住友電工の流儀 藤永 利裕 住電半導体材料(株) 製造部 伊丹工場 Advanced Material掛

目標を宣言し、 そこに向けた努力を惜しまない チームと共に続ける業務改善魂

数多の改善は、チームの力あってこそ

「必ず次世代の半導体 InP(インジウムリン)を使った光通信の時代が来る。まだ世の中に出回っていない新しい技術に関わる仕事は、絶対に面白い」

これは、大学時代 InP の研究をしていた兄からのアドバイスです。それに納得した私は、住友電工に入社、化合物半導体である InP に携わる部署を希望し、半導体事業部に配属されました。化合物半導体は身近なスマートフォンや自動車から産業機械にまで幅広く使用されており、私たちの生活に欠かせないものです。その基板となるウエハは、材料の結晶を成長させた柱状の塊(インゴット)を薄くスライスして作られます。私は現在に至るまで、スライスに関わり、新規切断設備の立ち上げ、特殊製品スライスプロセスの開発などを行ってきました。

スライス工程では高価な化合物を扱うため、いかにロスを抑え、安定的に多くのウエハ(基板)を採取するかが難しいところです。若手の頃には上司や先輩、技術スタッフに助けられながら業務と向き合い、ワイヤーを購入する際には営業担当だけでなくエンジニアとも交渉して情報収集をしました。そしてそれらを参考にサンプル加工、データ分析を行い、PDCA* を繰り返し回すことで、設備・材料の特徴を習得するよう努めてきました。

そんな中、想い出に残っているのは、InP のスライスに高精度な角度が要求された時のことです。その時使用していた機器では、狙った精度を出すことができませんでした。そこで私は新しい機器の導入とプロセス改善を考案し、工場長にぜひ実行させて欲しいと手を挙げたのです。非常に高額な投資を行わなければならない提案でしたが、工場長は翌日にはメーカーを呼び、必要な機器の導入を決めてくれました。

当初は思うような成果が出せず一人で悩んでいましたが、理想とする作業プロセスをチームで共有して、問題点を一つずつ潰していく地道な改良を重ねた結果、ようやく目標とする精度に到達することができたのです。この事例をきっかけに、仲間と協力すればどんなことでもできることを実感。密なコミュニケーションを大切にしながらチームとして、切磋琢磨できる環境を作ることで業務改善も進み、製品の高い品質を保持できると確信しました。

*PDCA:Plan/計画、Do/実行、Check/評価、Action/改善の頭文字をとったもの。そのサイクルを繰り返すことで、管理業務を継続的に改善していく手法

チームメンバーと共に
チームメンバーと共に
後進の指導は欠かさない
後進の指導は欠かさない

心に刻まれた、大失敗をした時の上司の言葉

化合物半導体は対象製品により切断する条件・設備が異なってきます。切断にはワイヤーを使ったワイヤーソーという設備を使うことがあり、このワイヤーに求められるのは、製品の特性に合わせて、速く、精密に、安定した切り出しができることです。そのため私はメーカーに求めるワイヤーの条件を詳細に伝え、結果としてまだ成功例のなかった細線ワイヤーでの新規材料の切断技術の開発を成し遂げました。また、最新切断装置による新たなスライス技術の開発にも成功。これらの開発により、素材ロスを減らし、コストの低減を実現させたことが評価され、重要技能を有するとして 2015年にエキスパート認定を受けました。

ただ私も、ここまで順風満帆に来たわけではありません。業務改善のため、数多くの開発を行う中では、もちろん失敗もあります。とりわけ記憶に残るのが、材料である特殊結晶の切断機への置き方を誤り、初めて多額の不良損を出してしまったことです。別作業が重なったためのミスであり、これにはかなり落ち込みました。当然上司からのとがめを覚悟していましたが、「前向きに取り組んでの失敗は仕方ない。失敗を恐れて改善意欲を失う方が会社にとって不利益。今後も失敗を恐れず、どんどん改善に取り組むように」との思いがけない言葉をかけてもらいました。

この言葉は今も私の中にしっかりと根付いており、エキスパートとして後輩育成を行う時なども常に心に留めています。

プロとしてのプライドを持ち、常に高い目標を定める

前述した上司の言葉もあり、後輩育成において、私は「叱る」ということはしません。うまく作業できなくとも、なぜうまくいかなかったかを納得するまで話し合い、一つずつ課題をクリアしていきます。その際、後輩は、工場作業者だけでなく、技術スタッフなど関係者全員とリアルタイムで情報共有することが必要となります。この過程で彼らが技術を他者に指導できるだけのテクニックと、プロ意識を身に付けていく姿を見ると達成感を感じます。人はそれぞれ違った個性を持っていますから、それを見極め、その人にふさわしい指導を行うことが大事。その意味でも、私は指導者として日々磨かれていると思います。

現在、私は生産を行いつつ業務改善につながる開発を推進し、かつ後進の育成にも努めています。日々、前進できているのは、挑戦するマインドとモノづくりのプロとしてのプライドがあるからです。そして改善目標を常日頃から口に出し、実際の行動につなげ、目標達成のために周囲と協力しながら努力を重ねていくことを自らのモットーとしています。モノづくりは一個人の力でできるものではなく、あくまでもチームで行うものですから、共に働く仲間との関係性は重要です。環境を整えた上で、今後も世の中の進化に対し、柔軟に対応していく心構えを持って技術の世界の限界に挑戦し続けたいです。その過程では悩むことも多いですが、それは自身の技術を高めることにも結び付いており、一種の楽しさを感じることでもあります。

私は現在も、ある新技術の開発に向けて行動を続けています。その技術を早期に完成させることで、これまで以上のコスト低減と生産性のさらなる向上を実現できる予定です。このように、モノをつくりながら改善を積み重ねていくことが、製造現場の進化につながっていくと確信しています。

PROFILE

藤永 利裕

1990年
入社 半導体事業部 製造部 第二半導体工場 スライス掛

2001年
半導体事業部 製造部 半導体工場 InP掛 光スライス班 班長

2006年
住電半導体材料(株) 製造部 伊丹工場 光加工掛 主任代理

2012年
住電半導体材料(株) 製造部 伊丹工場 加工掛 主任

2014年
住電半導体材料(株) 技術部 AM*生産技術課

2015年
エキスパート認定(InP基板や新規材料のスライスならびに外周成型加工生産技術) : 継続中

2018年
住電半導体材料(株) 製造部 伊丹工場 AM掛 主任

現在に至る

*Advanced Material

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