社長メッセージ

住友電工グループには、「つなぐ、つたえる」技術と事業の多様性、モノづくり力、「住友事業精神」を基本的価値軸に据える人材、多様なステークホルダーの皆さまとの信頼関係など、創業以来約120年にわたり築いてきた資産があります。 当社グループはこれからも、社会環境の変化に対するレジリエンスを高めながら、モビリティ・エネルギー・コミュニケーションの領域で、これらの資産を活かしてグループの総力を結集し、よりよい未来社会の実現に向けた社会価値の提供と中長期的な企業価値向上に取り組んでまいります。

井上 治

住友電気工業株式会社

社長

住友電工 社長 井上治
住友電工 社長 井上治

2020年度の業績について

厳しい環境下、グローバルにグループが一丸となり、業績向上に取り組みました。

はじめに、新型コロナウイルス感染症によりお亡くなりになられた方へのお悔やみと、罹患された方々とそのご家族へのお見舞いを申し上げます。また、医療従事者の皆さまの献身的なご努力に対し、感謝の念を表します。

2020年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、企業活動はもとより、社会活動全般に厳しい制限が課されるなど、世界全体が近年経験したことのない危機に直面した年であり、今もその渦中にあります。

当社グループを取り巻く事業環境は、新型コロナウイルス感染症の影響による自動車生産の減少や通信・電力関連工事の遅延のほか、光ファイバの価格低下もあり、上半期を中心に厳しいものとなりました。このような環境のもと、2020年度業績につきましては、売上高2兆9,186億円、営業利益1,139億円と、前期比で減収減益となりました。

なお、下半期につきましては、自動車生産の急回復により自動車向けの需要が盛り返してきたことに加え、第1四半期の大幅な赤字を取り返すべく、グローバルにグループが一丸となり、生産・出荷の確保やコスト削減に努めました。その結果、下半期の売上高は1兆6,793億円、営業利益は1,253億円と、いずれも過去最高を計上することができました。自動車関連事業に加え、社会インフラ関係の事業を手掛けていることが幸いしたと考えています。

一方で、現行の中期経営計画22VISIONでは、最終年度の2022年度に売上高3兆6,000億円、営業利益2,300億円、中間年度の2020年度に売上高3兆4,000億円、営業利益2,000億円の達成を掲げていますが、2020年度業績は前述の通りであり、22VISIONの進捗という観点で、中間目標は未達となりました。

中期経営計画22VISION

最終目標の達成に向けて邁進します。

今後、新型コロナウイルス感染症はワクチン接種の進展に伴って収束していくことを期待していますが、変異株の感染拡大などの不透明な要素も多く、経済・社会活動の正常化が想定より遅れることもあると思います。また、米中の通商政策などの政治的・地政学的リスク、半導体の供給不安なども憂慮材料です。

こうした環境に適応しながら、現時点の計画では伸長分野での需要捕捉と徹底したコストの改善に取り組み、2021年度の業績予想は、売上高3兆3,500億円、営業利益1,750億円と、過去最高を目指す計画としました。

また、このような状況下にはあるものの、“Glorious Excellent Company”を目指し、「総力を結集し、つなぐ、つたえる技術で、よりよい社会の実現に貢献する」というコンセプトのもと、「掲げた旗は降ろさない」ということで、22VISION最終目標の達成に向けて邁進してまいります。

22VISIONの目標達成とその先を見据え、具体的に取り組んでいることをご紹介します。まずモビリティの分野では、電動車向け高圧ハーネス、ハーネスのアルミ化による軽量化対応、電動車向けモーター用平角巻線のグローバルな生産能力増強、車載用リチウムイオン電池で使われるリード線の拡販や、いわゆるCASE※1関連の新製品創出に取り組むとともに、交通管制システム事業で得た知見を活かし、自動運転の実証実験などにも参加しています。

またエネルギーの分野では、再生可能エネルギー利用促進に伴う課題解決のため、伝送ロスの少ない高圧直流ケーブルや大型蓄電池などの需要を確実に捉えることに加え、近年の動向を踏まえまして、電気を効率よく使えるようにするためのSiCパワー半導体など、省エネや環境保全に貢献できる技術は、これからも伸ばしていこうと考えています。

そしてコミュニケーションの分野では、大規模データセンタ向け超多心高密度光ケーブルや光コネクタ、極低損失光ファイバを用いた海底ケーブル、5G基地局向け伝送デバイス・光デバイス製品についても引き続き注力してまいります。その他、ポアフロン®という膜を使い下水等を濾過する水処理事業を拡大しています。現在は下水処理を主な用途としていますが、将来的には海水の淡水化などもできるようにしていきたいと考えています。

さらに、基盤強化という観点では、社員の健康と安全、サプライチェーンの維持確保を引き続き最優先としつつ、コロナ禍を契機とした働き方の見直しを行うとともに、製造部門およびスタッフ部門における「無駄」を省くなど、製造業の基本であるSEQCDD※2のレベルアップとレジリエンスの強化に努めます。

