光通信に不可欠な光デバイスの進化に挑む~データセンタの新たな要請に応える~
高速大容量通信に不可欠な伝送用半導体レーザ
今や社会インフラの重要な要素であり、多くの人が恩恵を受けている光通信。メタルケーブルから光ファイバへの転換が進んだのは、拡大する情報トラフィックに対して、大容量のデータを高速かつ長距離で安定して通信できるからだ。光通信では、送信側で電気信号を光信号に変換し光ファイバで伝送、受信側の受光素子で再び電気信号に変換される。
重要なポイントが、「光源」である。現在、光通信の光源に採用されているのが、発光素子「半導体レーザ」。光の波長や位相が揃った状態が、高速かつ長距離で安定したデータ転送を可能にする光源で、住友電工グループが長年にわたって取り組んできた光デバイスだ。
データセンタにおける通信トラフィック増加に伴い、一層の高速大容量通信対応、低消費電力化が求められている。
圧倒的な処理能力の高さが生むAIソリューション
生成AIの登場によって、データセンタは「AIデータセンタ」へとシフトチェンジしつつある。従来との大きな違いはAIの計算に特化した処理能力の高さ。画像処理装置(Graphics Processing Unit以下、GPU)など、AI専用に設計されたハードウェアを多数搭載しており、これにより膨大なデータの学習や解析を高速に行うことができる。企業や研究機関の処理すべき計算量やデータ量は飛躍的に増加しており、その大容量データを高速かつ安定して通信するために重要なパーツが光デバイスである。
データセンタを支える3つの主力製品
住友電工グループの光デバイス事業を担うのが、住友電工デバイス・イノベーション(株)(以下、SEDI)である。SEDIは、国内に横浜・山梨の2拠点のほか、海外にもベトナムに製造拠点、欧米・中国に開発支援部門を有し、光通信や無線通信用デバイスの設計・開発・製造を行っている。素材開発から最終製品まで、光通信・無線通信の両ソリューションを一社で提供できることが強みの源泉だ。このSEDIを率いるのが代表取締役社長の岩舘弘剛である。入社以来、一貫して光デバイスに携わり、2025年6月に現職に着任した。
「データトラフィック量の爆発的増加に伴い、データ伝送には高速大容量を実現する光デバイスが求められ、当社は迅速かつ的確に応えてきました。私たちが手掛けるのはデータセンタ内とデータセンタ間を繋ぐ光通信用の光デバイスです。データセンタ内には『変調器集積レーザ(Electro-absorption Modulator integrated Laser以下、EML)』と『連続出力レーザ(以下、CW-LD)』(詳細後述)。加えて、データセンタ間には光ファイバに複数の波長の光を同時に送ることができる『波長可変レーザ』を供給しています。『EML』は約40年の歴史がある製品で、現在世界市場でトップクラスのシェアを占めています。『CW-LD』は高効率化、高出力化、小チップ化等を高いレベルで実現したことで、世界市場の過半数を占めるに至っています」(岩舘)
「化合物半導体」で培ってきた高い技術力
世界市場で優位性を保っているSEDIの強みは材料である。半導体材料としてはシリコンが有名であるが、光デバイスで採用されるのはインジウムリンやガリウムヒ素などの複数元素からなる化合物半導体だ。単一元素半導体のシリコンでは達成できない発光デバイスや高性能電子デバイスを実現できる。この化合物半導体の結晶成長製造に用いられているのがエピタキシャル成長(詳細後述)であり、SEDIは約半世紀にわたってこの技術を磨き上げてきた。
「化合物半導体の光デバイスは、常に高速大容量化、低消費電力化を要請され、それは今も継続しています。かつて10Gbps程度であったデータ通信の速度は、現在では800Gbps、近い将来の1.6Tbpsも視野に入ってきました。さらなる高性能化の実現には、越えなければならない技術課題が山積しています。マーケットとお客様に真摯に向き合い、イノベーションを起こしていきたいと思っています」(岩舘)
さらに、SEDIの目指す姿について岩舘は続ける。
「光通信市場で特徴的なことは、伸長と停滞のサイクルが繰り返されることです。その中でも私たちは投資を継続し、技術開発力、製造する力を磨いてきた自負があります。今後も化合物半導体が持つ強みを最大限に活かし、付加価値の高い製品を供給し続けていきます」(岩舘)