光ファイバの歴史とともに歩んだ32年間
私の生まれ故郷はアメリカの北東部、ニューヨークに近いニュージャージー州です。進学した大学――バージニア工科大学は山岳部にある緑に恵まれた環境で、週末はよくカヌーやハイキングを楽しんだものです。今でも体を動かすことは大好きで、大阪マラソンにも2度参加した経験があります。
大学時代の専攻は物理です。そこで興味を抱いたのが当時製品化されたばかりの光ファイバでした。大学で学んだ物理理論を実際に製品にどう生かせるのかに興味があり、アメリカの大手国際電信電話会社に1978年に入社しました。その会社では「光ファイバの父」と呼ばれ、後にノーベル物理学賞を受賞する故チャールズ・カオ氏をリーダーとするグループで仕事をする機会もあり、この経験が、今後光ファイバの分野においてキャリアを築いていくことのきっかけとなりました。1982年にはニューイングランドにある光ネットワーク製品を扱う会社に転職、研究開発のチームリーダーを務め、様々な技術開発に携わりました。しかし、暖かい気候の場所で暮らしたいと思い、転職を決意。光機器メーカーを経て、1985年に現在のSumitomo Electric Lightwave Corp.(SEL)に入社しました。
住友電工とはニューイングランドで働いていた時代にビジネスパートナーとして接触があり、光ファイバの開発にとても力を入れていることを知っていましたから、私にとって理想的な環境でした。入社後は光ファイバケーブルの設計エンジニアとして技術開発に携わり、その後カスタマーサービス、製品マーケティング、製品管理、運用管理など多様な部門で業務を担当することになります。2003年には社長兼CEOに就任し、会社経営の舵取りを任されました。光ファイバが商業的に使用され始めた黎明期に入社し、数々の技術を開発し、北米市場で成功を収めた製品を開発したSELでの32年間はとてもエキサイティングなものでした。
立ち返るのは住友事業精神 そして透明性
SEL時代、マネジメントを行ううえで、私がもっとも大切にしてきたのが住友事業精神です。何よりも信用を重んじ、互いを尊重し合うこと。私はつねにそうありたいと願い、実践することを心がけてきました。難しい問題に直面した時、私は正しい決定と行動を導くために、そこに立ち返ります。住友事業精神は私のマネジメント哲学の根幹をなすものです。
2000年代前半に、私はあるセミナーで顧客を前に基調講演を行ったことがあります。その時、住友事業精神について少し触れたのですが、講演後、多くの方から感銘を受けたとの言葉をいただいたのがその部分でした。なかでも「お客さまにとって価値あるものが、自身にとっても重要なのだ(自利利他、公私一如)」という考え方は、当時、非常に斬新なものに映ったようです。日本的なものではありますが、その本質的な部分はアメリカのビジネスにも共通するものがあります。それを住友は守り、実践し続けてきました。これはとても素晴らしいことだと思います。
さらに、もうひとつ重視したいものがあります。それは透明性です。意思決定のプロセスを明らかにする。何のために、どんな理由で行動するか、その根拠を示す。実践時にオープンな環境をつくることがリーダーにとって必要な条件であると私は考えています。
困難に直面するたびに、共通の目標を念頭において、全体像をスタッフに伝えてきました。たとえば2008年に世界的な金融危機をもたらしたリーマンショック。私たちの顧客の多くがその余波を受け、投資を控え、注文を遅らせました。その危機に対して、私たちは事業全体のコストを削減することにより競争力を維持し、顧客を支援するという施策を貫きました。レイオフという血も流しましたが、残ったメンバー全員が目標に向かって結束し、ビジネスの効率化と顧客サービスの向上を実現することで、この危機を乗り越えることができました。
グローバルリーダーの一人として、つねにオープンでありたい
現在、私はグローバルリーダーの一人として、より広い視点から住友電工の事業を俯瞰する立場にあります。2017年からSumitomo Electric U.S.A., Holdings, Inc.(SEUHO)の代表取締役副社長に就任しました。SEUHOは北米市場を支援する地域本社で、グループ各社の横断的マネジメントの強化に努めています。また、アメリカエリアコミッティでも委員長を務めています。エリアコミッティは住友電工グループ各社から選出されたグローバル幹部がネットワークを構築し、各事業部門や地域での知識や経験を共有し、グループ全体のパフォーマンスを高めることを目的としています。私の役割はコミッティへのグループ各社の参加を促し、助言を行い、窓口となり橋渡しをすることです。
そのために私はより多くの声に耳を傾けたいと思っています。これまで、私は仲間たちと同じ目的意識を共有し、力を合わせて問題を解決してきました。何ごとも一人で成し遂げることはできないのです。住友電工のグローバルリーダーの一人として、私はつねにオープンであり、皆さんのアイデアを大切にしていることを知ってほしいと思います。住友電工は幅広い市場と技術にまたがるグローバル企業です。世界の地域、事業の現場からの一つひとつの声に耳を傾けることこそが、私たちの会社の戦略とビジョンにつながると確信しています。
PROFILE
フレッド・マクダフィ Fred McDuffee
1985年
Sumitomo Electric Lightwave Corp.(SEL)入社
1999年
SEL副社長就任
2003年
SEL社長兼CEO就任
2017年
現職
※2014年よりSumitomo Electric Group Executive Conferenceメンバー、アメリカコミッティ委員長