燃料電池、水素発生装置の部材など新用途を追究
アルミニウム、ニッケルなどをベースとした高品質・高性能な電気・電子材料を製造し、住友電工グループ内外に供給しているのが富山住友電工です。
主力製品のひとつである多孔質金属体のセルメットは、気孔率最大98%というスポンジのようなユニークなメッキ製品です。熱伝導性・電気伝導性に優れ、切断やプレスなどでさまざまな形状に加工できる特性を持ち、ハイブリット車載用電池の集電体に使われています。
セルメットの主な材料はニッケルですが、ニッケル合金や他非鉄金属の多孔体も製造できるため、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を中心とした新たな用途開発を進めているところです。燃料電池、水素発生装置、次世代電池などの用途に応用が可能であり、期待の集まる水素社会に貢献できます。
もうひとつの主力製品は、連続鋳造圧延設備で製造する各種アルミ合金線材とその加工材、そして電子リード線です。軽くて電気を流しやすい特性から、電力ケーブル用素材と自動車用アルミハーネス素材に使われています。さらに合金にすることで強度を増すアルミの特性を生かして、自動車用各種高強度部品用素材に使われており、CASEの進展に役立っています。
GXやCASEをはじめ、社会・産業の変革が進むなか、住友電工グループでは変化に対して、的確、迅速かつ柔軟に対応していくため、2030年を節目とする長期ビジョン「住友電工グループ2030ビジョン」を策定しました。私たち富山住友電工もモノづくり力を発揮し、住友電工本体の営業・研究と三位一体で取り組みを加速させ、2030ビジョンに向けてチャレンジを重ねています。
「絶対に供給を切らさない」使命感のもとに
富山住友電工のミッションは、まず住友電工グループ内への安定供給の責務を果たし、グループ内で付加価値をつけてもらって社会に貢献することです。もうひとつのミッションは、セルメットをはじめとした独自の素材で持続可能な社会に貢献することです。これらを両立しなければなりません。
入社以来、国内外で主にケーブルの導体となる銅荒引線の製造に携わってきた私には、高品質な素材を安定供給することはDNAのように刷り込まれています。最上流の素材の供給が遅れると住友電工グループをはじめ社内外のお客様の事業が停止するリスクが大いにあり、絶対に供給を切らさない。その思いを一層強くしたのが海外駐在でした。
電気・ガス・水が不十分な現場でプロジェクトを指揮
初めての海外駐在は、1993年から5年間のシンガポールでした。巻線工場の一画に銅荒引線の工場が立ち上がり、当時29歳だった私は日本から一人、銅荒引線の技術者として赴任し、銅荒引線工場を任されました。国内では導入実績のない、電気的に難しい設備を導入したことで、電気トラブルで苦労しながら、巻線工場への供給責任を果たす重責をひしひしと感じました。
その1年半後にはインドネシアへ。月15,000トン級の銅荒引線連続鋳造圧延設備の導入が決まり、プロジェクトリーダーを任されました。ところが実際は電気・ガス・水も十分でない環境のなか、「こんなところで本当にやるのか」と気が遠くなる思いがしました。まず井戸を掘ることから始め、電力会社変電所から数キロ、人海戦術で道路横に穴を掘ってパワーケーブルを敷設する工事が続きました。トラブル続きの試運転の途中に、アメリカ同時多発テロ事件の発生でアメリカの技術者が全員帰国するという予想外の事態も起きました。苦労は多かったですが、無事に設備が稼働した後は大きな達成感を得る良い経験となりました。
「モノを製造する」という点では、日本と海外では考え方やその元となる文化が異なる場合が多いと感じます。しかし共通して言えるのは、相手を理解しようと努めてコミュニケーションを工夫し、共に汗を流して向き合えば、考え方の違いは超えられるということです。最終的にはグローバルスタッフの助けにより解決できる、という経験を重ねてきました。
あらゆる専門家がいる。住友電工グループの財産
海外駐在では、一人では解決できないことが山ほどありました。私が技術者として赴任したときは、住友電工グループの研究開発部門や生産技術部門のメンバーに助けてもらいました。
その後、社長として赴任した際は、人事・経理・法務といったコーポレートスタッフを含む専門家の皆さんに力を貸してもらいました。こうした専門家集団は、住友電工グループの財産だと思います。
電線事業から始まり、さまざまな事業を派生させて変容してきたのが住友電工グループです。変容するなかで実に多様な素材を開発し、それらが今、社会の多くの場面で活用されている、珍しい企業グループだと思います。
今後もグループ内の各事業が社会ニーズを共有してコラボレーションし、グリーンな地球と安心・快適な暮らしの実現に寄与できるはずです。
20代の私を海外へ送り出してくれた上司の懐の深さ
入社から35年以上が過ぎましたが、「住友電工グループの一員でよかった」という思いは揺るぎません。海外に1人で出されたこともありますが、今思えば20代の若手を信じて任せる会社には懐の深さがあると思います。私を送り出してくれた上司の言葉はシンプルに「キミのことは現地社長に良いように伝えているから」でした。懐の深い上司にも恵まれました。
現在は富山住友電工の社長として、事務所だけでなく、できるだけ現場に出て社員に声をかけ、声を聞くことに努めています。ささやかですが、日々大切にしていることです。
リーダーが心に余裕を持つことで、職場の風通しは良くなります。簡単ではありませんが、「懐の深い」リーダーを目指し続けます。
PROFILE
南条 和弘 Kazuhiro Nanjo
1986年
住友電気工業株式会社 入社 導電製品事業部
2010年
P.T.KARYA SUMIDEN INDNESIA 社長
2014年
導電製品事業部長
2018年
SEI THAI ELECTRIC CONDUCTOR CO., LTD. 社長
2021年
富山住友電工株式会社 社長
執行役員