次世代のものづくりとマルチドリル〜「インダストリー4.0」の時代に向けて〜

次世代のものづくりとマルチドリル〜「インダストリー4.0」の時代に向けて〜

ドイツで開始された 第四次産業革命

国内外の市場に投入されて以来約35年、マルチドリルは様々な進化を遂げ、生産性向上やコスト削減など製造現場の革新に大きな役割を果たしてきた。そして今、世界の製造現場は新たな進化のフェーズに入りつつある。18世紀の蒸気機関による機械化、20世紀初頭の電力による大量生産、1970年代以降のコンピュータによる自動化、それらに匹敵する規模の影響を及ぼすとされており、人類史上4 回目の産業革命を起こす取り組み、それが「インダストリー4.0」と呼ばれているものだ。そのコンセプトは、「スマートファクトリー(考える工場)」であり、生産工程のデジタル化、自動化、バーチャル化を大幅に進めることでコストの極小化を目指す。その実現に有効なツールの一つとされるのが「IoT」だ。製造現場の設備機械類をインターネットで接続、情報を伝達し合い、生産や供給、製造パフォーマンスを最適化する。ドイツで開始された、これらの政府が主導する産学官共同の取り組みは、先進国の間に波及。日本においても次世代のものづくりに不可欠な要素として各方面で研究・検討が進められている。

センシングとビッグデータによる
「悲鳴を上げる」センサー搭載工具

住友電工グループでも多彩な取り組みが推進されており、その中核となるのがアドバンストマテリアル研究所、IoT研究開発センターである。アドバンストマテリアル研究所は金属材料や無機材料分野の新材料創製、独自の超高圧技術や粉末冶金技術によるプロセス革新をミッションとしているが、材料研究のみならず、加工技術の研究にも取り組んでおり、IoT研究開発センターとの協働で「センサー搭載工具」の開発も進めている。

住友電工 執行役員 アドバンストマテリアル研究所 所長 後藤光宏
住友電工 執行役員 アドバンストマテリアル研究所 所長 後藤光宏

「マルチドリルはその使用方法や使用環境によって、寿命は変わってきます。寿命とは、マルチドリルの摩耗が進行し、穴加工精度が低下、ドリルの破損リスクが高まる状態のことをいいます。ドリルが加工中に折れてしまうと、折れた刃が加工穴から取りにくくなったり、被削材が傷ついたり、後工程に遅れが生じるなど様々な問題が発生してしまいます。ユーザーは工具の寿命100%まで使い切りたいのですが、使用方法や使用環境によって寿命が変わってくるため、寿命を予測できず、たとえば80%辺りで余裕を見て、新しい工具に交換することが通例となっています。そこで私たちが目指しているのは、寿命ぎりぎりまで使用可能とする“悲鳴を上げるツール”。つまり、工具そのものが自身の寿命を告知するスマートなツールです」(アドバンストマテリアル研究所所長・後藤光宏)

その実現に不可欠なものが「IoT」だ。加工時の力や温度、振動などの異常をセンサが検知、それらの情報を無線ネットワークで収集し、ビッグデータとして蓄積・解析することで、切削工具の状態を監視し、寿命を予測するというものだ。これが実現すれば、機械加工の生産コストの大幅な低減、歩留まりの向上が期待できる。硬質材料研究部の技師長である村上大介は、ドリルはその性格上、他の切削工具以上にクリアすべきハードルが多いことを指摘する。

住友電工 アドバンストマテリアル研究所 硬質材料研究部 技師長 村上大介
住友電工 アドバンストマテリアル研究所 硬質材料研究部 技師長 村上大介

「ドリルは穴底で加工しているため外から加工時の様子が見えません。そこで何が起きているのか。現在検討を進めているのが“見える化”。すなわち、センシング技術や画像技術などを駆使した可視化の実現です。可視化によって寿命の予測も可能になり、それによって生産の無駄を省くのがスマート化です」(村上)

マルチドリルの寿命は、かつて、使用者による長年の職人的五感や感覚によって判断されてきた部分が少なくない。そうした判断の確度が高いことも広く知られているが、それらをデジタル化・自動化することで一層の生産性向上を実現するのがセンサー搭載工具であり、「インダストリー4.0」時代の要請に応えるものでもある。

「あらゆるものづくりに欠かせないのが穴あけであり、穴あけによってはめ合わせが可能となり、“もの”はできあがっていきます。マルチドリルは鋼加工用からスタートしましたが、現在は多様な材料に適応しています。今後も様々なものづくりに要請される穴あけにマルチドリルは有効であり、なくてはならない、最初に選ばれるドリルであり続けたいと思っています。住友電工グループは切削工具業界において、5年以内にグローバルでトップ3 に入ることを目指していますが、その実現の強力なエンジン役となるのがマルチドリルであると確信しています」(前出・ハードメタル事業部 事業部長・村山)

“住友のマルチドリル”は今後も進化を続け、世界各地の生産現場の革新を担い、次世代のものづくりを拓く一翼を担っていくことは間違いない。

あらゆる使用条件を想定し、テストが繰り返されていく
あらゆる使用条件を想定し、テストが繰り返されていく