住友電工の流儀~小路 元~

化合物半導体で限界と常識を超えていく 加速する生成AI、切迫する消費電力削減化に向けて

最先端の光通信・無線通信用デバイスを研究開発

情報通信ネットワークを支える2大システムとして、光ファイバを利用する有線の「光通信」と、電波を利用する「無線通信」があります。住友電工グループは光と無線の両方の市場に向けて、化合物半導体デバイスと関連製品を展開しています。
化合物半導体は、シリコン半導体では実現できない各種領域で広く利用されているデバイスであり、住友電工はこのパイオニアとして各種材料を開発してきました。光通信と無線通信、両方の化合物半導体材料を製造しているメーカーは世界でもほとんど例がなく、住友電工グループの大きな強みです。

この強みをさらに進化、発展させるべく研究開発を担っているのが、私が所長を務める「伝送デバイス研究所」です。最先端の光通信・無線通信に用いられる化合物半導体デバイスと、それらを支える材料を開発するとともに、デバイス技術の非通信市場への展開も進めています。

伝送デバイス研究所が掲げるミッションは、「化合物半導体材料とデバイスで人・暮らし・地球をつなぐ」です。事業の発展と新事業創出に貢献する研究開発集団として、とくに意識しているのが、常に世界のトップランナーを目指し続けることです。グローバルな競争を勝ち抜く研究力を磨くことに力を注いでいます。

「光電融合」に向け、住友電工グループの総合力で挑む

生成AI用データセンタ向けの超高速デバイスの需要が高まるなか、住友電工グループがそのニーズに応えています。今後はデータセンタがAI用の巨大コンピュータになり、通信とコンピュータが融合する時代が来ます。そこに向けてどういった技術を開発し、いつ世の中に出していくのか、特に社会課題である低消費電力化に向けた研究開発を進めています。

さらに先を見すえ、化合物にとらわれない他の技術との融合により、新しい価値創出にも挑んでいます。なかでも力を入れているのが電気信号を扱う回路と光信号を扱う回路を融合する「光電融合」です。ネットワークの高速化を支えてきた光デバイスのスピードアップが物理限界に近づくなか、集積化が得意で光らないシリコンと、光る化合物を組み合わせて限界を突破し、新しい機能や価値を生み出していきます。

2社の統合を成功させ、世界で類のない事業を実現

光電融合の実用化に向けて、伝送デバイス研究所のみならず、住友電工グループの光通信研究所や情報ネットワーク開発センターと連携して研究を進めています。そのなかで私が実感するのは、光電融合に関するほぼすべての材料・技術を持っている住友電工グループの強さです。ガラスに化合物半導体、ソフトウェア技術と、すべて持っている企業は世界でも稀です。住友電工グループの広いポートフォリオが、技術開発でも強みとなって生きています。

さらに、光デバイスと電子デバイスの両方を展開する企業は、住友電工グループを除けば世界的に非常に稀です。これは、光デバイスの富士通と電子デバイスの住友電工が統合*したことで獲得できた貴重な資産です。2つの会社の統合は難しいケースが多いなか、私たちの場合は非常にうまく進み、ビジネスとして結実しています。

*光デバイス、電子デバイスの開発・製造を担う住友電工デバイスイノベーション(株)は、富士通と住友電工の合弁によるユーディナデバイス(株)と、住友電工との事業統合により2009年に設立されました。

なぜ、それができるのか。私は住友電工グループのポートフォリオがなせる技だと考えます。広いポートフォリオの視座があるからこそ、柔軟に他の技術を受けとめ、連携させて社会に押し出せる。この優位性を究めていくことで、当社グループが唯一無二の存在になる可能性がある。私のみならず、多くの社員が思っていることではないでしょうか。

半導体レーザーの最高峰の国際学会で論文発表

私は大学院を出た1990年から2003年まで、富士通研究所に勤務していました。その後、富士通と住友電工の合弁によるユーディナデバイス(株)(現、住友電工デバイス・イノベーション(株))に7年間在籍し、当社への出向を経て、2022年に転籍しました。
長い研究者生活のなかで最も印象深いのは、半導体レーザーの専門家として基礎から実用化研究までを幅広く手がけ、研究に没頭した30代前半です。そのご褒美のように、1996年にイスラエルで開催された半導体レーザーの最高峰の国際学会で論文が採択されました。トップ研究者が集まる学会で発表ができたことは、大きな喜びでした。

この成果は、2016年に化合物半導体の国際学会で基調講演を行うことにもつながりました。
演者に選ばれたのは大変光栄で、個人としてだけではなく、住友電工グループの存在感を社会に示すという点でも意義がありました。現在も学会活動を継続して社外との接点を維持し、知識の融合や次世代育成に努めています。

30年以上にわたり多様な技術・製品の開発に関わるなかで、いくつもの失敗があり、世に出るまで十数年間泣かず飛ばずの製品もありました。だからこそ所内では「もっと研究しよう」と伝えています。
競争環境のもと不確実性の中での研究では、10年後を想定した技術方法が10個あったとしても、すべて同じリソースをかけて研究はできません。しかし3個程度なら同時進行できるかもしれない。であれば残る7つをいかに早く失敗し、使えない技術だと証明するか。選択肢から外れる技術だと早々に見いだせれば、高効率の研究が可能です。「失敗も重要な資産であり、場合によっては成果になり得る」と、所内で常々話をしています。

「笑顔」がコミュニケーションと風土づくりの本質

意識してきたつもりはないのですが、周囲の人は私の「笑顔」の印象が強いようです。確かに笑顔での対話によってコミュニケーションの質が上がり、相手に安心感を与えることができます。それが結果として、職場の風通しの良さにつながると感じています。
最近心がけているのは、自分から足を運ぶことです。部屋のドアはオープンにしていますが、思いついたら若手の席へ行き、「これ、教えてくれないかな」と声をかけます。技術論を交わすのに役職・立場は関係ありません。むしろ最先端の情報を持っているのは若手です。対等な議論があってこそ、研究開発の競争力が磨かれていきます。

PROFILE

小路 元 Hajime Shoji

2009年
住友電工デバイス・イノベーション(株)入社、伝送デバイス研究所に出向
次世代プロセス研究部長

2011年
高集積プロセス研究部長

2019年
光素子研究部長

2021年
伝送デバイス研究所長

2023年
執行役員

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