小林 幹也

愚直に真面目に、「正しく」あれ 培ってきた知見が照射機を支え、守る

インターンシップで感じた「保全」の魅力

父親が機械加工の仕事をしていたため、幼い頃から身近に機械や工具がある環境で育ちました。自然にモノづくりに興味を覚え、工業系の高校に進学。卒業後はメーカー就職を希望しました。就職するにあたって、仕事の現場を知りたいと思い、地元の栃木・鹿沼にある住友電工電子ワイヤーのインターンシップに参加。この経験が、私の進路を決定付けました。工場見学時、社員の方々が、つなぎ服でヘルメットを被り、真っ黒になって大型設備の修理に取り組んでいました。その姿が率直に「カッコ良かった」。自分もこのような仕事をしたい、出会った社員の方々のように、設備や機械を理解できる人になりたいと思い、住友電工への入社を決めました。研修後に希望配属先を聞かれ、迷わずインターンシップで知った、設備・機械の故障対応を行う、当時の「保全掛」を希望。以来一貫して各種設備・機械の故障対応やメンテナンスの仕事に従事しています。

電子ワイヤー事業の心臓部

さまざまな設備や機械の中でも、住友電工の電子ワイヤー事業の心臓部でもあり、製品開発・生産の核心を担うのが「照射架橋装置(以下、照射機)」。照射機とは、加速させた高エネルギーの電子線を高分子材料に照射することで、架橋結合(分子間の強固な結合)という化学反応を引き起こす装置です。これによって、優れた耐熱性、耐摩性などの特性を得ることができ、生み出された電線などの製品は、家電、自動車などの幅広い分野に適用されています。この照射機の安定稼働を実現することが、私たちの重要なミッションの一つです。ただ照射機は高真空、高電圧という過酷な環境で作動するため、否応なく突発故障やトラブルが発生します。その際に照射機の状態を波形で可視化できる「電子チャート」で確認し、電流値、電圧値、真空値などから、どの部分に問題があるかを判断。原因を解明して、一刻も早い復旧を目指します。たとえば照射機を構成する機械の一つである電源タンク。2万Vという超高電圧のため、放電などのトラブルが発生すると重症化しやすい傾向があります。トラブル原因は過去の知見から仮説を立てて検討しますが、最終的には目視が必要です。そのため、電源タンク内の環境負荷の高い絶縁ガスを回収し、酸素濃度を確認してからタンクの中に入って問題の箇所を点検、故障対応を行います。まさに保全マンとしての真価が問われる仕事と言えます。

小林 幹也
小林 幹也

ターニングポイントとなった中国・蘇州での経験

照射機に関する知識やスキルは、先輩方からの熱血指導で吸収しました。「早く成長して即戦力になってもらいたい」という先輩方の想いが伝わってきました。照射機メーカーの担当者にも、定期点検などの際に指導を仰ぎ、また自身でも情報を集め、さまざまな機会を通じて貪欲に知識を吸収しました。しかし当初はミスも少なくなかった。電源タンク内に組み付ける素子の配列を間違えたことや、作業の過程で真空装置の蓋を傷付けてしまい、再度高真空化の作業が必要になったこともありました。先輩による確認で事なきを得ましたが、自分の未熟さを痛感し、それらを糧にして技術力の向上に取り組んできました。

私にとってターニングポイントとなったのが、中国への初めての海外出張です。住友電工の電子ワイヤーやファインポリマーの製造拠点がある蘇州で、量産化の要請に応えて新たな照射機の設置工事を担当しました。照射機のみならず付帯設備の設置工事も行いましたが、それまで国内で培ってきた照射機の知見がフルに発揮できたと感じています。言葉の壁や文化、商慣習の違いに戸惑いもありましたが、現地スタッフとコミュニケーションを深めることで乗り越えることができました。また新設ということもあって、照射機を構成するすべての機械・部品を見て、触れることができたことも、貴重な経験となりました。私は工事監督という立場でしたから、徹底した安全確保に注力しましたが、帰国後、「安全最優先」という意識がより強くなりました。蘇州での経験によって、技術者としてひと回り成長した実感があります。

最年少で「エキスパート」に

現在、工場として取り組んでいるのが「故障低減活動」。入社時から継続している活動ですが、技術革新が進んだことでIoT推進の一環として、センサの活用やメンテナンスボード導入による故障発生の予防など、かつての「事後保全」から「予知保全」に転換し、故障の極小化を目指しています。2022年春には、照射機トラブル対応に対する技能を評価され、最年少で「エキスパート」の認定を受けました。今後は後進の指導・育成も重要な役割となります。心がけていることは、設備改善の正しい知識や方法を、正しいカタチで伝えること。特に照射機は、高真空下、高電圧下で稼働する非常に危険な設備であり、極めて慎重・確実な対応が必要になってきます。間違った対応をすると故障の原因を誘発し、身体を危険に曝す可能性もあります。だから「正しさ」を徹底したい。また、復旧した設備が再び故障してしまう事態に陥るときもあります。私も経験がありますが、それは保全担当者にとって相当心が折れること。しかしそこでめげずに、再びトライすることが技術者としての成長を促します。その大切さを後進には伝えていきたいと思っています。

「保全」という業務の性格上、大切なのは愚直に真面目に取り組むこと。その継続が生産性向上に寄与し、そこにやりがいも生まれます。今後も照射機のみならず、設備に関する専門知識・スキルの吸収に努め、自他ともに認める設備改善のプロフェッショナルへ成長したいと思っています。そして周囲から頼られ、生産現場から必要とされる保全マンとなることが目標です。

PROFILE

小林 幹也

2009年4月
住友電気工業(株)入社
伊丹製作所にて研修

2009年10月
住友電工電子ワイヤー(株)
製造部 電線工場 保全掛(現・設備改善掛)配属

2017年~2019年
中国・蘇州に3回渡航し照射架橋装置新設の工事監督を経験

2018年1月
技術職から指導職に昇格

2019年~2021年
マレーシア・ジョホールバルに3回渡航し照射架橋装置新設の工事監督を経験

2022年4月
エキスパート*に認定

* エキスパート:住友電工では「モノづくり」の根幹を支える技能に焦点をあて、技能の維持・向上、継承を図るために、重要技能を有する社員を「エキスパート」として認定しています。小林は最年少で認定。

「正しさ」を受け継いだ後進たちが育っていく
「正しさ」を受け継いだ後進たちが育っていく

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