「病院情報システム」で培った技術力とモノづくりへの情熱
中学生の頃からコンピュータに興味がありました。コンピュータが未来を拓く大きな可能性を持っていることを、子どもながらに感じていたのだと思います。そのため、大学・大学院への進学に際しても、情報系の学科を選択しました。大学院での研究テーマは、太陽熱発電効率の向上を目指した、コンピュータ・シミュレーション。そこには、実用化が期待でき、社会に役に立つものを作りたいという想いがありました。大学院で学んだことを活かし、システムそのものを販売するのではなく、システムで新たな付加価値を付けて提供する仕事に就きたいと考えていました。住友電工の情報通信分野の取り組みは、そうした考えに合致すると強く惹かれて、入社しました。
入社以来、18年間にわたって担当したのが電子カルテシステムを中心とした「病院情報システム」の構築です。信頼性の高いシステムインフラ、電子カルテ記載システム、システム全体のアーキテクチャ設計に携わりながら、多彩なモノづくりの基礎を身に付けた時期でした。また、5年間にわたり、中国で展開したソフトウェアのオフショア開発(海外の会社にアウトソースすること)は、技術者として一つの気付きを与えてくれた取り組みです。プロジェクトリーダーとして、最大120名の技術者を相手にプロジェクトをマネジメントしていくことがミッションでした。痛感したのが「人と人とのつながりの大切さ」です。文化も価値観も異なる人たちと協働してモノを作っていく、そこには当然厳しさもありますが、それ以上に個々の技術者の情熱や熱意、あるいは豊かな人間性に触れる機会が多く、改めて「ソフトウェアは人が作る」ということを確信する日々でした。
テレマティクス事業の新たな挑戦
スマホ用アプリ「Yahoo!カーナビ」誕生
2013年、私が担当していた「病院情報システム」事業の再編があり、新たにテレマティクス事業の部署に配属されました。技術者として、新しい分野へのチャレンジを考えていた私にとっては絶好の機会。そして、この異動が技術者としてのターニングポイントになったと思います。私が新たに取り組むことになった「テレマティクス」とは、テレコミュニケーション(遠距離電気通信)とインフォマティクス(情報処理)から作られた造語で、自動車などの移動体に、携帯電話などの移動体通信を利用してサービスを提供することです。たとえば交通渋滞予測や最適ルートなどの情報提供、地図情報配信、安全・エコ運転支援ソフトウェアなど、自動車や輸送車両の安心・安全機能の実現や情報配信による利便性の向上を目的としたものです。将来的には高度道路交通システム(ITS)の一端を担い、たとえば自動運転実現に向けたインフラ整備に関わるなど、道路交通に関するトータルソリューションを目指しています。そうした幅広い取り組みの中で、私が関わることになったのはスマートフォン向けのナビゲーションのアプリケーション開発でした。
当時、当社のテレマティクス事業は伸び悩んでおり、新ビジネスへの挑戦による新たな収益の柱が求められている時期でした。当社は、テレマティクス黎明期から参入しており、カーナビゲーションや地図、サーバソフト(経路探索や交通情報配信等)などの技術には高い評価を獲得していました。それら実績をベースに、スマートフォンアプリ用の開発キットとして提供し、テレマティクス技術を新たなユーザ層に展開することで競争力を確保する戦略でした。
お客様はポータルサイト「Yahoo!JAPAN」を運営するヤフー(株)。私はプロジェクトリーダーとして、チームマネジメントおよびお客様との折衝を担当しました。競合カーナビアプリとの差別化として打ち出したのが、高精度位置検出、高速経路計算、地図更新頻度の高さです。また我々はナビソフト開発環境の提案からナビ機能の製品化まで、お客様が言うところの“爆速”という速さで対応することを心がけました。あらゆる側面でのこだわりやご要望を十分に理解するため、お客様のもとへ何度も足を運び直接話を伺いながら、具現化に向け一体となって取り組みました。そうして生まれたアプリは、最終的に「Yahoo! カーナビ」として2014年7月にサービスイン。2018年8月で1400万ダウンロードという実績を築いています。
人間力を高め魅力的な人間に成長する
それがモノづくりを前進させる源泉
「Yahoo! カーナビ」はその後もバージョンアップを重ね、ナビの高度化を進めています。
新たな事業の道筋を作ったことが認められ、本プロジェクトは、住友電工グループが5年に1度実施しているグローバル表彰世界大会で最優秀賞「GE賞(Glorious Excelent)」を受賞することができました。私自身は、2018年4月からマネジメント職に着任したことから物流システムや移動ビッグデータビジネスなど、モバイルソリューション事業全体を推進する立場になっています。目指すのは、自分たちの取り組みからコアとなる事業を生み出し育てること。また現在は車両の移動にフォーカスした取り組みですが、近い将来、「人の移動」全般を射程に置いた利便性の高いモノの創出に取り組みたいと思っています。
システムやソフトウェアの技術者にとって、一番うれしいのは「便利だね」と言われたときです。その言葉を一つでも多く聞くために、単に技術力を磨くのではなく、高い人間力を持ったメンバーで構成されるチームを作っていきたい。ソフトウェアを作るのは人間です。だからこそ人間力を高め、人と人とのつながりを大切にし、そして魅力的な人間に成長する必要があります。それがモノづくりの核心にあると考えています。
PROFILE
八川 剛志 Takeshi Hachikawa
1995年
住友電気工業(株)入社
1999年〜2002年
米国で米国製電子カルテシステムの日本市場対応検討
2004年
東芝住電医療情報システムズ(株)
2013年
住友電工システムソリューション(株)
2018年
現職