光ファイバ通信の技術革新で社会に貢献
「IEEEフェロー」の称号を拝受

重松 昌行

フェロー
新規事業マーケティング部 INS推進部 技師長
研究開発本部 技師長、人材開発部 主幹 兼務
重松 昌行

このたび、光ファイバ増幅技術分野での功績を評価いただき、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)から「フェロー」の称号を賜りました。電気、情報工学分野の専門家組織であり、世界最大規模の学会IEEEにおいてフェローに選出いただいたことは、技術者として大変光栄なことです。社会インフラを担う住友電工グループの一員として、世の中に役立つ技術や製品づくりに取り組んでこられたからこそであり、関わってくださったすべての仲間に感謝を申し上げます 。

研究活動の社会貢献度が評価される「IEEEフェロー」

IEEEは、住友電工グループも深く関わる電力、情報工学分野で最高の権威を誇る学会です。190か国以上、48万人を超える会員が所属し、各分野の研究や論文誌の出版、工業技術の規格標準化をリードしています。例えば、コンピュータネットワークにおける代表的な通信規格であるイーサネットのIEEE802.3もIEEEの標準化委員会で定義されました。このように、標準化によって多様な製品やサービスの相互運用性を高める役割も果たしている学会です。

同学会の最高位グレードに位置づけられている会員資格が「IEEEフェロー」です。毎年、関連分野で顕著な貢献を果たした会員に対して授与される称号で、厳正な審査を経て選出されます。審査の詳細は公表されていませんが、研究成果が社会にどれほど役立っているか、その貢献の大きさが重視されているようです。

私が評価されたのは、光ファイバ増幅技術の発展に対する貢献です。ここで、光通信技術について少しご紹介します。光通信では、まず電気信号を光信号に変換し、その光信号が0と1で点滅しながら光ファイバ内を伝搬します。しかし、光信号は長距離を伝搬するうちに徐々に減衰してしまうため、ある程度の距離ごとに電気信号に戻してパワーを強化(増幅)し、再び光信号に変換して送る必要がありました。この方法では、電気回路を用いた中継装置が不可欠であり、特に通信速度が上がるほど電気回路の高速化や入れ替えといった対応が必要になるという課題がありました。

この課題を解決したのが、1980年代後半に登場したエルビウム添加光ファイバ(EDF)増幅技術です。光ファイバの中で信号が伝搬する部分にエルビウムという希土類元素を少し添加しておき、そこに励起光と呼ばれる強い別の波長をもつ光を横から照射することでエルビウムイオンのエネルギー状態を高め、そのエネルギーを利用して光信号を電気に変換することなく光のまま増幅させる世紀のブレイクスルー技術であり、私の研究活動に大きな影響を与えました。

shigematsu

私たちの快適な情報通信を支える光ファイバ増幅技術

私が入社した1985年は、北海道旭川から鹿児島まで約3,400㎞の光ファイバ伝送路「日本縦貫ルート」が完成し、1.3μm帯長距離大容量光通信システムの運用が本格化した時期です。そうした中で私が最初に取り組んだのは、光ファイバが最も低損失となる1.55μm帯に最適化された次世代光ファイバ「分散シフトファイバ」の研究開発でした。電磁解析プログラムを自作し、光ファイバの諸特性を算出して最適設計を行い、実用化にも成功するなど、光ファイバ技術の基礎を徹底的に叩き込まれました。

この「光ファイバのデザイナー」としての経験が、入社4年目にEDF増幅と出合った時に大いに役立ちました。まずは増幅効率の高いEDFの開発に成功。当時は開発に必要なデバイスが十分に揃っておらず、励起光源としてArレーザを使用し、定盤上に空間レンズを組み合わせて評価系を構築しました。初めて光増幅を観測できたときの感動は、今でも鮮明に覚えています。

