前例がない長距離ケーブルの課題解決に挑め~発揮された住友電工グループの強みとシナジー~

前例がない長距離ケーブルの課題解決に挑め ~発揮された住友電工グループの強みとシナジー~

電線メーカーの枠を超えたソリューションの提供

東日本大震災を機に、電力業界に再生可能エネルギーの拡大という構造的変化の兆しが現れていた。こうした中、住友電工グループは、新たな取引先となる再生可能エネルギー事業者からは、電力ケーブルの提供のみならず、発電所を電力系統と連系するために、系統設計を含めた送変電ソリューションを提供することが期待されていた。

こうした課題意識を持ちつつ、住友電工は事業者の中でも注目されていたGPIにアプローチ。その当事者が現在電力プロジェクト事業部の技師長である真山修二だ。約5年前、GPIがウィンドファームつがるの具体的検討を進めていた時期だった。

電力プロジェクト事業部 技師長 真山 修二
電力プロジェクト事業部 技師長 真山 修二

「当時はお付き合いのなかったGPI様に手を尽くしアポを取り、坂木部長(現GPI社長)にお目にかかることが出来ました。最初、当社の構想をご納得いただくのが難関であったことを鮮明に覚えています。しかし、当社グループが考えるソリューションを説明し続けた結果、『住友電工に電気設計を任せてみたい』というお話をいただき大変感激しました。そこで受変電設備の日新電機(株)、電気工事の住友電設(株)と連携し、送変電設備全てを当社グループでカバーすべく各社のキーパーソンに兼務出向いただき、横串を通す体制を整えました。そして着工までの期間、電気系全体の基本設計や許認可申請の支援、ルート検討などを精力的に進めました。それまで経験のない受変電や土木工事を含め全体を設計できるのか、これほどの長距離線路を2年で完工できるのか、途中で大いに悩みました。しかし3社のエンジニアで議論を深める中で『できる』という確信と、各社の製品を並べて提供するだけではない大きなソリューション価値に気付くことができたのです」(真山)

長距離送電における課題・送電ロス・ルート選定

電線・エネルギー事業本部 技師長 太田 一雄
電線・エネルギー事業本部 技師長 太田 一雄

国内最大規模の陸上風力発電所であるウィンドファームつがるの建設には、前例のない課題もあった。各風車からの発電電力を33kVの地中配電線で集電し、154kVに昇圧した後、電力会社(東北電力ネットワーク(株))の変電所までの約34kmを地中送電する設計だ。当時、送変電設備に係るディレクターを担当し、現在、電線・エネルギー事業本部の技師長を務める太田一雄は「地中送電で34kmもの長距離を送電するケースは、当時はあり得ない規模だった」と指摘する。

「34㎞は、東京・横浜間に匹敵する距離です。課題の1つが送電ロス。そこで、当初予定されていた66kV送電から154kV送電への電圧変更を提案しました。電気の原理に基づけば合理的と考えられる提案で、66kV送電時と比べて送電ロスが大幅に低減。加えて布設するケーブル本数も削減・軽量化できたため、管路土木工事量の低減、橋梁添架*の施工性アップにも寄与しました。しかし、新たに大きな課題が明らかになりました。電力系統に長距離ケーブルを連系することで発生する特異現象(電圧変動や高調波共振現象等)を解決する必要があったのです。この特異現象への対策はケーブルの電気的特性と変電機器設計を一体的に検討する必要があり、チャレンジングな取り組みとなりました」(太田)

想定される特異現象は 後述の5つ。太田ら住友電工の技術者と共にその解決に挑んだのが、日新電機・システムエンジニアリング部の植村浩之である。植村は最適な電気システムの構築に向け、電力会社との技術協議、設計図の作成、機器の製作、納入据付など、風力発電所の要である送変電設備に関し、円滑かつ迅速にプロジェクトを進行させる役割を担った。では長距離ケーブルに起因する特異現象とは何か。

*ケーブルを道路橋(鋼橋・PC橋)に添架すること。

最大の課題「5つの特異現象」を解明、解決に導く

「本事業では、一般的な工場やビル向けの送変電設備ではあり得ないほど長距離の高圧ケーブルを布設する必要がありました。送電時には、特異現象が発生することがあるため、電力会社からその適用には十分に事前検討するように要請されていたのです」(植村)。

特異現象の多くは、これまで住友電工グループが培ってきた知見や経験の範囲を超えるものだった。それらにどのようにして対策を講じたのか。植村は語る。

日新電機(株) 電力・環境システム事業本部 システムエンジニアリング部 参与 植村 浩之
日新電機(株) 電力・環境システム事業本部 システムエンジニアリング部 参与 植村 浩之

「地中に埋設する電力ケーブルはその構造から架空送電線よりケーブルにたまる電気の量が非常に大きい。私たちはこれを静電容量とか、充電容量と呼びますが、長距離ケーブルでは極めて大きくなります。これが5つの特異現象の原因です。それぞれの現象について検討を重ね、解決策を得ました。

1点目は、地絡(高電圧の漏電)事故時の事故遮断の動作への影響。ケーブルにたまっていた電気が事故電流と共に流れ込み、事故電流を増加させることで正常に事故遮断できない恐れがあります。このケーブルから流れ込む電流を、逆方向の電流で打ち消すため変圧器の中性点に補償リアクトルを設置しました。

2点目は、ケーブルの充電容量により、電力会社の規定する電圧変動範囲を逸脱すること。長距離ケーブルを分割する連系開閉所を設け、そこにケーブルの充電容量を打ち消すための装置、分路リアクトルを設置しました。

3点目は、過電圧による機器損傷。変電所の遮断器を開放して停電したとしても、ケーブルには電気(電荷)が残留する特徴があるため、遮断器を再投入すると、機器を損傷する恐れがありました。これに対し、放電装置(接地形機器)で対応し、問題なく放電可能であることを検証し解決しました。

4点目が、高調波共振。高調波とは商用周波数(50Hz・60Hz)の5倍・7倍等の周波数で、本来不要なものが存在して正常な電気の波形を歪ませます。長距離ケーブルの静電容量と電力系統(インダクタンス)とのバランスが崩れ共振現象が発生すると電力系統に内在している高調波が拡大し、機器等の過熱を発生させる恐れがありました。そこで高調波共振を抑制するために高調波フィルタを設置しました。

5点目が、設置した中性点補償リアクトルや分路リアクトルの影響による零ミス現象。これは、電気事故発生時に、事故電流が通常の交流波形と異なり直流のようにゼロ点と交差しない状態となる現象です。この状態になると、事故電流を遮断できず遮断器を損傷させる恐れがありました。そこで中性点補償リアクトルの抵抗分を大きくしたり、分路リアクトルを先行遮断することで対策を行いました」(植村)

この取り組みは、2017年3月から始まり、電力会社との度重なる協議を経て電力会社から承認が出たのは同年12月。実に9カ月の時間をかけて、ウィンドファームつがるの系統連系が実現する運びとなった。

高調波共振現象
高調波共振現象
連系開閉所設備
連系開閉所設備

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