28 September 2026
世界初、600km級高圧直流海底ケーブルの異常早期検知に成功 CIGRE2026 パリ大会で最優秀論文賞を受賞
住友電気工業株式会社(本社:大阪市中央区、社長:井上 治、以下「当社」)は、当社の極低損失光ファイバ、エルビウム添加光ファイバ増幅器 (EDFA) およびAP Sensing社 (本社:ベーブリンゲン、取締役社長:Clemens Pohl)の分布型音響センシング (DAS) 装置を用いた実証試験において、600 kmにわたる高圧直流 (HVDC) 海底ケーブルの外傷などの異常を早期に検知する技術の開発に世界で初めて成功しました。本成果は、電力システム分野で世界的に権威のあるCIGRE*1 2026 パリ大会において高く評価され、最優秀論文賞 (B1 PS1部門*2) を受賞しました。
再生可能エネルギーの拡大に伴い、高圧直流(HVDC)海底ケーブルはGW(ギガワット)級の大容量化に加え、海を隔てた地域間を結ぶ長距離化 (数百km超) が進展しています。こうした海底ケーブルは、エネルギー供給を支える重要インフラとして、一層重要性を増しています。一方で、船舶の錨や漁具の接触など、第三者による外傷が主な損傷リスクとなっています。近年は、同じく重要インフラである光海底ケーブルの損傷事故が相次いで発生しており、HVDC海底ケーブルについてもエネルギー安全保障上の観点からの懸念が指摘されています。
長距離の海底電力ケーブルは、その大部分が海底に敷設されており、目視確認や継続的な監視が困難です。このため、ひとたび事故が発生すると、故障箇所の特定や海底での調査に多くの時間と労力を要し、電力供給の停止が長期化することが長年の課題となっていました。従来、故障点の調査には電気的手法であるマーレーループ法が用いられていますが、事故発生後に測定装置を取り付ける必要があるほか、測定誤差はケーブル長の約1%に及びます。たとえば、600kmのケーブルでは、誤差は約6kmとなり、埋設区間の多い海底ケーブルでは、調査範囲の広さが故障点の特定に時間を要する一因となっていました。
これに対し、AP Sensing社の分布型音響センシング(DAS)装置は、光ファイバのわずかな振動を捉えて異常箇所をリアルタイムで検知できる技術ですが、従来の計測距離が約100 km以下に限られていました。そこで当社は、同社の協力のもと、極低損失光ファイバ「Z-PLUS Fiber® 130ULL」や遠隔励起方式のエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA)など、当社が保有する長距離光伝送技術を活用し、DASの計測距離を300 kmまで拡大しました(論文投稿時点では270 km)。また、遠隔励起方式では、EDFAを動作させるレーザー装置や電源を海底部に設置する必要がないため、これらに起因する故障リスクを低減し、信頼性の向上に寄与します。さらに、レーザー装置を陸上に配置できることから、メンテナンス性の向上と長期運用を実現します。本システムに用いる要素技術はいずれも長年の実績を有しており、高い信頼性と早期の商用化・実用化が期待できます。
本計測技術では、電力ケーブルの両端から測定を行うことで、最大600 kmのHVDC海底ケーブルの全長をリアルタイムかつ常時監視し、異常を検知することが可能です。600 kmの測定距離に対する位置検知の誤差は、理論上200 m(0.03%)以下であり、従来の電気的手法に比べ高精度です。淡路島近海で実施した、HVDC海底ケーブルに一体化された光ファイバを用いた実証試験では、262.2 km付近でアンカーを模した重りをケーブルに落下させ外部衝撃を与えたところ、実際の衝撃位置との誤差68.4mという高精度で検知することができました。
本計測技術の活用により、事故発生時の故障点調査に要する時間だけでなく、復旧までの時間短縮を実現し、電力供給の停止時間を最小限に抑えることができます。さらに、電力ケーブル上を通過する船舶の接近に伴ってケーブルに伝わる振動の特徴から、船舶を特定する手がかりが得られる可能性も示されました。
この成果は、NEDO*3の委託業務の結果得られたものです。現在はNEDO事業において、他の監視技術との融合を図り、さらに高度な海底ケーブル総合監視技術の開発可能性を検討しております。
再生可能エネルギーのさらなる発展に向けて、HVDCネットワークが拡大するなか、長距離HVDC海底ケーブルは必要不可欠なインフラです。当社は、本海底ケーブル監視技術の実用化を通じて、設備の状態可視化や異常の早期検出を実現し、レジリエンス向上と資産保護に貢献してまいります。
■受賞概要
[名称] CIGRE Paris Session 2026 Best Paper Award(B1 PS1)
[受賞論文] "Early Detection of External Damage Incidents in Long-Distance Direct Current Submarine Cables"(Paper ID: 10824)
[受賞者]
山本 誠司、武田 宗一郎、下口 剛史(住友電気工業株式会社)
Denis Bolotov、Ralf Albrecht(AP Sensing GmbH)
[受賞日] 2026年8月28日
[開催地] Palais des Congrès(フランス・パリ)
*1 CIGRE(国際大電力システム会議)は、電力システムに関する専門知識を共同で開発・共有する目的で1921年にフランス・パリで設立された民間の非営利団体です。電力システムの全分野を網羅する16の研究委員会(スタディコミッティ)、250以上のワーキンググループを中心に技術的課題に取り組んでおり、2年に一度パリで開催されるCIGRE Paris Sessionは、世界中の電力関係者が最新の技術動向を共有する国際的な場として知られています。
*2 B1 PS1部門は、スタディコミッティB1 (Insulated Cables:絶縁ケーブル) の中の、PS1 (Future cable systems and innovative cable applications:次世代ケーブルシステムと革新的なケーブル応用) という部門を指します。
*3 NEDO (国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) は、エネルギー・地球環境問題の解決や日本の産業技術力の強化のため、委託事業や補助金などにより技術開発を支援する政府の機関です。