続いて取り組んだのは、光増幅によって光信号のパワーを高め、それを多方面に分配する技術の開発です。1990年当時、光アクセス網を活用した映像分配をサービスを柱とする次世代通信網構想「VI&P構想」が提唱されていました。この構想の実現には、光信号をユーザに分配する際に生じる分岐損失を補う光増幅器の存在が不可欠でした。さらに、映像伝送にはケーブルテレビで実績のあるアナログ伝送方式が採用されており、光増幅器には極めて厳しい低雑音や低歪み特性が求められました。 そこで私は、光アクセス網を構成する光増幅器や伝送路、光学部品の各種特性が映像信号品質に与える影響を定式化し、光増幅器と分散補償ファイバの設計手法を確立、光アクセス網構成の最適設計を実現しました。こうして高品質な映像配信が実現し、完成した光アクセス系映像分配伝送システムは、1997年に横浜市戸塚地区で商用化されました。この技術は、現在私たちが多様な映像コンテンツをいつでも、どこでも、手頃な価格で楽しめるライフスタイルの基盤となっています。

その後は、光増幅器の幹線系への応用を進め、光増幅中継システム(1波)や 波長分割多重光伝送(WDM)システムの研究開発を推進し、日本の通信キャリアによる採用に至りました。工事部隊と寝食を共にし、全国でWDMシステムの設置、開通工事を指揮した経験は忘れがたい思い出です。

これらの技術はいずれも、私が研究開発を担いましたが、社会で実用化されるまでには、製品化や保守に力を尽くした住友電工グループの仲間の力がありました。そして、何よりお客さまからの信頼と協力があってこそ成し遂げられた成果です。IEEEフェロー昇格は、関わってくださったすべてのみなさんを代表していただいた栄誉だと受け止めています。

重松 昌行    

若手の挑戦を尊ぶ気風が、革新的技術を生む

学生時代、光の研究に取り組んでいた私は、「研究で社会に貢献したい。情報通信を支える技術を開発したい」と考え、社会インフラの中核を担う住友電工に入社しました。入社直後から低損失の光ファイバの設計という大きなテーマを任され、以降も光ファイバ網の監視システムに用いられる光受動部品や光フィルタの開発に携わりました。若手のうちから挑戦の機会が与えられ、裁量をもって研究開発に取り組める社風のおかげで、さまざまなテーマに果敢に挑戦できました。時代背景による後押しもありますが、ボトムアップを促し若手のやる気を尊重する自由闊達な風土が、住友電工グループにおける革新的な技術開発の源泉であったと感じています。

住友電工グループは、研究者や技術者が多彩な経験を積む機会に恵まれています。私自身は、情報通信分野の複数の研究所で経験を重ねた後、2005年から約4年間、アメリカ、シリコンバレーにある研究開発部門の子会社、ICS(Innovation Core SEI, Inc.)へ社長として赴任しました。現地では、ベンチャーキャピタルとの連携を通してオープンイノベーションを推進し、多くの技術的な挑戦に取り組みました。中でも、アメリカの顧客と日本の技術陣をつないで調整を重ね、Thunderboltの実用化に向けた基盤構築に貢献できたことは大きな成果の一つです。

Thunderbolt™ケーブル
Thunderbolt™ケーブル

異分野交流が社内で実現する、住友電工グループ

私は現在、2025年から日本も所属するIEEE Region 10(アジア太平洋)のコミッティー委員を務めており、今後はこれまで以上に海外の方々との交流機会が増えていくものと考えています。分野を越えた連携が社会の持続的な発展の鍵となる今、IEEEでも異分野間の交流がますます活発になり、その交わった点から新たな研究領域や技術革新が生まれていくことでしょう。

私自身、スピードが求められる米国のビジネス環境で仕事をした経験から、専門外の分野における研究者や技術者とのつながりが、情報力や発想力の源泉となることを強く実感しました。住友電工グループでは、こうした異分野交流が社内で実現します。研究者や技術者は、ともすれば専門分野に没頭するあまり、他分野の動向に目が届きにくくなることがあります。住友電工グループは、「エネルギー」「情報通信」「モビリティ」を3つの注力分野と位置付け、これらが融合するGXやDX、CASEなどの多様な社会ニーズに応えるべく、分野横断的な連携を積極的に進めています。異なる分野の知見や価値観が交わることで、既存の枠にとらわれない斬新な発想が生まれ、グループとしての研究開発力はさらに強化されています。同時にこのような環境は、個々の研究者や技術者にとっても、専門性の深化とともに、視野の拡大や新たなスキルの習得といった絶好の成長機会につながっています。

重松 昌行

関連情報

[製品情報] Thunderbolt™ケーブル
[外部リンク] IEEEジャパンカウンシル

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