何 世紅

住友事業精神を土台にしたチームワークの創造 最適解を生み出すマネジメントの実践

新たなキャリアへの挑戦 やるべきことを考え、徹底的に実践する

私は大学卒業後、天津の自動車メーカーに入社し、自動車の設計業務に従事しました。最初の転機が訪れたのは、1994年。勤務先と住友電工、住友電装との合弁により、天津津住汽車線束有限公司(TJWS)が設立されたことでした。TJWSは自動車用ワイヤーハーネスの製造を行い、主に日系自動車メーカーに製品を供給する会社です。私は設立に向けたプロジェクトに参加するという新たなチャレンジの機会を得ました。

それまで技術者としてキャリアを積んできましたが、多くの人とコミュニケーションを取っていく中で課題を解決に導き、企業価値や社員満足度を向上させていくマネジメントの仕事に強く惹かれました。一方で、様々な知見を結集し、問題を洞察して本質を見抜き、新たなモノを生み出す技術者としての論理的思考は、マネジメントにも活かせるという確信もありました。しかし、新会社設立までは苦難の連続。独力で一から手順を学び、知識やノウハウを蓄積していきました。

新会社設立から5 年目、財務責任者のときに大きな問題が発生したのです。得意先の新規車種が量産体制に入り出荷が始まったものの単価交渉が合意に至らないため、資金回収ができず、資金繰りが非常に厳しい状況に追い込まれました。責任者として私は、資金計画と資金調達を日単位で徹底管理するとともに、銀行への借入申請、得意先との資金回収交渉、親会社との折衝など、文字通り東奔西走の日々でした。その結果、大きな危機を乗り越えることができたのです。困難に直面したとき、会社のためにいま自分は何をやるべきかを考え、それを徹底的に実行に移したことで、問題は必ず解決に導くことができることを強く実感した取り組みでした。

社員が楽しく活き活きと働く それを実現するのがマネジメント

年次を重ねると共に、新たなポストが与えられ、それと並行してマネジメントする領域も増えていきました。財務管理部副部長になったタイミングで大きな壁に突き当たりました。私はマネージャーとして、部下には的確な指示と判断が不可欠と思って業務をこなしていました。しかし、それだけでは、思うような結果が生まれないのです。「私は部下に何を与えられるのか」「私の何が間違っているのか」「私の存在価値は何なのか」。日々考え続けました。そして見出したのは、社員が楽しく気持ちよく、活き活きと働ける職場を作ることが、私の役割という答えです。私は表情や応対のあり方から変えていきました。そして密なコミュニケーションを実践することで、仕事の現場を知り、そこで働く人の想いや気持ちを汲み取り、問題があれば解決する取り組みを進めました。社員同士が支え合い、助け合う風土、毎日会社に行きたいと思える職場を作ること。その実現が、社員のモチベーションを向上させ、生産性を向上し品質を確保することにつながっていくのです。この気付きは、私のマネジメントの原点となったものでした。

一丸となって改革を進めたJHWSの仲間たち
一丸となって改革を進めたJHWSの仲間たち
一丸となって改革を進めたJHWSの仲間たち

心と心で繋ぐチームワークこそが 会社再生の原動力

2015年、TJWSと広州の自動車部品メーカーとの合弁で設立された恵州市津恵汽車線束有限公司(JHWS)に総経理(経営責任者)として着任しました。2000年に設立されたJHWSは、業績不振が続いていました。そうした中、会社の再生を託されての着任でした。

私が最初に掲げたのが数値目標。そしてその目標達成のために必要な改革を進めました。社外では受注に向けたお客様との積極的な交渉、社内では長年勤務している従業員へ新しい理念の理解・浸透、各種評価制度・ルールの見直し、施設・設備の更新など様々な取り組みを実施しましたが、最も重要だったのは社員同士の団結力です。自分たちの会社を自分たちの手で立て直すという意識を持つことで、目標達成に向けたチームワークが生まれていきました。

その意識を醸成する根幹にあったのが「住友事業精神」です。「萬事入精」「信用確実」「不趨浮利」の考えは中国文化と親和性があると考え、社員全員に理解してもらうための施策、例えば、入社時教育の実施や日々の朝礼・定期研修で住友事業精神を自身の仕事に落とし込む機会を与え、意識付けを行いました。共通の意識をもつことで一体感が生まれ、仕事に対する各々の姿勢も変わっていった結果、業績は回復基調へ転換していきました。土壌ができたあとは、一人ひとりの意見に耳を傾けることに留意し、「信頼関係の構築」と「公平・公正な評価」を徹底していきました。こうして着任から2年後には黒字転換を果たすことができました。それは私が成し遂げたものではなく、社員一人ひとりの力が結集され実現したものです。会社再生の喜びを社員全員と共に分かち合いました。

今後は、当社のワイヤーハーネスを日系メーカーのみならず、中国国内および欧米メーカーに拡販し、生産規模を拡大していくことで、住友電工グループの事業発展に最大限貢献していきたいと思っています。そのためにも、今まで以上に社員が仕事を楽しいと感じ、社員が成長できる会社を創造することが目標です。私をグループ・グローバル幹部に認定していただきましたが、リーダーに必要なものは、やるべきことを考え徹底的に実践すること、そして社員の立場になって考える「心と心のコミュニケーション」の2点だと感じています。このことにより、最適解を生み出す最善のマネジメントが実現すると思います。

日々現場に足を運び、社員とコミュニケーションをとっている
日々現場に足を運び、社員とコミュニケーションをとっている
日々現場に足を運び、社員とコミュニケーションをとっている

PROFILE

何 世紅 He Shihong 

1994年
天津津住汽車線束有限公司 入社

2003年
財務管理部 副部長

2006年
企業管理本部 部長

2007年
副総経理

2014年
住友電工グループ グループ・グローバル幹部*に認定

2015年
恵州市津恵汽車線束有限公司 総経理兼任

* 住友電工では、海外グループ会社の経営層より、「自社のみならず、グローバルに事業運営で活躍を期待する人材」をグループ・グローバル幹部として毎年選出。何氏は制度創設の2014年度から連続で認定されている。

地域のお祭り「西湖花灯博覧会」にて。今年初めて出展した広告灯の前で社員たちと
地域のお祭り「西湖花灯博覧会」にて。今年初めて出展した広告灯の前で社員たちと

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