世界のトップポジションを目指して、荒波を越える
世界が注目するプロジェクトの行方
2017年6月、茨城県の日立港から大型の貨物船が出航した。イギリスからベルギーへ敷設する118kmの送電ケーブル、総重量5,200tを積んで。「ケーブル製造に約1年を要しましたが、世界初の製品であり失敗は許されません。常に品質確保を最優先にしてきました」と本プロジェクト技術責任者の西川哲は語る。ケーブルは7月末にイギリスに到着し、8月から海底敷設工事が始まる。
海底ケーブルの敷設工事には、不確実な要素がいくつも存在する。例えば、敷設前の海底調査では、第1次・第2次世界大戦の残存機雷が5つ発見され、撤去作業を行った。また、観光シーズンのベルギーや環境規制のシーズンのイギリスなど、陸揚げ地点は、季節や場所によって作業期間に制約がある。作業期間中も、天候によっては作業ができない日が発生する。本プロジェクトは2019年1月31日完工を予定しており、「これら不確実なリスクがありながらも延期を避けるためには、作業計画を綿密に行うことが必要です」と語るのは、設置作業責任者のショーン・フィリップス。
本プロジェクトチームは現在25人。イギリス、ベルギー、オランダ、アイルランドなどさまざまな国籍のスペシャリストが集まっている。例えれば、プロのサッカーチームと同じ。現地の敷設作業を総括する川口輝明は、「それぞれのポジションでしっかりしたプレーをしてくれればチームとして機能します。部分最適を最大に活かしながら、全体最適を求めるのがプロジェクト成功のキーになると思います」と語る。
プロジェクトチーム・メンバーたちの“想い”
チームのメンバーに共通するのは、今回のプロジェクトに参加できる喜びだ。
副プロジェクトマネージャー ハート・バンデルヘイデンは、「これほどのビッグプロジェクトになると動くお金も関係者も多くなる。工程も複雑です。しかし、このプロジェクトをやり遂げれば、技術者としての大きな自信になります」と語る。さらに、プロジェクトエンジニア キャサリン・バークも熱い想いで続ける。
「ケーブルを製造する日本の工場の方と働く機会があります。国によって、仕事のプロセスやプロジェクトで求められる書類に違いがあり、それを理解しあうことは大変だと感じることもあります。しかし、それを乗り越え、この新しい技術を用いた海底ケーブルプロジェクトの一員として携われることを、私は誇りに思います」。
住友電工グループがイギリス-ベルギー国際連系線プロジェクトを受注したことはヨーロッパの電力業界に大きなインパクトを与えた。今ではヨーロッパの電力業界で住友電工グループの名前を知らない人はいない。プレーヤーとしてポジションを得たことの意義は大きい。電力業界だけでなく、イギリス、ベルギー両政府も関心を持って工事の行方を見守っている。
「2019年1月。このプロジェクトが無事成功すれば、さらに評価が上がるでしょう。私たちには、世界初の最高電圧400kV直流XLPE絶縁ケーブルを敷いたという大きな実績が残ります。それ以上に、今回のプロジェクトを通して、ヨーロッパが抱える社会課題の解決に貢献できることがうれしい。これからも、世界のために、住友電工グループが持つ技術と人材の力を最大限に活かしていきたいですね」。
古橋の視線は、すでに次のプロジェクトを見据えている。