まり、基礎も橋脚もスリム化できることから、経済効率性向上、環境負荷低減も可能となります。これらのニーズを満たすために要請されたのが、高強度PC鋼材でした」
主桁重量が軽減したことで、張出し施工(橋脚から左右に橋本体を延ばしていく架設方法で、通常3〜4mを1ブロックとする)における総ブロック数を低減。施工全体の省力化、工期短縮、それに伴う環境負荷低減にも寄与した。
「高強度PCとその定着システムがあったからこそ実現した橋梁です。住友電工には、製品提供だけでなく、施工現場における様々な技術的課題にも対応していただきました。頼りになるパートナーと実感しています」
*1 蝶型の薄型パネルに置き換えたもの。
*2 主塔に定着された斜ケーブルにより橋桁を支持する橋梁構造。
安威川橋──世界最大の 支間長・橋桁高への挑戦
安威川橋では、PC鋼材の高強度化が求められた。安威川橋は上り線で179m、下り線で170mの支間長(橋脚スパン)を有しており、橋脚部の最大桁高は11.5mになっている。これは、桁橋形式の波形鋼板ウェブ橋として支間長・桁高ともに世界最大の橋梁だ。安威川橋の構造形式を成立させるためには、軽量化が大きな課題であった。設計施工を担当した三井住友建設(株)永元直樹氏もその点を指摘する。
「軽量化は我々橋梁技術者にとって、変わらない大命題なのです。いかにコンクリート量を減らすことができるか。それは、我々がコンクリート橋のパイオニアとして、長年にわたって取り組んできたテーマでもあります。安威川橋の場合、支間が非常に長く、その自重を支えるために必要なPC鋼材本数が非常に多くて配置が困難でした。そこで、スーパーハイテンシステムを活用することにより鋼材本数を約2割減らし、世界最長の構造を実現することができました」