“Glorious Excellent Company”を目指して

住友電工グループはこれまで、「住友事業精神」と「住友電工グループ経営理念」を基本的価値軸と位置づけ、常に公益との調和を図りながら事業に取り組み、社会課題の解決に貢献してまいりました。当社グループはこれからも、より良い社会の実現に貢献すべく、“Glorious Excellent Company”を目指して、多様なステークホルダーの皆さまとともに、中長期的な企業価値向上に取り組んでまいります。

松本正義

住友電気工業株式会社

取締役会長

住友電工 取締役会長 松本正義
住友電工 取締役会長 松本正義

公益との調和を図る経営姿勢

住友事業精神の「公益との調和」を図る経営姿勢こそがわれわれの発展・成長の基盤です。

昨年度は、新型コロナウイルスの感染拡大が内外問わず社会・経済に甚大な打撃を与えた一年であり、現在もその渦中にあります。当社グループは、お客さま、お取引先、従業員とその家族など、ステークホルダーの皆さまの安全確保を最優先とした対策を実施するとともに、社会を広く支える製品をご提供するという使命を果たすため、事業継続に努めてまいりました。

当社グループの前身である住友伸銅場が銅線等の製造を開始したのは1897年のことです。当社グループの歴史は、この年から数えると約120年になりますが、その源流である住友の銅事業にまで遡ると約400年にわたるといえます。当社グループは、「住友事業精神」と「住友電工グループ経営理念」のもと、公正な事業活動を通じて、社会に貢献することを不変の基本方針としてきました。この方針のもと、創業以来、公益と調和した事業活動を堅実に全うしてきた姿勢こそが、私たちの発展・成長の基盤にあるのではないかと、私は考えています。

住友事業精神と持続可能性

公益性を重視する経営と多様なステークホルダーへの還元により社会の持続可能性を高めます。

米国主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が、2019年8月に従来の株主第一主義を見直し、お客さま、お取引先、従業員、地域社会といったステークホルダーにも広く配慮した経営で長期的に企業価値を向上させていくと宣言しました。また2020年1月のダボス会議でもマルチステークホルダー資本主義が主要なテーマとされました。

私は、関経連※1における取り組みの一環として、BRTをはじめとする関係者との意見交換を行うため、2020年1月に米国を訪問し、世界の潮流がマルチステークホルダー資本主義に変わりつつあることを実感してまいりました。米国から帰国してからは、「先ず隗より始めよ」ということで、報告書の取りまとめやシンポジウムの開催など、意見発信を強化しています。やはりわれわれは、ステークホルダーの活動のボリュームや貢献度に応じて果実を分配する、という経営の基本を忘れてはいけないと考えます。

日本企業の伝統的な経営哲学には、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という考え方があります。私どもの所属する住友でも、第二代総理事であった伊庭貞剛が「住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利する底の事業でなければならぬ」という言葉を遺しています。この「自利利他、公私一如」の考え方にも表れているように、常に公益との調和を図る経営姿勢は、住友事業精神として受け継がれています。こうした点を踏まえますと、住友は昔からマルチステークホルダー資本主義を地で行っているといえます。

近年、SDGsやESGといった考え方をベースとして、社会の持続可能性(サステナビリティ)を高める必要性が叫ばれています。わが国の企業経営はマルチステークホルダー資本主義をベースとしていることや、日本企業の伝統的な経営哲学と合致するものであることを考えると、SDGsやESG、サステナビリティといった考え方は、住友事業精神に内包されているといえるのです。
 

1 関経連:松本が会長を務めている関西の経済団体、公益社団法人関西経済連合会のこと。

人材育成とリーダー発掘の重要性

人材尊重の考え方に立脚し、当社グループを牽引する人材の育成とリーダーの発掘に努めています。

私が2004年に社長に就任したとき、ITバブル崩壊があって初めて赤字を出し、住友電工は苦境に陥っていました。住友の歴史を見ると明治時代にもそういうときがありました。幕末から明治維新の混乱期、別子銅山に存亡の危機が迫りました。当時、別子銅山の支配人で住友の初代総理事の広瀬宰平は、別子銅山の差し押さえは国益に反することを力説し、新政府から継続経営の許可を得ました。このような苦境にあって、住友の先輩は何を考えたか。私自身は「人材の育成とリーダーの発掘が重要である」と考えており、これまで当社グループの幹部から新入社員に至るまで、この話をしてきました。

「事業は人なり」という言葉があるように、住友事業精神にも「人材の尊重」という考え方があります。企業において人材は非常に重要です。知力、体力、胆力が人材の基本として必要であり、これらがベースにあれば、平常心、自然体、誠心誠意の精神、正々堂々の精神が醸し出されます。そう
いう人材を発掘して責任あるポジションにつかせることは、企業という大きな組織を運営するトップの仕事として大変重要だと思っています。

