新名神プロジェクトを支えたPC鋼材技術〜武庫川橋・安威川橋・楊梅山高架橋〜

新名神プロジェクトを支えたPC鋼材技術〜武庫川橋・安威川橋・楊梅山高架橋〜

橋梁の軽量化に求められたスーパーハイテンシステム

関西・中部間を繋ぐダブルネットワークの誕生

日本の重要な交通インフラとして東西の主要都市を結ぶ大動脈の一つが、名古屋―神戸間の名神高速道路だ。日本の経済・生活を支える基幹道路だが、交通量の増大に伴う慢性的な交通渋滞や災害などの緊急時に路線機能が停止するなどの課題を抱えていた。そこで求められたのが新たな交通インフラである全長174kmにおよぶ新名神高速道路だ。これにより、関西と中部を結ぶダブルネットワークが形成される。渋滞緩和や緊急時の代替路として円滑な交通確保を実現するものであり、さらには時間短縮による経済効率化、地域貢献にも資するビッグプロジェクトである。

新名神高速道路(四日市市〜神戸市)
新名神高速道路(四日市市〜神戸市)
新名神高速道路(四日市市〜神戸市)

世界最高強度のPC鋼材 高耐久性と定着システム

新名神高速道路建設において、住友電工スチールワイヤー(株)※1(以下、住友電気工業(株)含め総称して住友電工)が提供したPC鋼材が多数採用されている。住友電工は昭和30年代に、当時の西ドイツ・ディビダーク社から長大PC橋梁の建設工法のライセンスを取得し日本に導入、高度成長期とともにPC鋼材関連事業を成長させてきた。その後、一層の高強度化を追求し、JIS規格の従来型と比べ、約20%強度を高めた世界最高強度PC鋼材※2を生み出している。重要なポイントは、PC鋼材自身の強度を向上させることにより、従来とほぼ同径で高強度化を実現した点にある。また、PC鋼材の高機能化も推進。その一つが高耐久性(防食性)PC鋼材の開発である。予め工場でPC鋼材にエポキシ樹脂やPE(ポリエチレン)樹脂を被覆したPC鋼材の開発で長期信頼性も飛躍的に向上させている。

くわえて重要なのが、コンクリートに圧縮力を効率的に伝え、緊張したPC鋼材を橋梁に据え付ける定着という工程だ。PC鋼材と定着システム(定着を行うための部品群)をトータルで提供できるのも住友電工の大きな強みの一つである。

※1 住友電工スチールワイヤー(株)は2002年10月に住友電気工業(株)より分離・独立し、特殊金属線製品の総合メーカーとして発足。海外への販売は住友電気工業、製造・開発・国内への販売は住友電工スチールワイヤーが担う。
※2 JIS規格PC鋼材は1,860MPa。これは外径15.2mmのPC鋼材で乗用車約25台の重量に相当。世界最高強度のPC鋼材は 2,230MPaで、製造できる企業は世界でも数社に限られる。

内部充填型エポキシ樹脂被覆PC鋼材 ディビダーク®定着システム プレグラウト防食PC鋼材 斜ケーブルを支える主塔定着部
内部充填型エポキシ樹脂被覆PC鋼材 ディビダーク®定着システム プレグラウト防食PC鋼材 斜ケーブルを支える主塔定着部

課題解決を力強く支援した「スーパーハイテンシステム」

今回、住友電工が提供したのが、前述の世界最高強度のPC鋼材と定着システムからなる「スーパーハイテンシステム」だった。通常のPC鋼材と同等の径で高強度を実現できることから、PC鋼材を束ねたケーブルの本数を減らすと同時に、限られたスペースで適切な定着システムの配置を実現。さらにPC鋼材にエポキシ樹脂被覆をはじめとした高耐久性防錆仕様を施した。

この「スーパーハイテンシステム」は、新名神高速道路の「武庫川橋」「安威川橋」「楊梅山高架橋」建設において採用されており、長大橋梁建設で高い評価を獲得、省力化・軽量化に大きく貢献した。

朝日に輝く武庫川橋
朝日に輝く武庫川橋

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