1 CASE:自動車業界のトレンドを表す言葉で、Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとったもの。

※2 SEQCDD:S(Safety:安全)、E(Environment:環境)、Q(Quality:品質)、C(Cost:価格、原価)、D(Delivery:物流、納期)、D(Research & Development:研究開発)の各要素を考えて実行する住友電工グループの方針を指します。

サステナビリティ経営の強化

サステナビリティ経営推進委員会のもとで、サステナビリティに関する取り組みを強化していきます。

当社グループは「住友事業精神」と「住友電工グループ経営理念」のもと、公正な事業活動を通じて、社会に貢献することを不変の基本方針としてきました。この方針のもと、創業以来、「事業を通じて公益に資する」という経営哲学を実践し、経済価値と社会価値を一体的に創出するという姿勢を貫いてきたことこそが、私たちの発展・成長の基盤にあると考えています。

住友が約400年の長きにわたり受け継いできた「住友事業精神」には、持続可能性、公益性、長期的視点を重視するSDGsやESG、サステナビリティといった考え方が内包されています。これまで当社グループでは、たとえば従業員の安全確保や環境への配慮を徹底する「SEQCDDの強化」、世界各地での雇用創出、さらには社会貢献基金への拠出やスポーツ活動の支援といった社会貢献活動などにも注力してまいりました。

こうした考えのもと、当社グループでは、サステナビリティ経営に関する取り組みを全社的に検討・推進するための枠組みとして、2021年1月に社長を委員長とする「サステナビリティ経営推進委員会」を新設しました。

この委員会では、2050年カーボンニュートラルの達成に向けた対応など、社会課題の解決に向けた全社横断的な取り組みを推進するとともに、財務・非財務両面から中長期的な視点で事業に取り組むことで収益力・成長力を高め、グループ全体としての企業価値の一層の向上に取り組んでまいります。

2050年カーボンニュートラル達成を目指して

2050年カーボンニュートラル達成を目指し、地球環境に係る課題への取り組みを強化します。

当社グループはこれまで、地球温暖化や気候変動をはじめとする地球環境に係る課題を経営の最重要課題の一つと位置付け、「環境方針」に基づき、「アクションECO-22V」運動の推進による環境負荷の低減や、製品およびサービスの提供を通じた課題解決に取り組んでまいりました。

現在は、「パリ協定※3が要求する水準での温室効果ガスの排出削減を2030年までに目指す」という目標を掲げ、これらの取り組みをさらに加速させることで、持続可能で環境負荷の少ない社会の構築に、より一層貢献していきたいと考えています。なおこの目標につきましては、Science Based Targets initiative(SBTi)から認定を取得しました。また気候変動が事業にもたらすリスクおよび機会に関する情報開示を推奨する「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言趣旨への賛同も表明しています。

このような取り組みを契機として、2050年カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みや、気候変動に関する情報開示を推進するなど、当社グループは今後も地球環境に係る課題解決に注力してまいります。

3 パリ協定:世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの。

当社グループの成長戦略

モビリティ、エネルギー、コミュニケーションを重点分野として、社会価値の提供と中長期的な企業価値向上に取り組みます。

新型コロナウイルス感染症拡大をはじめ、当社グループを取り巻く経営環境も刻々と変化しています。経済社会のデジタル化、地球環境に係る課題への対応や、レジリエンスを高める取り組みを強化する動きが一気に加速化しています。こうした環境変化に対応できる体制を構築する一環として、これまで製造現場を中心に進めてきたデジタル化をさらに推し進めるため、2021年4月にDX推進委員会を設置しました。今後は私が先頭に立って、我々の強みであるSEQCDDの進化と発展のためのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進してまいります。

一方で、従来から想定しているCASE進展による新たなモビリティ社会の到来、再生可能エネルギーの普及によるエネルギーネットワークのスマート化、デジタル化進展による人と人のコミュニケーションの変容等に、今後も継続的に対応していくことに変わりはありません。

22VISIONでは、2030年頃にあらゆるヒト・モノが、情報通信や電力、交通等のネットワークを介してつながることで、社会全体の最適化が図られていく社会、すなわち「スマートな社会」になっていくという絵姿を示しました。地球環境に優しく、安全・安心で、快適さや社会の成長につながる価値を提供することにより、「モビリティ」「エネルギー」「コミュニケーション」の3つの領域がそれぞれ融合した未来の社会で、当社グループが産業や人々の暮らしを支える存在でありたいと考えています。

未来のありたい姿を実現するために、企業としては、具体的な目標達成に向けた取り組みの中で、将来、自分の会社だけでなく社会も良くするためにどのような投資をし、どのように事業を拡大していくかという点を、事業部門とも議論しながらよく見極めていきたいと考えています。

いま起きている時代の変化を追い風にできれば、モビリティ、エネルギー、コミュニケーションを重点分野に据えている当社グループにとって楽しみも大いに広がります。ステークホルダーの皆さまにおかれましては、今後の住友電工グループの躍進に、ぜひご期待いただきたいと思います。引き続き、格別のご支援、ご協力をお願い申し上げます。