そういう人材がたくさんいれば、会社は大変良くなっていくわけですが、私は、人格者でなければ重要なポジションは任せられないという信念を持っています。「哲人経営」ということで、「勇気・公平・正直・信用・忍耐・責任・配慮・忠誠・努力・奉仕・明朗」と、儒学でいうところの「徳・仁・礼・信・義・智」、そして4つのC(Character, Civility, Courage,Compassion)が兼ね備わって人格になっていくということであります。そして実践にあたって必要な特性としては、進取の気性に富んでいることや、旺盛なる冒険心、革新的思考、目標達成意欲、国際性、社会性尊重、文化教育の高さ(リベラルアーツ)が非常に重要です。

こういう気構えを持って、実際にどのように仕事を進めていくかという点では、論理的かつ合理的であるか、科学的な計画性を持っているか、企画して実行する能力があるか、直観的に捉えたことを拡大できるか、そして柔軟さを備えつつも一貫性を持っているか、ということが重要です。こういう人材が仕事をして、実績を残していきます。そして、公益的な考え方に基づくステークホルダーへの還元と、拡大再生産への蓄積を行います。このようなことに取り組みながら、イノベーションの促進とSEQCDD※2の深化、信用信頼の増大、ブランドの確立、価格競争の回避、顧客の永続拡大、そして事業の質と量の拡充を図ります。

このような一連のプロセスを通じて品質の高い人材が育成されていきます。そして再び人格(哲人経営)というところに戻ってきて、もう一度サイクルが回っていく。なかなかうまくはいきませんが、これが原則論として私が示している会社経営の骨子であります。

※2 SEQCDD:S(Safety:安全)、E(Environment:環境)、Q(Quality:品質)、C(Cost:価格、原価)、D(Delivery:物流、納期)、D(Research & Development:研究開発)の各要素を考えて実行する住友電工グループの方針を指します。※3 パリ協定:世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ダイバーシティ&インクルージョンを注力すべき課題と捉え、多様な人材の活躍を推進します。

私たちは現在、地球規模かつ一筋縄ではいかない社会課題の解決に、会社としても社員個人としても率先して取り組まねばならない環境の中にあります。そのような中でも、的確な方向性や有効な解決策を導く素地を整えておくには、組織のレジリエンスを高めることや、発想が違うもの同士が議論を通じてアイディアの完成度を高めること、会社が一体感を持って持続的に成長できるようにすることが必要です。その素地として、私は、一人ひとりがダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包含)を意識した強いチームを作ることが重要だと考えています。ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)は、多様性を包含する、多様性を活かす、という意味です。D&Iは単なるジェンダーの問題ではなく、マネジメントの中で十分に考慮すべき課題です。

関経連では、関西が「活躍の場を求めるヒトを惹き付ける舞台」を目指すことを掲げています。その一環として、今年5月、「D&Iガイドライン 企業で活躍したい女性編」を公表し、「企業を活躍の舞台にしたい女性」の活躍推進に悩む企業が対応を選択する際の指針を示しました。これを契機として、女性に限らず多様な人材の活躍推進に資する環境整備を促進するとともに、当社グループも、率先垂範してD&Iに取り組むことにより、会員企業への浸透を図ってまいります。

ありたい姿“Glorious Excellent Company”の実現に向けて

ありたい姿“Glorious Excellent Company”を目指し、社会への価値提供と中長期的な企業価値向上に取り組みます。

当社グループは、ありたい姿として“Glorious Excellent Company”の実現を目指しています。

“Glorious”は不変の定性的なありたい姿です。松尾芭蕉が言った「不易流行」の本質をよく理解した歴代トップが「変えてはならぬもの」の中に住友事業精神を見出してきたのだと考えています。“Glorious”は「栄誉ある」という意味ですが、中世ヨーロッパで十字軍の旗印に“Glory”と書かれていたように、この言葉には「高潔に戦って愛される」という意味を込めました。住友事業精神を堅持し、仕事に精魂込めて取り組むことで、ステークホルダーに必要とされ、愛される企業でありたいということです。

一方で、”Excellent”は定量的なありたい姿で、中期経営計画の達成を通じて、企業として優れた業績をあげることを意味しており、現在は中期経営計画22VISIONの達成に向けグループ一丸となって取り組んでいます。当社グループは、これまで電線・ケーブルの製造で培った「つなぐ、つたえる」多様な技術をもとに事業を発展させてきました。現在の事業展開のフィールドとしては、「モビリティ」「エネルギー」「コミュニケーション」およびこれらを支える素材等になります。当社グループの事業・製品群は多様で、それぞれ違う形態を示していますが、技術は皆共通性を持っており、テクノロジーツリーのもとをたどっていけば電線・ケーブル事業で培った技術に統合されている点が、当社グループの総合力を支える大きな強みである、と考えています。

このような技術を強みとして、当社グループは、カーボンニュートラル達成など地球環境に係る諸課題への対応や、社会・経済のデジタル化に伴うDXの推進、レジリエンスの強化などに取り組むとともに、地球環境に優しく、安全・安心で、快適さや社会の成長につながる価値の提供を目指します。その結果として、当社グループ自身も中長期的な企業価値の向上を図りつつ、今日よりも明日、明日よりも明後日、世の中は必ず良くなっていくのだ、という夢を持って活き活きと働けるような会社にしていきたいと思います。

ステークホルダーの皆さまにおかれましては、変わらぬご支援をお願い申し上げます。