光ネットワークを支える技術革新に挑む
データトラフィックが増大するなか、高度情報化社会を支える光ファイバ・ネットワークの構築・保守に不可欠な製品のひとつが光ファイバを接続する融着接続機です。光ファイバ・光ケーブルのパイオニアである住友電工グループが1970年代から開発を手がけ、現在、私の所管する情報通信事業本部 光機器事業部が担当しています。
光ファイバネットワークの構築には、光ファイバ同士をつなげる接続が不可欠です。特に高い信頼性が要求される長距離・大容量の幹線系光ファイバネットワークでは、約1,800℃のアーク放電により、石英ガラスである光ファイバの端面同士を溶融させて接続する、光ファイバ融着接続技術が必要とされます。光が通るコア同士を、1マイクロメートル(0.001mm)以下の高い精度で調芯、位置決めしないと軸ずれによる光接続損失が起きてしまいます。接続損失を抑え、工事の作業効率アップに貢献すべく私たちは技術革新に取り組んできました。
お客様の切実な悩み解決が開発テーマ
しかし融着接続機市場では、何秒で光ファイバをつなげるか、どれだけ機器を小型化するかといったスピードとサイズの競争が続き、各社手詰まりな状態が続いていました。
光機器事業部長に就いた私は「世界を驚かせる新製品を開発しよう」とエンジニアたちと対話を開始しました。そこであることに気づいたのです。開発に「夢がないこと」でした。
「夢の融着接続機を開発しよう。どんな夢かを考えてほしい」
開発チームにオーダーを出した結果、チームが出してきたテーマは「失敗しない融着接続機」でした。光ファイバを融着する際は端部をカッターで切断しますが、切断面がフラットでなければ融着は不可能であり、10回に1回程度、断面不良による接続作業やり直しが出てしまうのは不可避だと考えられていました。天候に左右される屋外での融着作業は断面不良が出やすく熟練の技術が求められ、寒冷地の電柱上でやり直しが発生すると工事は困難を極めます。これまでの常識を覆す「失敗しない融着接続機」でお客様の切実な困りごとを解決したい。開発チームが掲げた夢に、私はゴーサインを出しました。
”夢の融着接続機“で世界の光をつなぐ
世界初、AIとDX技術を搭載したコア直視型光ファイバ融着接続機「TYPE-72C+」が完成。2020年10月に販売開始となりました。独自のAI技術「NanoTune™」を搭載することにより、光ファイバ切断面が欠けるなどの不良があっても融着接続機が判断し、ナノメーターレベルで融着条件の微細なチューニングをして失敗を防ぎます。融着作業のスキルレス化が実現しました。
さらに1つ前のモデル「TYPE-71C+」に搭載したDX技術 「SumiCloud™」を進化させました。各種消耗品の交換時期をお客様のスマートフォンに通知する予防保全機能を充実させることで予期せぬトラブルを防ぎ、常にベストな融着品質をサポートしています。
おかげさまで「TYPE-72C+」は、発売以来お客様から大変好評をいただいています。開発チームは活気づき、製品のさらなる進化はもちろんのこと、若いエンジニアが積極的に参画して次の夢に挑んでくれています。夢の融着接続器が、今後世界中で拡大していく光ファイバネットワーク網の構築に貢献できると思います。
絶対あきらめない。アメリカの経験から学ぶ
私が常々若い人に伝えているのは「夢を持とう。諦めなければ、きっと実現できる」という言葉です。意外性があって、できるだけ大きな夢がいい。コスト計算から入るのではなく「面白そうだ」と思うものに対し、強い意志と熱量を持って挑んでほしいと。それは私が実際に経験してきたことです。
入社5年目の1989年から、アメリカにある光ケーブルの製造子会社に3年間駐在しました。住友電工グループがBell系電話会社へ初めての参入を目指していた重要なタイミングで、現地で初の光ケーブル開発にあたりエンジニアとして赴任したのです。開発設備のすべてが現地になかったため、一部は日本の設備を使って製造し、それをアメリカに持ち帰って試作品を完成させようとしていました。アメリカで試作に立ち会った私が製造エンジニアにあれこれ注文をつけていると、プライドを持って仕事をしていた彼が怒りだし、厳しい言葉の応酬が続きました。しかし、新しいビジネスにつなげる重要な試作品です。開発エンジニアとして譲ることはできません。結局、私たちの様子を見守ってくれていた工場のオペレーターのみなさんと共に、目指す試作を完遂。その製品によって初参入が実現しました。強い意志をもって諦めない大切さを学んだ経験です。
目標の共有を最優先。中国での実践で知る
仲間と夢を掲げ、熱量をもってやり遂げる経験をしたのが中国赴任中です。2010年から6年間、ローカル企業との合弁会社に総経理として駐在しました。中国人の副総経理とは考え方や仕事の手法がまったく異なり、当初は戸惑いました。物事を整理して最も効果の大きいところから着手するのが私たちですが、彼らは驚くほどのスピードで物事を進めていきます。言葉の壁があり、現場とのコミュニケーションも難しい。仕事前と帰宅後、必死に中国語を勉強しました。
やがてお互いの共通目標が「FTTH(Fiber To The Home)用現地付けコネクタでの中国国内トップシェア獲得」だとわかると、「目標が一致していれば方法やプロセスはさまざまあっていい」と考えられるようになりました。グローバルで生き抜くとはそういうことだと。 以降、多様性を生かし、ビジネスに必要なローカル色を尊重した組織づくりに力を注ぎました。同じ夢を追う仲間として副総経理と信頼関係を積み上げていくなか、私がピンチのときには矢面に立って守ってくれることもありました。中国トップシェア獲得を実現したときに、現場のみなさんにかけてもらった言葉は忘れられません。
「末次さん、これからもずっと一緒にやりましょうよ。」
一人ひとりが誇りを持てるチームをつくる
今、私が描く夢は、融着接続機の世界シェアナンバーワン獲得であり、光機器事業におけるリーディングカンパニーになることです。事業部のみんなが自信を持ち、楽しんで取り組んでくれており、実現に近づいています。最も大きな夢は、一人ひとりがメンバーであることに誇りを持てる、安全で生き生きとしたチームをつくることです。そうしたチームであってこそ、お客様の困りごとや社会課題の解決につながる、より付加価値の高い製品・サービスを生み出せると思います。
これからも私たちは挑み続けます。
PROFILE
末次 義行 Yoshiyuki Suetsugu
1984年
住友電気工業株式会社 入社 研究開発本部 横浜研究部
1989年
Sumitomo Electric Fiber Optics Corp.(ノースカロライナ)赴任
2000年
横浜研究所 光線路研究部 主任研究員
2003年
光機器事業部 光回路製品部 光部品技術グループ長
2010年
南京普住光網絡有限公司 総経理
2018年
光機器事業部長
2020年
執行役員
光機器事業部長
住友電工オプティフロンティア代表取締役社長
現在に至る